フォトグラファー越智隆治・“この瞬間”の裏側(第1回)

15万匹のイレズミフエダイを撮るために生まれた?ペリリュー島の「越智ケーブ」とは

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フォトグラファー越智隆治・“この瞬間”の裏側

数年前「越智ケーブ」と呼ばれた、ペリリューにある海中の窪みって知ってる?わけないよね。

イレズミフエダイの群れ(撮影:越智隆治)

パラオの「ペリリューコーナー」。
ダイバーの間では、言わずと知れた超激流群れポイント。

繁殖シーズンのピーク時には、ロウニンアジ5000匹とか、バラフエダイ5万匹とか、イレズミフエダイに至っては、15万匹が群れるという、とてつもないポイントだ。

パラオのダイビングサービス・Day Dreamが、このペリリュー島にペリリューステーションをオープンしてから、しばらく、自分はocean+α以前に運営していた、WEB-LUEの取材で、何度もこの島を訪れて、そんな凄い群れの撮影を行なった。

おそらく、プロカメラマンとしては、一番とは言わないけど、世界中で5本の指に入るくらい多く、この海を潜っていると自負している。
いや、3本かな?あ、あくまでプロカメラマンという範疇です。
最近はご無沙汰だけど。

でも、一時期は、「越智さん、もうペリリューガイドできますね〜」とガイド陣に太鼓判を押されるくらいに潜っていたのは事実。
「いや〜はははは、そ、そうかな〜」と、そう言われて満更でも無かったけど、正直、あの海でガイドしたいとは思わなかった。
怖かったから。

「越智ケーブ」誕生秘話

で、初期の取材の頃、この群れをどうやって撮影しようかといろいろ試行錯誤を繰り返した。
イレズミフエダイは、15万匹も群れているのに、とってもシャイで正攻法の撮影スタイルで挑むと、なかなか近くまで寄らせてくれない。

群れの両サイドから挟み撃ちして追い込んだりもした。
まあ、一方向から追いかけるよりは、群れに巻かれるチャンスはあるのだけど、それでも、あともう少し、寄り切れない。

「あともうちょっと、寄りたい。フィッシィアイでもっとはっきりくっきり撮影したい!」で、考えついたのが、「窪みに隠れてみよう」という試み。

皆が反対側から追い込んでくれているときに、ただ一人、群れの反対側にいた自分。
こちらも本当はそちら側に追い込まなければいけない役目を担っていたのだけど、ちょっと思い悩んだ末に、ドロップオフの水深18mくらいに、良い感じに身を潜められそうなサイズの窪みを見つけた。

「か〜くれちゃお〜」

何を思ったか、そのとき、咄嗟にそんな行動を取ってみたい衝動に駆られた。

これが実はとても功を奏して、窪みに一人で隠れて、反対側から皆が群れを追い込んでくれるのをワクワクしながら待っていると、青い海の向うから、巨大な群れがどんどんと近づいてきて、最後には、僕のいる窪み全体を覆い尽くすどころか、窪みの中にまで、ワラワラとイレズミフエダイたちが入って来たのだ。

「わわわ!す、凄い!これって、期待していた以上じゃん!・・・じゃん!」と興奮しながらも、あまり動かないようにして、撮影を続けた。

群れのピークが過ぎ、撮影を終了してもなお、窪みに隠れていると、必死になって追い込みをしてきた、ガイドの遠藤学さんとゲストの方たちの姿が。

きっと、反対側から僕が追い込んで来てくれるはずと思って頑張っていた遠藤さんと、窪みの中で目が合ってしまい、一瞬遠藤さんが「ええ?なんで?なんで越智さんそこに?」というビックリ顔をして、泳ぎ去っていく群れと僕を交互に見つめる姿が、今でも脳裏に焼き付いて離れていない。

そして、その後も何度か同じスタイルで撮影を行なった。

後日、その窪みは、撮影に有効と見なされて、誰が付けたのか、「越智ケーブ」と呼ばれるようになり、フォト派のダイバーがその窪みに隠れてイレズミフエダイを撮影するようになったと言い伝えられている。
自分は見てないけど。

そして、その後、イレズミフエダイを研究する、パラオのガイドであり、魚の研究家の坂上治郎さんが、テレビ撮影のときに、「越智ケーブ」の隣に、「治郎ケーブ」というのを作り、二つの変な名前のケーブ(ただの窪みだけどね)が仲良く並んでいるというのを、知っている人は、きっとダイバーの間でもかな〜り少ないに違いない。

■撮影地:パラオ、ペリリュー島、「越智ケーブ」から

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writer
PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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