海の中でタイムスリップ 〜サント島の歴史ある沈船「SS・プレジデントクーリッジ号」と「ミリオンダラーポイント」〜
バヌアツ取材前半のエファテ島を無事終えて、ポートビラから国内線で、バヌアツ諸島で一番大きな島、エスピリツ・サント島に向かった。
以前オーストラリアに2年間住んでいた時、現地のイントラからバヌアツの話をたまに聞いていて、巨大な沈船があることや、みんなして「行きたいなー」なんていうことも話していた。
なので、今回の取材の中でもこの沈船に関しては誰よりも楽しみで、こんなチャンスが到来するなんて夢にも思っていなかった。
テックダイビングに力を入れている
コーラルキーズ
サント島のサント・ペコア空港に到着して、日本人がいる現地ツアーオペレーターガイドのエスターさんが迎えに来てくれた。
本来なら日本人のガイドさんが案内してくれるのだが今回はたまたま不在。
エスターさんは日本語は喋れないものの、日本人には慣れているみたいで気遣いがすごく、とても心強い存在に思えた。
宿泊するリゾート、コーラルキーズへ。
空港からはローゲンビルという、サント島最大の街を通過し、30〜40分で到着。
コーラルキーズはダイビングショップも提携していてるリゾートで、すぐ目の前に海があり、そこからボートダイビングなどでリーフに行くことも可能だ。
だが彼らの売りは、世界的にも有名なレックポイント「SS・プレジデントクーリッジ号」を案内することだった。
ショップのガイド、イギリス人のトムが沈船を案内してくれるとのこと。
とりあえず、今日は夕方なのでカメラのセッティングなどをした後にダイビングショップを見に行ってみた。
するとコンテナがあり、中にはテックダイビング用のミックスできるコンプレッサーやナイトロックスのコンプレッサーなど、なんだかすごそうなものがたくさん。
「何これ? すごいね」と言うと、トムのテクニカルダイビング魂が作動。
事細かく説明してくれたが、根っからレクレーションダイビングしかやらない僕にはナイトロックスくらいしかわからなかった。
でもトムは、「テクニカルダイビングは大好きで、それが僕のパッションである」とキラキラした目で僕に説明してくれた。
これ以上テクニカルダイビングの話をしてトムのテック魂の火が炎となる前に、そそくさと部屋に戻ったのだった(笑)。
食事の準備ができていると言うことでレストランへ。
シェフのおすすめをお願いしたところ、噂のバヌアツ牛をチョイスしてくれた。
無農薬、自然の草のみで飼育している牛の味は格別だったし、料理のクオリティーもかなり高く、予想以上に満足をした。
ビーチからもボートからも行ける
「SS・プレジデントクーリッジ号」
朝を迎え、いよいよダイビングへ。
10年以上オーストラリアから通い続けていると言う夫婦、オランダ人の男の子、テック魂のトム、現地ガイド2人と僕でポイントへと向かった。
お店からポイントまでは空港方面へ車を走らせ、40分ほどで到着。
ビーチで器材のセッティングを始めて、ふと思った。
「ビーチから潜るの?」と聞くと、「そう! ビーチダイビングさ!」とトム。
実はクーリッジはビーチでもボートでも行けるポイント。
トム曰く「ビーチダイビングは少し歩かなきゃいけないけど、ボートより安く提供できるのでゲストにはビーチが人気」とのこと。
準備を進め、僕は28%にミックスしたナイトロックスの13.1Lのシングルタンクだったが、トムはエアーツインタンク。
思わず2度見してしまった。
なぜツインタンク? と尋ねると、「クーリッジは比較的深いポイントで何が起こるかわからない。コーラルキーズでは予備の空気源を多めに持って行くように徹底していて、ガイドはツインタンクとポニータンクを携帯している」とのこと。
さらに車には緊急用の純酸素、ダイビング中はダイブマスター1人を陸に監視させていて、安全面に関してはかなり徹底していた。
準備が終わってブリーフィング。
ものすごく興味があった「SS・プレジデントクーリッジ号」の歴史の説明は、当時の写真を使って始まった。
「SS・プレジデントクーリッジ号」の歴史
