水中ごみ拾い専門店のガイドから見たタイ・タオ島のサステナブルツーリズム
濃い魚影やレア種、運が良ければ迫力のあるジンベエザメに出会えるスポットとしてダイバーに人気のタイ・タオ島。面積約21㎡、与論島や御蔵島ほどの大きさのこの島は、長年オーバーツーリズムの課題を抱えていた。島一丸となって「環境・地域住民・旅行者がともに良くなる観光=サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」に力を入れるなか、2023年4月には、観光客へのアプローチとして「責任のある観光」を促す観光イベント「Spotlight Koh Tao 2023(以下、スポットライト タオ島 2023)」を開催。ダイビングでの水中ゴミ拾いやプラスチック再利用のワークショップなど盛りだくさんの内容だったようだ。そこで、ゲストとして参加した水中ごみ拾い専門店「Dr.blue」代表の東真七水さんに取材を敢行! イベントの魅力はもちろん、タオ島でのダイビングや観光スポットまで語ってもらった。
タイ屈指のダイビングサイト「タオ島」ってどんなところ?
タオ島は、マレー半島の中央やや上あたり、タイランド湾の奥に浮かぶ島。白い砂浜から一歩海へ入れば、美しいサンゴ礁に魚群が集まる呆然自失の光景が広がる。
島の全域には20余りものポイントがあるが、とくにダイバーに人気なのが野生のジンベエザメに出会える「チュンポンピナクル」。全長100mほどにもなる隠れ根(=ピナクル)を、キンセンフエダイやバラクーダの群れが覆いつくし、そこへグレーリーフシャークやジンベエザメも出現するというからすごい。
さらにうれしいことに、島の立地がタイランド湾の奥であることと、潮の干満が一日に一度しか起こらないという海洋条件が相まって海況はとても穏やか。ドリフトダイビングをせずとも目的の生き物に出会いやすいのだ。
ベテランダイバーから初心者まで優しく受け入れてくれるタオ島は、アフターダイブも楽しい。現地のソウルフードが並ぶ屋台や本場のタイ古式マッサージ、ニューハーフショーなど遊び場が盛りだくさん。
そんなタオ島へのアクセスは、飛行機とフェリーを乗り継ぐのが一般的。タイの首都バンコクから、サムイ島まで約1時間飛んだ後、約2時間のフェリー旅で到着する。ちょっと不便なのも飛行場がなく、自然豊かなタオ島ならでは。
タイのサステナブルツーリズムイベント
「スポットライト タオ島 2023」とは?
これだけ魅力があるタオ島だからこそ、ダイバーはもとより世界中から多くの観光客が集まる「オーバーツーリズム」が課題となっている。観光客が増えれば、地元は経済的にうるおう一方、悲しいことにごみの量が増えてしまい、海へのポイ捨ても散見される状態。島内の混雑をも余儀なくされており、島民の生活環境にも悪影響がでているという。そこでタオ島観光協会は、タイ国政府観光庁などと共同で、2023年4月7日から9日まで環境保全イベント「スポットライト タオ島 2023」を開催した。
観光客に対して責任のある観光を促すために用意されたのは、海洋保護と島の環境保護のための学びを深める12のプログラム。
ダイビングでの水中清掃や、海洋ごみプラスチック再利用ワークショップなどを地元住民と一緒に楽しみながら実践する。環境・地域住民・旅行者が三方良しの状態であって初めて、持続可能な観光(=サステナブルツーリズム)ができるという考え方だ。
タオ島では、6月8日の「世界海洋デー(※)」にも海中クリーンナップを開催。このイベントに先駆けて12のプログラムを通して学びを深めておくことで、環境負担が少ないごみ拾いを促す狙いも。
※2008年に国連総会で制定された国際デー。海洋資源の尊さに思いをはせ、私たち一人ひとりに何ができるのかを考える日
ワークショップ、ファンダイビング、陸上観光と盛りだくさんの内容
サステナブルツーリズムを促す「スポットライト タオ島 2023」にゲストとして招かれたのは、水中ごみ拾い専門店「Dr.blue」代表の東真七水さん。4月のイベント期間中と6月の海洋デーの2回来島したという。ここからは、実際に体験した東さんにイベントの内容を語っていただこう。
ゲストとして参加したのは、水中ごみ拾い専門店「Dr.blue」代表の東さん
3つのワークショップを体験
サステナブルツーリズムを促す「スポットライトタオ島」が伝えたいポイントは大きく3つ。①自然と共に生きる②ごみを出さない島づくり③現地の人々との交流だ。
