編集部・セリーナのフリーダイビング挑戦記「経験0から日本代表を目指す!」(第1回)

【フリーダイビング歴半年で記録会に参加してみたらこうなった】編集部・セリーナの挑戦レポートvol.1

この記事は約7分で読めます。

昨年12月26日、都内のプールでフリーダイビングの記録会が行われた。そこに、昨年春ごろにフリーダイビングを始めたばかりで、たった3回ほどのプール練習をこなしたオーシャナ編集部のセリーナが、初参戦。ここでは、初心者ならではの目線で、記録会の様子や流れをレポートしていこうと思う。予想を裏切らないオチまであるので、ぜひ最後までお読みいただけると幸いだ。

プールで行われるフリーダイビング競技とは

今回参加したのは、国内でも有数のフリーダイビングに力を入れるダイビングショップ「トゥルーノース」が主催する「第25回トゥルーノースフリーダイビングプール種目公式記録会」。記録会は、フリーダイビングのCカードを取得していることを参加条件に、順位を競うものではなくこれまでの練習の成果を試す場として開催される。私のような初心者から、世界で活躍するトップフリーダイバーまでレベル問わず参加できるというもの。

プールで行われる競技は全部で4種類ある。①水面に浮き、一呼吸での閉息時間の長さを競う「スタティックアプネア」、②フィン(形状は自由)を履いて、一呼吸で平行方向に潜水できる距離の長さを競う「ダイナミックアプネア ウィズ フィン」、③フィンを履かずに一呼吸で平行方向に潜水できる距離の長さを競う「ダイナミックアプネア ウィズアウト フィン」、④2枚フィンを履いてバタ足で泳ぎ、一呼吸で平行方向に潜水できる距離の長さを競う「ダイナミックアプネア ウィズ バイフィン」。私は④の「ダイナミックアプネア ウィズ バイフィン」に出場した。

なぜ挑戦しようと思ったのか

フリーダイビングを始めた理由はさまざまあるが、主に3つある。実は私、2歳から22歳まで約20年間の競泳生活を送っていたため、それが大きな理由となっている。

1つ目は、水中にいるのが好きだから。競泳選手時代は、朝練、夕練をほぼ毎日繰り返し、練習が完全に休みなのは週1程度。気づけば水に浸っているという生活を送っていた。競泳を辞めた時は、水から解放された気分になったが、しばらくするとやはり、水中にいる感覚が恋しくなってきたのだ。

2つ目は、大会ならではの緊張感が好きだから。大会は日々の練習の成果を発揮する舞台。「良い記録が出せるだろうか?」、「ライバルに勝てるだろうか?」などさまざまな想いや感情が交錯し、日常生活では味わえないような緊張感で心が満たされる。しかし、競泳を辞めた瞬間に大会独特の緊張感を味わう機会が減った。競泳人生の中で大会に出ていた年数は12年ほどなので、心に染み付いたあの刺激を求めてしまうのも仕方がないことなのかもしれない。

3つ目は、努力の成果が記録として出せたときの達成感が好きだから。スポーツは日々の努力が、結果に直結する、非常に単純だ。ところが良い結果を出すことは、何事においても非常に難しい。一流のスポーツ選手が、5年間ベスト記録を出せないことも珍しくない。私も何をやってもうまくいかず、4年間ベスト記録を更新できない時期があったがその分、記録を出すことができたときの何事にも変え難い達成感や高揚感はたまらない。このわずかな瞬間のためだけにスポーツ選手は何もかも注ぎ込んで努力をする。だからこそ、記録が出せたときの達成感は格別なのである。私は、懲りないことに、この感覚をフリーダイビングでも味わおうとしているのだ。

要するに、好きなことをやってみたくなってしまったのだ(笑)。

記録会当日。会場は都内の50mプール

会場となったのは、競泳やアーティスティックスイミング、水球などの国際大会でも使用される東京辰巳国際水泳場のサブプール(50m)。競泳をやっていたときに大会で何度も来ていたので、会場への緊張感はなく比較的安心して、会場入りできた。しかし、さすがはフリーダイビング。本番開始前から独特な静けさが漂う。

当日のスケジュールは、出場種目によって午前の部と午後の部に分けられる。私は午後の部に出場するため、12時半にプールサイドへ到着。会場では、スタートの順番を待つ選手たちが、プールサイドでストレッチをしたり寝転がっていたり、深呼吸をしていたり、一見ゆるい雰囲気に見えるが、できるだけ心拍数を上げないように各々のルーティーンをしてリラックスいるようだ。一方私はルーティーンなどまだ無いため、とりあえず見様見真似でストレッチをしてみる。カメラに向かって笑顔ができるくらい、まだリラックスしている。

想像では、会場全体がかなりピリついているのかと思っていたが、意外とそんなこともなく選手同士が笑顔で会話している様子もあった。

水中でウォーミングアップ開始。少しづつ、緊張してきた

自分がスタートする45分前になると、プールでのウォーミングアップを開始できる。もちろん、私はウォーミングアップも何をやったらいいのかわからなかったが、今回は、フリーダイビングインストラクター経験もあるオーシャナスタッフのユウダイさんがサポートとして駆けつけてくれたため、非常に心強い。

