[スピンオフ連載]ニッポンの海と文化(第2回)

【第1話 広島 スピンオフ企画】
「L・M・マリン」オーナー×鍵井さん×オーシャナ河本が 広島湾のダイビングの魅力をさらに深掘る!

「ニッポンの海と文化」第1話で、水中写真家・鍵井靖章さん、オーシャナの河本雄太と坪根雄大が潜ったのは、広島市に面した広島湾の海。そして今回取材チームをアテンドしてくれたのが、この海を長年にわたり開拓してきたダイビングショップ「L・M・マリン」だ。

特集記事本編では鍵井さんの撮りおろし水中写真で、たっぷりと広島湾の魅力をお伝えしたが、「L・M・マリン」のオーナー守家善治さんと鍵井さん、河本の座談会でさらにこの海の魅力を深掘りして伺っていこう。

「L・M・マリン」にて、オーナーの守家善治さん(中央)と鍵井さん(左)、河本(右)

一年中凪いでいるのが、広島湾の最大の特徴

オーシャナ編集部(以下、――) 今回は2回にわたり取材にご協力いただき、誠にありがとうございます。ところで守家さんは、いつ頃から広島湾を潜られてきているのですか?

守家善治さん(以下、守家さん)

40年くらい前からですね。生まれも広島でして。

――40年前ですか!それからずっと潜って来られているんですね。鍵井さんに前回のロケで撮影した写真を見せていただいたところ、広島湾にすむ生物の豊かさをとても強く感じました。

守家さん

広島湾は、透視度はあまり良くないことが多いんです。マクロブームになってから、海が濁っていることはそんなに気にならなくなりましたが。透視度の良い抜けた海を想像したらね、ちょっと期待外れかもしれません(笑)。しかし長くは続きませんが、年に何回かはきれいに抜けることもあるんです。

海図を見たらわかると思いますが、島がたくさんあるので黒潮が入ってくると溜まって、しばらく出て行きません。濁りが入ったときも、ずっと溜まってしまうんですよね…。
潮の満ち干も関係していて、満潮時と干潮時で4mくらい水深が変わることもあります。

広島湾の海図を指さしながら、話をしてくださる守家さん

――今回、取材の前に台風発生の情報があったのでご連絡しましたが、台風が近づいていても潜れないということはほとんどないとおっしゃっていましたよね。まったく船が出せなくなってしまうのは、年に一回くらいだというから、それはすごいことだと思います。

守家さん

台風が接近したときも、だいたい風向きがわかりますので。島陰だったら、どこでも潜れるんです。台風の後の吹き返しのときは、陰がなくなりバチャバチャしているところが多いですが、それでも潜れないことはない程度。自慢できるとしたら、一年中凪いでいる。それが広島湾の特徴ですね。

――台風の影響で、クローズしてしまうダイビングエリアが多い中、凪いでいることが多いというのは最大の強みですね。ところで広島湾を潜っているショップは、L・M・マリンさんのほかにもあるんですか?

守家さん

市内にダイビングショップは5店舗くらいあるんですが、日本海や愛媛県の愛南、高知県の柏島など四国方面にツアーで行っていることが多いみたいですね。あまり他のショップには、海で会わないですね。10年くらい前は結構多かったですけど。今はだいぶ減ってきているかな。

水産業が盛んな広島湾は、ダイバーが出会う生き物も豊富

――河本さんは前回の4月のロケで初めて広島湾に潜られましたけど、どんな印象を持たれましたか?

