小学生から関西ダイバー、セミナーまで、出会いの一週間~今週の編集長・多事総論~
今週は、出会いの一週間でした。
2013年1月19~21日は岡山県の倉敷で4つの講演、その後、大阪に立ち寄り、ダイビングショップの方と懇親会、東京に戻って1月25日(土)はセミナー、そして本日1月26日(日)は同世代のガイドやダイバーさんと懇親会です。
新鮮だった、ノンダイバー対象の講演
倉敷の講演は、老舗旅館のゲストたち、小学生、婦人会など、ダイバーでない方を前に世界の海や東北の海の話をさせていただきました。
ダイバーを前に話すことはちょくちょくありますが、ノンダイバーを前に話すというのは初めての経験。
どんな反応があるのか楽しみでもあり、不安でもあったのですが、渦巻くギンガメアジ、光とブルーのロタホール、可愛い海獣たち、などなど、今まで見たこともない美しく迫力ある写真に、皆さん、とても目を輝かせ、食い入るように見つめていました。
越智カメラマンの写真がどれも素晴らしいので、僕はキャプションみたいな役割です(笑)。
新鮮だったのは、皆さんの反応する写真。
ダイバーの皆さんとは若干違うんですよね。
自分のようにそこそこいろんなところを潜っていると、どれも見慣れてしまっているのですが、ダイバーでない方にとっては驚きのシーン。
彼らが驚いたり、喜ぶところを見て、初心を思い出したのでした。
皆さんの反応が大きかったのはやっぱりサメ。
怖いというイメージがまだまだありますから、こんなに近づけると知って驚いたようです。
伊豆の写真を見て、「きれ~い」と言っていただいたのは嬉しかった。
実は身近な日本の海にも素晴らしい海がたくさんあることは、いろんな人に知って欲しいですね。
岩手のサケのシーンも印象的だったようです。
放精という貴重な瞬間ということもさることながら、震災直後の瓦礫の川をダイバーたちが撤去してからの遡上、というドラマ自体に思うところがあったのかもしれません。
あとは、一応、お笑い要素として入れておいた水中ヌードは完全にスベリました。
なんか、写真に写っている某ガイドさんがすべったみたいになってしまって、ごめんなさい…。
僕らオーシャナのポリシーに、「ダイビングと海の楽しさを多くの人に」「ダイビング人口の増加」というものがありますが、そのためにはダイバーでない方への情報発信が大事。
そして、水中写真や水中世界のエピソードが、老若男女問わず、訴えかける力を持つことを実感したので、今後もこうした活動はしていきたいと思います。
特に小学生たちが目をキラキラさせて、「ダイビングやってみたい!」と言ってくれたのは嬉しかった。
子供たちは、この体験はすぐに忘れてしまうでしょうが、きっと心の中に芽が残り、いつか大人になったときの海へのきっかけになれば嬉しいです。
関東ダイバーと関西ダイバーの違いなど
大阪のダイビングショップの皆さんと
岡山の次は大阪へ。
ダイビングショップの方たちと懇親会を開催。
ひと世代前にはショップ同士の横の連携はほとんどなかったそうですが、ダイビング界の盛り上げや危機感もあって、若いショップオーナーを中心にまとまる動きがあるようです。
都市型のダイビングショップは、その物販や囲い込みへの意識の高さに、時に否定的な意見も出ますが、その存在意義とやるべきことは、先日の連載記事での田原さんの言葉に集約されています。
「私は、ダイバーの継続的な成長、継続教育、あるいは、個々の個性を把握したインストラクターによる個々に合わせた対応という部分で、都市型のダイビングショップの存在に大きな意味を感じます」
「従って、都市型のダイブショップ(ただし、マインドもレベルも、共に高いことがマストですが)の存在が難しくなる環境は、ダイビング自体、ダイビング市場の健全な発展にはマイナス要素になるような気がしてなりません」
中心メンバーの河本さんは、「インストラクターの地位の向上」を目指し、皆で勉強し、まとまって行動することの大切さを強調していました。
今後の動きに注目したいと思います。
ところで、関西ダイバーと関東ダイバーの違いがおもしろかった。
まず、関西ダイバーは、嫌なことはキッパリ断るという話。
例えば、海に行って、1本目でテンション下がっても、関東ではいろいろ空気を読んで2本目も行くことが多いのに対して、関西ではきっぱりと「疲れたからパス」(笑)。
逆に、いくら説明してもその目で確かめないとなかなかあきらめないという話も。
例えば、関東では、ツアーに行って海況が悪かったら、イントラから説明すれば「仕方ない」とあきらめるところを、関西では、とりあえず海に出て、「なっ?」と潜れないことを確認させないと納得しないとか。
僕も取材で写真への写り込みを頼むとき、伊豆では「いや、自分はいいです…」とか周りに様子を見て何とか写真に写ってくれることが多いのですが、関西だとあっという間(笑)。
「事務所通してや~」「全国デビューや」「毛穴修正しといて~」みたいなノリで、違う文化圏だな~としみじみ思ったものです。
あと、関西ショップの皆さん、オシャレでイケメンぞろい。
海が商品の現地ガイドと違って、より自分自身が商品ということを意識していて、「まずはイントラがかっこよくないとあかん」と自分を磨いている印象です。
イントラがモテるのは、いいことですね。
セミナーで実感した
データの大切さ、分母の大切さ
オーシャナで連載中の高野さんによるセミナー「データでわかるダイビングの本音と建て前」。
「インストラクターも習熟度が低いと思ったままCカードを発行している」とか「“はぐれる”がヒヤリハットの一番だが、はぐれた時の適切な対処を意外と知らない」など、いろいろな課題が見えてきました。
高野さんの活動の意義は、内容もさることながら、皆が「何となくそうだろうな」とモヤモヤ思っていることにくっくりと輪郭を与えてくれること。
どんなことでも、エビデンスを示して証明することが大事ですが、統計に基づいて、ダイビング界でこうしたデータ研究をやっているのは高野さんだけ。
しかも、その研究は一銭にもならず、むしろ安くはない学費はもちろん自腹。
では、なぜやっているのか?
