寒冷前線の時は特に注意!ダイビングに関わる前線の種類
気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”
みなさん、こんにちは!
前回(ダイバーにも密接に関係する「前線」ってなに?)から前線のお話をしています。
前回の冒頭の話は、実際にあった事故の例です。
この時は、ボートに人が残っていなかったため、ボートが流されて大破してしまいましたが、幸い、近くに他の船がいて全員救助されました。
しかし、別の事例では、ボートに人がいたにも関わらず、あまりに海面が荒れて、やはりロープが切れたあげく、激しく波で上下するボートに上げようとしている間に怪我をしたり、亡くなった事例もあります。
寒冷前線というのは、このように、非常に激しい天気の変化を伴うことがあるのです。
陸上でも突風を吹かせて鉄塔が倒れるなど、場合によっては低気圧本体よりも危険な場合があります。
今回は、そんな寒冷前線を含む、いろいろな前線についてお話したいと思います。
4つの前線の種類(停滞、温暖、寒冷、閉塞)
前回、前線とは空気中にできる潮目のようなものというお話をしました。
その「潮目」のでき方によって、前線はいくつかの種類に分けられます。
停滞前線
最も理解が簡単なのが、停滞前線です(しかし、パソコンで変換すると「手痛い前線」って出るのは笑ってしまいますね)。
一般に(北半球では)北側に冷たい空気、南側に暖かい空気があります。
前回、ヒマラヤの山塊の北を回って来る冷たい空気と、南を回って来る暖かい空気が日本上空でぶつかるといったお話をしました。
それがこの話です。
北側の冷たい空気と南側の暖かい空気の境目には前線面ができ、その地上には動きの少ない停滞前線ができます。
停滞前線は、気団と気団の境目にできることが多く、その場合には規模も大きくなり、その長さは日本列島より長くなることもあります。
その典型的な例が、梅雨前線です。
停滞前線がそのままでいれば、あまり激しい雨が降ることは多くなく、むしろシトシトとした雨が長く続くことが多いです。
ただし、一般的に梅雨の末期になると、太平洋高気圧の縁を北上した、暖かく湿った空気が西日本に到達しやすくなり、激しい雨をもたらすことがあります。
また、今年は、梅雨の初めから、中部日本などでもその現象が見られました。
今後の気候変化によっては、よりそのような年が多くなるかもしれません。
また、停滞前線は、図1のように空気がすれ違うように動くことがあり、その場合には、その後前線の一部が波打つように蛇行しはじめ、そこに温帯低気圧が生まれることがあります。
その場合には、より激しい雨を伴う形に変わることがありますので注意が必要です。
温暖前線
蛇行し始めた停滞前線の上で、南からの暖気が北側の寒気に乗り上げていくような部分は、温暖前線になります。
暖気は図2のように、なだらかに寒気の上に乗り上げていくので、前線面は緩やかな傾斜になります。
雨の範囲は広く、したがって長く続きますが、比較的弱い雨ですむことが多いです。
温暖前線が近づくと、まず、上空に巻雲が見え始め、だんだん低い雲がでてきます。
季節にもよるのですが、特に春・秋などの場合、「筋雲が見えてきたら天気が悪くなる」というのは、温暖前線が近づいてきている場合を示します。
後述の図5のように、温暖前線は低気圧の前側(東側)に位置することが多いので、温暖前線が近づいている=低気圧が近づいてきているということです。
また、温暖前線自体の雨はさほど強くないことが多いのですが、温暖前線の後には、低気圧本体や寒冷前線を伴っていることが多く、そちらの天気は激しい雨や嵐を伴うこともありますので、注意は必要です。
寒冷前線
前回から何度も話題にしている寒冷前線です。
こちらは、蛇行している停滞前線の北側の冷たい空気が暖かい空気の下にもぐりこもうとして進むところにできる前線です。
寒冷前線の前線面は、図3のように、その先端部分が地上の摩擦を受けて引っ込んでおり、温暖前線に比べると面の立ち上がりが急勾配になっています。
そのため、そこで発生する上昇気流が激しくなり、短時間で激しい雨が降ります。
また、冷たい空気のほうが重いために、地上に影響を及ぼしやすいために(温暖前線は、暖かい影響は上空に逃げていってしまうが、寒冷前線は冷たい影響は地上にまず変化が現れる)、前線通過前と通過中、そして通過後での気温や風向き、湿度などの変化がとても激しくなります。
直前まで良い天気だったのが、数十分のうちに嵐になるといったことも起こりえます。
ですから、冒頭のように、良い天気で一本潜ってエキジットしてみたら、海上は一転嵐になっていたということもありえるということなのです。
寒冷前線の動きには、本当に注意が必要です。
閉塞前線
寒冷前線の方が、重い(密度が高い)空気の移動のために、気圧の差の力(気圧傾度力)の影響を受けやすく、温暖前線に比べて動きが速いのが一般的です。
寒冷前線が温暖前線に追いつくと、そこは閉塞前線となります。
追いついた寒冷前線の後ろ側の寒気団が、先行していた温暖前線の前方にある寒気団より冷たいときは、図4のような寒冷型閉塞前線、暖かければ温暖型閉塞前線となります。
閉塞前線は、最も温帯低気圧が発達した最盛期にできることが多いので、低気圧本体の影響も考慮する必要がある場合が多いです。
前線の種類についてのまとめ
このように一口に前線といっても、いろいろな種類があります。
また、前線は、日本地図レベルの大きさのものばかりではなく、実は、非常に小さな数キロといったレベルの大きさのものまで様々なのです。
小さいものは、一般的に威力も小さいのですが、それでも、時に突風や非常に短い時間の嵐などを起こしたりすることもあります。
また、そういった小さな寒冷前線は天気図では解析されていないことも多く、天気予報でも予報されないことがあるので、注意が必要です。
前回冒頭に書いたような事故の多くは、寒冷前線が想定より早く来てしまったことに因りますが、さらにそのもとを正すと、寒冷前線の通過が想定されているにもかかわらず、ダイビングを行ってしまったことにあります。
お客が無理を言ったこともあるでしょう。
あるいはお客が無理を言わなくても、その気持ちを汲んで、ガイドがダイビングをすることを決定した場合もあるでしょう。
いずれにしても、寒冷前線は時には台風並みの強さの風を吹かせることもある、大変危険な現象だということを頭に入れておいてください。
特に、寒冷前線の通過前は、低気圧の比較的近くでも天気が良い場合があります。
そのために、ついダイビングを始めてしまうこともありえます。
寒冷前線の接近・通過が予報されている場合には、その瞬間は海が大荒れになる可能性があることを十分に意識しておいてください。
※今回の図は、すべて松江気象台のページ(前線の種類)から引用しました。