Vertical Blue2018 世界最高峰の大会終了! ~日本人選手たちにインタビュー その2~
今回は多くの日本人が選手として活躍しました。今回はベテラン選手である岡本選手また、日本人で唯一スタッフととして活躍した板垣さやかさんにもお話を伺いました。
バーチカルブルーの、競技結果だけでは見られない別の側面が垣間見られるのではないかと思います。
大会後インタビュー
岡本美鈴選手
まずは日本のフリーダイビング界を牽引し続けて来た、ベテランの岡本美鈴選手。フリーダイビング指導団体AAA(アプネア・アカデミー・アジア)の理事として指導者として活躍しながらも、今尚、自身も進化を続け今大会でCWT95mを潜り、自己ベストを更新しました。
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大会最終日にCWT95mの自己ベストを更新しましたね。おめでとうございます!
岡本
はい、感謝でいっぱいです!
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国内では指導者として、またメディア出演など本当に多忙な岡本選手ですが、どのような準備をして来ましたか?
岡本
日本では海洋練習は全くできず、プールでのスイムと陸上でのトレーニングやストレッチを行なってきました。今回はアクシデントでバハマへの入国が遅れたり、背中の痛みを抱えながらの調整となりましたが、ブルーホールでは浅い深度からのスキル確認と水圧慣れに2週間程かかったと思います。大会直前から大会中は少しづつ深度を伸ばし、水圧に適応することに集中しました。大会中は他選手に比べるとゆっくりペースですが、背中の痛みと疲労を取るため、休みを入れながら大会最終日には自己ベスト95m以上が出せそうなところまできました。しかし、耳抜き技術がまだ完全ではないことと、浮上中の背中の痛みでスピードが落ちてしまう事が不安要素がありました。
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どんなふうに深度を伸ばして来たのですか?
岡本
最終ダイブの申告をするまでは、疲労を取るため外出を控えたり、ウエイトを減らす調整をしたりとできる準備をしつつ、陸上でできることは全てしました。
あとは明日の申告をどうするか。
確実なホワイトなら93mか、95m申告してだめなら引き返してくるか。
「95mのダイブ自体は問題ない」とコーチの耕輔氏が分析してくれて、木下選手は「みみずんが自己ベスト申告できるのはここしかないでしょ」と背中を押してくれました。日本では現状難しい私の自己ベストダイブ、ここはありがたく自己ベストへのチャレンジをすることにしました。
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最終日、95mを潜る、当日はどうでしたか?
岡本
当日のダイブは今思うと緊張はしていたと思います。ただライブ中継を通して「見られている」というくすぐったさが「応援してもらえている」という勇気に変わっていました。それとハナコとサユリや周囲の選手が当たり前のように100mを潜るので、深い!という感覚が麻痺していたかもしれません(笑)
メンタル的にはとても良い状態だったと思います。実際ダイブ中は全てがコントロールできました、耳抜き成功!暗闇でボトムプレートに到着した時ダイブアイのライトが目の前にあり、今みんなが見てくれている!という明るい気持ちで浮上ができました(実際はライブ中継が途切れていたんですけど)。水面近くまで戻って疲労感や低酸素の感覚から「あーこれは大丈夫だな」と感じた時に嬉しさがこみ上げて小さくガッツポーズをしてしまったのを覚えています。あーまだいけた。私はまだいける。嬉しい、と。小さくガッツしてたつもりが動画みたらかなり大きくアクションしていて恥ずかしい限りです。
ジャッジからホワイトカードが出た時は、久しぶりに涙が出てきました。競技で泣いたのは9年ぶりくらい?この年齢で90m台を伸ばし続けられる事が嬉しかったです。
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今後の抱負は?
岡本
トップのメダル争いには関われなかったけれど、だからこそ、自分の進化だけに集中してチャレンジができました。課題も可能性があることも、学びも多くありました。自分自身、心身共にまだ伸びしろがあることと、探求する難しさと面白さ、そこに応援者の皆さんが背中を押してくれる事が今の自分のモチベーションですね。また私は成長して来年ここで自己ベストにチャレンジできると思います。
そして今年はダイブアイ中継お陰で、日頃から支えてくださるスポンサー・サプライヤー・岡本美鈴サポーターズクラブの皆さまと距離感が近くなった気がします。私もみなさんの存在を感じながら潜る事ができて、今迄の孤独な宇宙への旅は、ちょっぴり不思議な旅になりました。みなさんの応援が心のチカラになりました。
私の活動を長い目で応援くださり、心から感謝をお伝えしたいです。
また生活を共にしたサユリとハナコ選手、日本選手との毎日は笑いに溢れ、今年も楽しかった。ご飯も最高でした。特にコーチをしてくれる夫の耕輔氏には、冷静な分析とアドバイスから運転、器材メンテまで支えてもらい、いつも最善の練習と意思決定をすることができました。日本フリーダイビング協会の会長でもある彼は現地からサユルとハナコのプレスリリースも発信したりと、みんなの為にも動いてくれました。心から感謝しています。
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長年VBに出場して来た岡本選手からみて、今年のVBはどうでしたか?
