緊張で吐き気がします。酔い止めで解決しますか?~三保先生に聞くQ&A~
以前、ご紹介したえも言われぬ不安の正体の記事を読んだ方からこんなご質問がありました。
その際にエントリー前から吐き気に襲われ(おそらく不安からくる吐き気だ思われます)水中でも吐き気に悩まされるのですが、このような吐き気を抑えるには、酔い止めを飲むことで抑えられるのでしょうか?
■tomo(男性・30本)
特別な例のようにも聞こえますが、“吐き気を抑えるには酔い止めでよいのか?”、“ダイビング前に薬を飲んでよいのか?”という視点で考えると、誰にでも当てはまる問題です。
そこで、オーシャナでもおなじみの、日本を代表するテックダイバーでもある、三保耳鼻咽喉科院長の三保仁先生にお聞きしました。
Q.酔い止めは吐き気に効果的なのでしょうか?
A:まず、誰でも、初心者の頃はダイビング前に緊張するのは当然だし、ベテランダイバーでも、研究ではエントリー前は多少なりとも心拍数が上がって緊張しているものなんですよ。
特段、異常なことではないので、ご心配ありません。
さて、酔い止めですが、服用すれば酔わなくなるので吐かなくなりますから、その様にお考えになることはごもっとも。
ですが、酔い止めは、脳を麻痺させて、内耳からの揺れ信号を感じなくさせて酔わなくさせているので、そういった作用機序から考えると、緊張による吐き気を抑えることはできないんです。
Q.緊張に効く薬はありますか?
A:原因は緊張ですから、リラックスできる精神安定剤のようなお薬の方が効果があると思います。
ただ、残念なことに、精神神経系に作用するお薬は、ダイビングの時の使用禁止薬なんですね。
高圧下では、薬物の作用が強くなることが知られていて、リラックスどころかぼーっとして、適正な判断ができなくなってしまい危険!というわけです。
Q.吐き気に効く薬はありますか?
「制吐剤」とよばれるたぐいのお薬があり、症状を聞いた限りでは、この薬が最も適切かと思います。
商品名で言えば、「ナウゼリン」「プリンペラン」などです。
ですけれど、お薬に頼って何とかしようとするよりも、訓練による自信と、経験による慣れが一番いいんです。
Q.ダイビングのインストラクターとして、どのような訓練が適切だと思いますか?
A:ダイビングを頻繁にできない状況でしたら、普段からイメージトレーニング。水面移動、潜降開始、そして水底に到着して、中性浮力をとりながら、ゆったりと楽しみながら潜っている自分を想像しましょう。
次に、緊張する要素が少ないダイビングプールでの練習。
透明度がよくて、ドン深ではなくて、波や流れがなく、水温が高い限定水域では、緊張度が低くなるもの。
水中にいるというストレス的感覚よりも、水中にいることができる楽しみを感じられるようになればしめたもの!
スキンダイビングも水慣れにはいいでしょうね。
海で潜るときには、水に慣れて経験を増やすまでは、透明度が良くて温かい南の海を選ぶのも一つの方法。
ダイビングに少し慣れてきたら、そのエリアで有名な生物を自分で見つけようと探してみたり、カメラを持って水中生物を撮影するなど、何か目的を持ったことに気持ちを集中させ、遊びの要因が大きいダイビングスタイルを心がければ緊張がほぐれるものです。
Q.吐き気への対策はありますか?
A:空腹は胃液が多くて吐きやすいし、満腹は大敵!
脂っこい物を避け、消化が良いものを食べて腹八分目が理想。
柑橘系などの酸味が強い物もよろしくないんです。
これらの対策をしても、万一水中で吐きそうになったら、水中での嘔吐はレギュレーターのつまりや、海水や嘔吐物の吸引による溺れの原因になるので、無理をせずダイビングを中止しましょう!
我慢できずに吐くときには、初心者はレギュレーターをくわえたまま、パージボタンを押しながら吐くとリスクが少ないです。
そもそも、ダイビングは競技的要素がない「遊び」オンリーのスポーツなんですから、肩の力を抜いてのんびりやることが一番ですよ〜♪
※
三保先生もおっしゃるように、ダイビング前のストレスは軽減できるもの。
最初のころ、吐き気がひどいようなら、お薬の力を借りるのもありですが、イメージトレーニングや経験を積むことによって自信を得て、内面から解決できるようになると理想的ですね。
三保先生、ありがとうございました。