「インストラクターになりたいと相談を受けた時、はっきり自信を持って“やりなさい”と言えない自分がいた。むしろ、大変だからやめておけばと言う自分がいて、誇りの持てる業界にしたかった」という志から始めた研究なのです。
今後も研究のためにダイバーやイントラ・ガイドの協力は不可欠なので、ぜひ皆で協力したいですね。
※
こうしたダイビング事故や減圧症などに関するデータでいつも問題になっていたのが、データの分母。
例えば、海上保安庁の事故データで件数だけわかっても、分母(つまりダイビング本数や人口など)がわからなければ、増えたも減ったもへったくれもないわけで、減圧症も同じです。
高野さんもそうしたデータの充実をライフワークにしていきたいとおっしゃっているので、本当にがんばっていただきたいです。
ひとつのヒントとして、以前、やどかり仙人さんが書いたコラムで、ダイビングの死亡率を表す時の分母として、DAN保険への加入者という実例がありました。
また、入海料や協力金を払うダイビングエリアであれば、ある程度の根拠ある分母となり得るかもしれません。
画期的だった“息語らえ”
~今週の連載より~
今週の連載で感動したのが、山中さんの息ごらえの話。
潜降できないダイバー必見!息こらえでオーバーウェイトを解消できる理由 | オーシャナ
講習時やダイビング前に息ごらえをすると、ストレス耐性が増え、潜降もしやすくなるという話は画期的でした。
講習で採り入れようと思うインストラクターもいるのではないでしょうか。
※
減圧症の再圧治療の現場はあまり目に触れることがありませんでしたが、恭子さんの連載で、装置を公開してくださいました。
減圧症治療の流れと装置を公開!再圧治療ができる施設が全国に少ないわけ | オーシャナ
さらに、自分が入っているお茶目な写真まであり、何だか、冷蔵庫に入って問題になったコンビニバイトを連想しちゃいました(笑)。
高気圧治療というとハードなイメージがありますが、現場の様子がわかると親近感もわいて、距離がぐっと縮まりますよね。
反響が大きかったのが、海への落とし物を拾うことへのガイドのためらい。
海への落とし物はガイドが拾うのが当たり前?再潜降で減圧症になるケースも | オーシャナ
きっと多くの人が思っていたことだったのでしょう。
コメントにもありましたが、あの記事の後、若手ガイドのアンカーがけの問題の指摘もいただきました。
いずれご紹介します。
ガイド、イントラ、ダイバー問わず、現場からの声はなるべくご紹介したいので、ぜひ気軽にメールくださいね。
お問い合わせ | オーシャナ
市長選で揺れる辺野古の海
名護の市長選で基地移転反対派の当選により、メディアでも多く取り上げられた辺野古。
思わず、辺野古・大浦湾を見つめ続けてきた、第一人者のカメラマンの中村卓哉君の顔が頭に浮かびました。
複雑な政治的背景を持ち、いろいろな利権が絡み、得体のしれない団体が跋扈する世界ですから、卓ちゃんも発言はとても慎重で、埋め立てに反対とも賛成とも軽はずみには言いません。
彼の名著「わすれたくない海のこと
」は反対派の根拠に使われることもあるようですが、プロバガンダに使われることには複雑な思いを抱き、一定の距離を置いているように見えます。
現場に行ったことすらない僕は、距離感をはかりながら慎重に発言せざるをなく、「外交上の問題もあるし、なかなか難しいよね」と当たり障りのないことを言うと、「なんでよりによって辺野古なんだろ…」とポツリ。
卓ちゃんによれば、辺野古・大浦湾は、沖縄の中でも特別な海で、森と海がつながった生物の多様性の海で、まさに地球の生命の循環の縮図なんだとか。
「とにかく見て欲しい」ということで、今年、なんとか潜りたいと思っています。
潜っても埋め立ての是非に対する結論は簡単には出ないと思いますが、もし、埋め立てることがゆるぎないとしても、失う代償の大きさ・痛みを知ることには意義があるはずです。