岡本
毎年選手達の申告は深くなっていますが、今年は歴史的、と言えると思います。100m以上の申告が3分の1を占めてしたり、世界記録が1日や大会期間中に何回も塗り替えられたり。私は8回目のバハマ大会ですが、ここまでのハイレベルな大会になることは昔は想像していませんでした。ディープダイブでは男女差が無くなってきたように思います。女子というよりも「ヒト」としての挑戦の領域へ入ってきたのではないでしょうか。
アレッシア、ハナコ、サユリ、アレンカ。素晴らしいダイブに勇気づけられました。ハナコとサユリ、そして今回不調でしたがトモカも含め日本の誇りですよ!
おかげさまで私にとっても100mはもう遠い世界ではなくなりました(笑)。今シーズンもまだ海外大会は多数あるのでそれぞれの種目で世界記録争いは続くことでしょう。ここからは100以深の土俵です。どうか、今後も無事故で、安全への考えも大切にしながら・・ヒトの挑戦が続き、素晴らしい歴史と感動が生まれることを願っています。
大会後インタビュー
板垣さやかさん
また、セーフティダイバーとして、世界各国のスタッフと共に大会を支えた板垣さやかさんからも、華やかなVBの舞台裏のお話を伺いました。
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さやかさんの今大会で役割と、関わり方を教えてください。
板垣
私はセーフティーチームの一員として選手をサポートしました。
30mくらいまで潜ってお迎えに行き選手と一緒に浮上し、何かあったらすぐにレスキューに入れる体制をチームで整えています。その他にもプラットフォームで選手が潜るための準備、大会の設備準備と運営、大会結果などのWeb管理、そして今年からは競技リストや結果の作成も行いました。VBは8人のセーフティーと4人のメディカルがメインスタッフとなりますが、その他にもメディアや初導入のダイブアイのスタッフなど世界中から集まった強力なメンバーによって運営されていたのです。まずは絶対事故がないように、そして選手が楽しく安全に挑戦していける雰囲気を作れるように心がけていました。
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セーフティメンバーから見た、今回の大会全体の感想は?
板垣
世界最高峰レベルの大会と年々注目が上がっているVBですが、今年は歴史に残る結果となりました。特に誰がどんな世界新を出すのか、女子のCWTではどこまで記録を伸ばしていくのかに注目が浴びていたと思います。私たちの想像を上回り初日からワールドレコードの申請があり、そして日に日にナショナルレコードの申請も増え、前代未聞のスタートリストを、作りながらも毎日驚いてました。 記録も凄いのですが一人一人の背景にドラマがあり、一本一本のダイビングに感動があるんですね。緊張する雰囲気もありましたが選手たち自身ががその挑戦を楽しんでいて、お互いに讃えあい応援しあう姿は素晴らしかったです。
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今回は、大会中に、スティーブ(Stephen Keenan故セーフティチームリーダー)の追悼式がありましたね。 *2017年7月に、別の場所で死去
板垣
彼は昨年のVBまでは選手からもスタッフからも絶大な信頼を得ていたセーフティチームリーダーでした。スティーブがいない今回の大会中に、彼を追悼するために、集まったフリーダイバーみんなで花を持って15mまで潜りました。
セーフティーチームは一本のロープを囲むように手をつないで円を作り、合図とともに花を海へと捧げました。浮上してからスティーブの母国アイルランドのお酒、ギネスビールを一本空けプラットフォームに乾杯しながら回し飲みしました。みんなが涙を流し、スティーブへの想いを共有しあう時間だったと思います。スティーブは、生前からファンクラブのページが作られるほどみんなに愛されていた人でした。私がVBに携われるのも彼のお陰なんです。スティーブはきっと誰かがダイビングするときは側にいてくれていて、私たちの心に生き続けると信じています。
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さやかさんは、今後VBに選手として出場したい、という思いはありますか?
どのようにフリーダイビングと関わっていきたいですか?
板垣
今後もセーフティーや自分の趣味としてフリーダイビングを続けていくと思います。いつか泳げない人や水が怖いという人にもフリーダイビングや海の心地よさが伝えられる人になりたいと思っています。
さやかさん、ありがとうございました!
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今年も、私たちに多くの感動を与えてくれたVB。
大会は2週間ほどの短い期間ですが、選手たちは人生をかけて準備をし、心身を整えて臨みます。
また数字だけではなく、多くの葛藤、思い、選手の数だけドラマがあり、またそれを支えるスタッフたちの情熱があるのです。だからこそ、世界中が感動する場となるのですね。
来年のVBは、私たちにどんな感動を与えてくれるのでしょう。
あの眠れない夜がまた来ることを楽しみに待ちましょう!
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