河本雄太(以下、河本)

広島にはこの間のロケで初めて来たんですが、すごく魅力があるところだと思いました。海の中は紀伊半島の南紀白浜に似ているなと感じました。以前、よく南紀白浜へ行っていまして、あそこも湾内を潜るので、海の色のイメージが広島湾と同じ感じでした。
周りの人に「広島に行ってきたんです」と言って、鍵井さんや坪根カメラマンが撮影した写真を見せると「こんなにきれいなんですね」という方も多かったです。結構、水中にどんな生物がいるのかを知らない人たちが多いんだなと思いました。

――鍵井さんはいかがでしょうか? 今回、広島湾には初めて潜られたそうですが。

鍵井靖章さん(以下 鍵井さん)

僕は今まで広島の海のイメージがまったくなかったんですけど、生態系豊かだと思うし、4月に潜ったときはコンディションがすごくいいわけじゃなかったけど、楽しかったです。特に赤いウミイチゴが岩場にワーッとあるのを見たときは、ほかの場所で見たことなかったから、驚きましたね。

河本

広島湾は水産業が盛んじゃないですか。牡蠣とかその代表でしょうけれど。

守家さん

イワシもすごいですよ。カタクチイワシなんですが、漁師の船団が来て、潜っている目の前で、網で引いていきますからね(笑)。

河本

水産が盛んということは、海の中が豊かだってことですよね。最近、海の水がきれいになったと地元の方に聞いたんですが、守家さんは変化を感じられますか?

守家さん

ダイビングをしている時には、あまり感じないですかね。しかし昔は結構、広島湾の水が汚れていて、赤潮が出たりしていたんですよ。ハマチの養殖が全滅してしまったこととかもあったようです。

鍵井さん

最近、赤潮が大量発生して漁業に深刻な被害を及ぼしたとか、あまり聞かないですよね。

自立したダイバーが多いL・M・マリンのゲストの皆さん

鍵井さん

河本さんとこの間話していて、広島で潜ってみて一番驚いたのは、L・M・マリンのゲストがバディ単位で、自分たちのペースで潜られていることでした。

河本

そうそう。50代のダイバーの方が、エントリー時に船の上から皆のカメラを手渡して、最後自分のカメラを水面に下ろして「じゃあ、後でね」と言って、水中に入っていかれて。「すごいですね!」と言ったら、「皆さんこうじゃないの?」という感じだったのが印象的でした。僕は都市型のダイビングショップで長く仕事をしていたので、ゲストの方たちの面倒を見ることが多かったので…。

守家さん

うちの店では自分のことは、自分でしてくださいねっていうのが普通なので。

鍵井さん

アメリカで潜っているのかって思いました(笑)。

――欧米ではバディダイビングで潜る方も多いですが、日本ではバディダイビングで自分たちだけで潜るというスタイルは、まだあまり浸透していないように思います。L・M・マリンのお客さんには、なぜそういった方が多いんでしょうか?

守家さん

うちの店ではCカード取得の講習のときから、器材のセッティングから片付けまで「自分のことは自分でできるように」と指導しています。

河本

そういうゲストの方が多いから、新しく来た方もそれを見て、同じようにできるようになっていくんでしょうね。あと広島市のダイビング事情が、海に行くハードルが比較的低いというか、ポイントまで近いっていうことも関係あるのかなと思いますね。ダイビングしやすい環境が整っていると感じます。

実は、100万人都市で1時間ぐらいでダイビングに行けるところって、広島と福岡と横浜くらいしかないんですよ。自分の家から1時間後には、ダイビングボートに乗れてしまう。なかなかこういう場所ってありませんよね。手軽に潜りに行けるから、ダイビングの上達も早いのかな、と。

――L・M・マリンのお客様は、月に一度は必ず潜りにいらっしゃるとか、アクティブな方が多いんですか?

守家さん

そうですね。来る人は毎週潜りに来ていますよ(笑)。次に多いのは、2週間に一度くらいかな。

――それはすごいですね!

鍵井さん

それは海が魅力的なだけじゃないですよ。守家社長が魅力的なんですわ!

一同

(笑)

河本

都市型ショップでありながら、現地ショップのように毎日海を楽しませてくれるところって、あんまりないじゃないですか。それは大きいですよね。

鍵井さん

僕、前回広島に来たとき、グローブを置き忘れていってしまったんですよ。それで、L・M・マリンさんにご連絡したら送り返してきてくれたんですが、穴が開いていた部分が修理されていて。てっきりニモさん(スタッフの前田晃子さん)が直してくれたと思っていたんですけど、実は守家さんが直してくれたんですよね? そこまでしていただいて、本当に感謝しています。

守家さん

毎日、何かしら修理しているから覚えてないけど(笑)。

四季の変化とともにいろいろな生物が見られる

鍵井さん

広島湾以外にも、潜りに行っているところはあるんですか? 広島湾が唯一無二の場所なのか、それともほかにも瀬戸内海にいい場所はありますか?

