幼少期の記憶をたどって北の海へ。佐藤長明さんによる連載スタート

志津川の海(撮影:佐藤長明)

「夏休み」真っ黒に日焼けして、今日も自転車に乗って向かうのは海。
自転車のカゴには足ヒレと水中眼鏡。
友人と連れ立って自然と競争が始まる。

早朝に虫採りをして昼寝をすませ海に着く頃にはヒグラシが鳴き始める。
一気に息を吸い込み飛び込む水中には毎日発見があった。
大人になった今では残念な事に「ヒグラシ・枝豆・ハイボール」が夏の定番となりました。

さて、「故郷」志津川の海は親潮の海です。
寒流で知られる海で育った私は不思議と今でもこの親潮の海にとどまっています。

志津川の海(撮影:佐藤長明)

私が初めてスクーバユニットを利用してダイビングをしたのはパラオでした。

小学生から中学、高校と進むにつれて海から徐々に足が遠のいていました。
社会人になり、旅行で訪れた南の海で体験ダイビングをした時の事でした。
水中世界を覗き込んだ瞬間に、過去が一気にフィードバックしたのです。

当時、家業の酒屋を継ぎはじめていましたが、すべてをやり直す事にしました。絵に描いたような親不孝ものです。
強いて言うなら「心に素直」ですが、本心は「こっちが楽しい」でした。
「1年で目処が立たないようなら酒屋に戻れ」そんな親父の言葉を今でも忘れません。

日本酒(撮影:佐藤長明)

寒い海で潜る理由は?

と聞かれる事も多く、何年も自問自答していますが、当て込んだ理由は「寒くてあまり潜る人がいなかったから発見の多い海です」とか「南には無い魅力がいっぱい!」とか、説明していてまったくしっくり来ない事が多い。

水を通して伝わる音や石を抱えて歩いた水底の感触、水のフィルターを通して煌めく太陽など、実はどこの海でも感じられる体験だから表現し難いのだと思います。

そんな親潮にこだわる思いをあえて表現するなら「幼少期の忘れ難い記憶」がすべてに違いありません。

水面の光(撮影:佐藤長明)

水中ガイドの今でも、「その海らしさ」を伝える事は難しい事です。
レアものか? 繁殖か? 景観か? はたして北の海らしく寒さか?

こだわり続ける理由も探しつつ、ここで表現して行ければと思います。
私の常識が皆様の「新鮮」や「発見」であるよう祈りつつ北の海をご紹介して参ります。

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PROFILE
グラントスカルピン代表・水中写真家
佐藤 長明 (さとうながあき)

1969年、宮城県南三陸町(旧志津川町)生まれ。
1992年、23歳でスキューバダイビングと出会い翌年から水中写真を始める。
南三陸沿岸に生息する稀少種の発見をきっかけに生物層調査に取組む。
8年間の修業の後、2000年にダイビングサービスグラントスカルピンを設立。

現地型ダイビングサービスとして、それまでダイビングポイントとして無名だった宮城の海を国内に広く紹介。
2005年には志津川漁協、南三陸町(旧志津川町)と協力して新ダイビングスポットのオープンを実現。

東日本大震災により北海道函館市に拠点を移し、親潮繋がりの海で再度現地サービスを始める。
自ら撮影する写真により、生態観察と撮影の楽しさを広めている北の海の伝道師。

「海で生物たちは一年を通じ命の営みを繰り返している。ガイドとして心掛けることは季節を感じて海を読むこと。
生物同士の連鎖を知る事で海は何倍も楽しいものになるはずです。」

ショップ名にもなっているグラントスカルピンとは、クチバシカジカと言う和名を持つ小さな魚の英名です。
直訳すると「Grunt=小言を言う・文句を言う」「Sculpin=カジカ」で、世界でもほんの一部の水域でのみ観察されている稀少種。

この体長わずか7cmほどの小さな魚との出会いが人と出会いに繋がりサービスを始めるきっかけにもなりました。
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