サポートとは

水面に浮き、一呼吸での閉息時間の長さを競う「スタティックアプネア」の競技中や競技開始前に選手に声をかけている人は「サポート」や「コーチ」と呼ばれ、パフォーマンス結果に直接の関係はないが、スタティックアプネア競技中の選手に経過時間を知らせたり、浮上後に行わなければならない一連の動作がうまく出来ない場合に声で誘導したりと、その影響力は大きい。サポートは1名の選手につき1名のみ認められる。もし知り合いでサポートを頼める人がいない場合でも、本記録会では主催であるトゥルーノースのスタッフが手厚くサポートしてくれる。

ウォーミングアップの最初は、シュノーケルで息をしながら顔を水につける。人間は顔を水につけると、潜水反射という人間に備わる潜水スイッチが入り、内臓器官を守ろうと心拍のスピードが無意識に落ちる。他の海棲哺乳類とも同じ特性を誘発するためにこのウォーミングアップを行った。その後は、軽く50mの潜水をしたり、ターンの練習などを行った。

ウォーミングアップ中のこの表情。まだ余裕がありそうに見えるが、徐々に緊張し始めている。

フリーダイビング競技会のルール概要

簡単にフリーダイビング記録会のルールを説明しておきたい。競技会(大会/記録会)ではいくつかのルールがあるが基本的にジャッジ(公式審判)が最終的に下す判定によってその記録(時間、距離、深度)が確定する。競技終了後にジャッジが下す3枚の判定カードにはホワイト、イエロー、レッドがあり、ホワイトカードのみがパーフェクトにパフォーマンスを終えられたことを意味する。イエローカードは、何かしらのペナルティがあり原点され、レッドカードは失格となり記録は残らない。

スタート時と泳いでいる最中にはそれぞれで注意しなければならないルールがあるが、特に水面に顔を出してから、細心の注意を要する15秒がある。15秒以内にゴーグルやノーズクリップなど顔面を覆う全ての装具を外し、手を上げてOKサインを示し、「I’m OK」と発声しなければならない。この一連の動作を「サーフェス プロトコル」という。トップフリーダイバーでさえもこの動作を誤るとどんなに好記録でも、レッドカードがジャッジから提示される。最後の最後まで気を抜いてはいけないのがフリーダイビングだ。

さあ、いよいよスタート。緊張はピークに…。

フリーダイビングはご存知のとおり、息を止めたままどこまで深く潜れるかを競うスポーツだ。命に関わる可能性があるため、フリーダイビングはエクストリームスポーツとしても扱われるほど。しかし、アドレナリンに満ちた他のエクストリームスポーツ(サーフィン、スノーボード、パラシュート、モトクロスなど)といったハイスピードアクションとは異なり、フリーダイビングは平穏と静寂のスポーツだ。

深呼吸をして自分の精神状態を落ち着かせる。会場も静けさと緊張感が漂う。次第に心拍数が落ちてきた。

「スタート2分前!」。

場内にスタートのカウントダウンのアナウンスがされる。

「1分前!」。

ゆっくり深呼吸をする。

「30秒前!」。

精神を全集中。

「5、4、3、2、1、オフィシャルトップ!」。

「1、2、3、4、5、6、7、8…」。

フリーダイビングは、オフィシャルトップからカウントが増えていき、10になるまでに顔を水に付け、潜水開始しなければならない。私は8くらいでスタート。ユウダイさんも心配そうに見守る。

あらゆる雑念を消し、“今”に集中。日常にはない、心地よい感覚だ。

練習では、最高85mまで行くことができていたので、できれば100mを目標にしていた。スタートから50m通過。「まだ大丈夫」。75m通過。「あと25mいけるかも」。「残り5m」。タッチ!すぐにコースロープにつかまる。呼吸を整え、マスクを外す、OKサインを出す、「アイ…、アイムオーケー…!」。

3名のジャッジが顔を見合わせる。この瞬間はスタート前よりドキドキした。そして判定は…。

「レッドカードです!」

「えっ!!(笑)」

「『I’m OK』がスムーズに言えていなかったので、失格です」。

「うっ、厳しい…(泣)」

サーフェス プロトコルの練習はたくさんしたはずだったが、いざ本番になるとジャッジが3名もいて、誰に言っていいのかわからず戸惑ってしまい、口ごもってしまったのだ。せっかく100mまで行けたのに悔しい!フリーダイビングの厳しさを初めての記録会で痛感した。

実際に私が泳いでいる映像(出典:トゥルーノース)。最後の顔を上げてからの動作に注目して、記録会に出るときに気をつけるべき事項として参考にしてほしい▼

競技を終えて思うこと

競技が終わりホッとした瞬間を、サポートで駆けつけてくれたユウダイさんと一緒に撮影。ユウダイさんが嬉しそうに赤いテープを持っているのが意味深だ…。

競技が終わりホッとした瞬間を、サポートで駆けつけてくれたユウダイさんと一緒に撮影。ユウダイさんが嬉しそうに赤いテープを持っているのが意味深だ…。

フリーダイビングは肺活量などももちろん大事だが、いかに雑念を極限まで振り払うことができるか、精神状態をコントロールすることがカギになるのではないかと初心者ながらに感じた。同時に記録更新への意欲がますます湧いてきた。まずは楽しみながら、気持ちよくフリーダイビングをやってみようと思う。早速、2022年1月29日に同じプールで行われる記録会にも出場予定。今度こそは、ホワイトカードで正式記録として残したい。引き続き、応援よろしくお願いします!

記録会主催:トゥルーノース
ウェブサイト
プール競技ルール
\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
  • facebook
  • twitter
  • Instagram
  • youtube
FOLLOW