時を遡り1931年、当時クーリッジはアメリカの有名な豪華客船として運行していて、全長201m、幅25m、900人もの乗客を乗せていた巨大な客船だった。
第二次世界大戦に入るとアメリカ軍の要請で輸送船となり、5000人の兵士を乗せるのために改造。
1942年10月25日、ニューカレドニアの首都ヌメアから5500人もの兵士と、あらゆる機材やジープ、トラック、ライフル、爆弾、大砲、食料を隙間なく乗せた船が真夜中に出発した。
船長は軍人ではなく元々客船時代からの民間の船長だった。
当時、サント島はアメリカ軍の最善基地として日本軍の潜水艦などの侵入を防ぐために島中に機雷の網がはぐりめらしてあった。
1ヶ所だけ安全水路が設けてあったが民間人の船長には伝えられていなかった。
島に近づいてきたクーリッジは、無線でサント島の基地に連絡を取ったがしばらく応答がなかった。
その夜はとても静かな夜で、あたりには日本軍の潜水艦が潜んでいたのを知っていた船長は、多くの命と物資を預かっているため、怖くなってしまい、基地方面に侵入を始めた。
すると、ようやく無線が入った。
「待て! 今あなたの船は!」
クーリッジは船首にまともに機雷が当たってしまい、慌ててリバースに入れ回避をしようとしたが既に手遅れ。
船尾にも2発目の機雷が当たり、船長は船が沈むのを食い止めるために岸に乗り上げた。
なんとか船首部分は水深3mの浅場に乗り、船長は「船を放棄しろ」と命令を出して無事に5500人の兵士は救助された。
だが船は船首しか岸にかかっていなかったため沈み始めた。
そして機雷衝突から45分、船は最後まで救助に携わった船長とともに沈んでいった。
今はドロップオフに横たわっている状態で、船首が水深21mで船尾が70m近くの水深で眠っている。
第二次世界大戦時に
タイムスリップ
クーリッジの歴史を紹介してもらったあとは、ダイビング中の注意点。
今回は船の周りのコースを行くことに。
ファーストダイブはチェックダイブを兼ねて最大水深は35m付近とした。
コーラルキーズではPADIのダイブテーブルではなく、イギリステックダイビングのテーブルを独自に改造したテーブルで潜水をするとの事であくまで無減圧潜水で潜る。
水深に応じて滞在時間は変わるが、浮上時には12mで3分、6mで5分,3mで12分と安全停止を必ず行なっている。
3mの安全停止ステーションには13.1ℓの予備タンクも置いてあり、エアーが早い方も安心。
早速、エントリー。
船の周りには巨大な大砲など当時使用されていた銃弾や火薬、ガスマスク、ライフルなど様々なものがまるで第二次戦争時代が止まっているかのように生々しく散らばっていた。
ぐるっと回ってみて、その船の大きさに驚かされた。
まるでタイムスリップしたかのように、クーリッジの船の周りだけ第二次戦争時代だった。
海の中に無数の機材
「ミリオンダラーポイント」
歴史ある沈船「SS・プレジデントクーリッジ号」を潜り終え、一旦お店に戻り昼食タイム。
水面休息を2時間しっかり取ったあと、クーリッジを一度離れ「ミリオンダラーポイント」という、これまた歴史が面白いポイントへとむかった。
このポイントはクーリッジの近くにある。
第二次世界大戦後にサント島を撤退しようとしていたアメリカ軍は、当時利用していた戦車やジープ、トラックなど多くの機材を放棄しなければならなくなった。
当時のフランスとイギリスの共同領地であったニューヘブリデス政府に10分の1の値段で引き受けてくれるよう頼んだが、答えはNOだった。
そこでアメリカ軍はすべての機材を、両政府の目の前で爆発させて海に沈めた。
それらの機材の当時の値段から「ミリオンダラーポイント」と名付けられた。
これまた水中では見たことのない光景が水面近くから水深40mほどまで続いていて、当時の様子が伺えた。
バヌアツダイビングツアー
■取材協力
○ニューギニア航空
○エス・ティー・ワールド
○トラベルファクトリージャパン
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