守家さん

瀬戸内海にはいっぱい島があり、広島湾はそのうちの10分の1くらいの面積です。広島湾の外に出ることもありますよ。船で2時間近くかかりますが、周防大島のあたりに行くことはあります。水の抜けもよくて、40mくらいのドロップオフがあったりして、ダイナミックな景観が魅力。年に何度かは行きますね。

あとは「沈船陸奥(ちんせんむつ)」ですね。これを目当てに来るダイバーの方はいらっしゃいます。でも一回潜ると、もういいかなという感じみたいです。透視度もあまりよくないので。前は月1回ツアーを組んでいたんですが、お客さんからは評判がよくなくて(笑)。最近はツアーはやっていません。

河本

広島というと、沈船陸奥のイメージでしたけれどね。

鍵井さん

僕はチューク(編集部注:ミクロネシア連邦にある沈船ダイブが盛んな島々)で沈船を撮影したことがありますが、あそこの船は「○○丸」って名前からわかるように、商用船に大砲を付けたような船なんですよね。でも陸奥は戦艦じゃないですか。海に沈んだ戦艦を見られるのって、すごいと思いますけどね。他にないですよ。

――やはりL・M・マリンで潜るダイビングエリアとしては、広島湾がお客さんからも人気が高く、一番いい場所なんですね。40年以上潜ってきた守家さんから見て、広島湾のどんなところが魅力なのでしょうか?

守家さん

広島湾の海は、四季がはっきりしているんです。水温は冷たい時期の10℃くらいから夏場の26℃くらいまで幅があって、出てくる魚も季節によって違います。「絵の島」のまわりでは、ちょっと変わった生物を見ることもありますよ。この間はイガグリガニがいましたね。昨日は「白石灯台」タコが産卵しているのを見つけたので、明日の撮影では撮れると思いますよ。

4月に取材に訪れたときは、海藻の森の最盛期。日本の海ならではの豊かな景観に出会えた

――守家さん、ありがとうございました。明日、明後日の撮影でどんな写真を鍵井さんが撮ってくださるかとても楽しみにしています。

今回、「ニッポンの海と文化」をスタートするにあたり、日本には四季があり、季節によって変化する海の様子も取材できたらと考えていた。

広島湾には4月と7月の2回取材に訪れ、L・M・マリンの守家さんをはじめスタッフの皆さんに案内していただいたことで、春と夏それぞれの見どころを撮影できたと思う。やはりそこの海をよく知るダイビングショップ、そしてスタッフの方と出会うことが、本企画には欠かせないのだと改めて感じた。L・M・マリンの皆さん、ありがとうございました!

広島湾を潜るならこのダイビングショップ
L・M・マリン(エルエムマリン)

半地下の店内は広く、アフターダイブはゆっくりログづけできる。器材洗い場も完備(撮影:坪根雄大)

定員23名の自社ボートがあり、ポイントまで快適に移動できる。エントリー&エキジットもラクラク(撮影:鍵井靖章)

Cカード講習からステップアップコース、広島湾への日帰りツアー、沈船陸奥や高知県鵜来島へのツアーなど幅広くダイビングを楽しませてくれる。ゲストは20~60代と幅広く、一人で訪れてもすぐ仲間ができるアットホームな雰囲気が心地良い。オーナーの守家さんのほか、店長の桜石季弥江(サクラ)さん、スタッフの前田晃子(ニモ)さんが待っている。広電小網町駅の目の前にあるので、アクセス便利。駐車場(6台)もあり。

住所:広島市中区小網町3-16 レ・モーリアビル1/2BF

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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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