イベント開催中は、この3つのポイントをもとに作成された12のワークショップから自分が気になるものをいくつか選んで参加する。東さんが参加した3つのプログラムを順に紹介していこう。
自然と共に生きる「水中とビーチの清掃」
まずは、「水中の清掃」だ。釣り糸や漁網などのごみが落ちているポイントでボートエントリーし、2ダイブの清掃を行う。プログラムは、現地インストラクターのブリーフィングからスタート。
PADIのスペシャルティ・コース「AWAREダイブ・アゲインスト・デブリ」の内容に沿って英語で説明が行われる。このコースでは、世界やタオ島における海洋ごみ問題の現状を理解したうえで、取り除いていいごみとそうでないごみを見極めるスキルと、集めたごみを分別するスキルを習得できる。
座学のあとは、いよいよダイビングへ出発。ごみを見つけたら、用意されたネットへごみを入れるのだが、水中環境に影響を与えないように、中性浮力に関してかなり厳しく指導されたのが印象深かったそうだ。
いかに環境へのインパクトを少なくしながら水中でごみを拾えるかにフォーカスしたプログラムでした。ゴミの回収の仕方一つとっても、本プログラムのインストラクターがやってきて、仕草をチェックするといったストイックなもの。みんなで楽しくごみ拾いをするという私のスタイルとは異なるだけに、刺激を受けました。生かせるところは自身のツアーにも取り入れたいと思います。
「アクティビティとしてみたときの水中ごみ拾いの醍醐味は、”ひとつでも多くのごみを回収する”という目標に向かってバディと協力することにあります」と語る東さん。サンゴ礁に絡まった釣り糸を一緒にほどいたり、ごみを見つける側と回収する側のように役割分担を決めて取り組んだり。協力プレイを楽しむチームスポーツのようなイメージだ。
今回のプログラムでは、それぞれの裁量に任せる自立したごみ拾いだったようだ。言い換えれば、個人プレイともなりえる。一人でもくもくと取り組むのもいいが、楽しく効率的にごみ拾いをするためにも、協力体制はかかせない! と、再確認できたという。
一方で、感動したのがタオのスタッフさんたちのサポート体制。ごみを船へ引き揚げるところから、ごみの分別、その後の処分まで総出でやってくれたんです。ごみを拾う人だけではなく、周りの人も一緒になって手伝う姿勢に意識の高さを感じました。
ごみを出さない島づくり「海洋ゴミプラスチック再利用」
このプログラムは、海洋ごみプラスチックを題材にアップサイクルを体験するという内容。アップサイクルとは、ごみとして廃棄されるはずだったものに価値をプラスして新しい製品へ生まれ変わらせる手法のこと。いまある材料を生かすことでエネルギーコストを極力抑え、環境に負担をかけないといったメリットがある。
では、海洋ごみプラスチックをどう集めて、何にアップサイクルするのか。まず、ワークショップを行う工房前に設置されたごみ箱に注目あれ。海やビーチに落ちていたペットボトルなどを地元の人たちがポイポイっと入れていくのだ。
ごみが一定量たまったら、工房の粉砕機で色別に砕く。
そこから好きな色をいくつか選び、溶接機に流し込んで新しい製品を作るという仕組みだ。溶接する型は、カラビナやワインオープナー、コースターなどさまざま。
ごみ処理施設のないタオ島ゆえに、このようにプラスチック廃棄物を集めて再利用し、新たな製品を生み出している。
島からごみを出さない仕組みづくりは、体験したワークショップのほかにも島内のあちこちで見かけました。たとえば、カフェでは使い捨てのストローの代わりにアルミストローを採用していたり、ホテルではペットボトルの代わりにリターナブル瓶(※)が採用されていたり、エコバックが備え付けられていたり。街には水をマイボトルへ汲めるウォーターステーションもたくさんあります。小さなことですが、観光で成り立つ島だからこそ、自然を大切に、観光で発生するごみは極力出さないように意識を高く保っている印象でした。何と言っても、ごみを出さない島づくりの根底にあるのは、地元の人たちのタオ島への愛。停電がしょっちゅう起こるような島なので、住みづらい要素はほかにもあると思うんです。そんな中でも島にいる選択をしているのは、愛があってこそ。自分たちを生かしてくれる自然豊かなこの島を守ろうと、一人ひとりが積極的に行動しているのだと感じました。
※返却、詰め替えをすることによって、何度も使用できる容器
現地の人々との交流「廃棄ガラスのアクセサリー作り」
このプログラムも、海洋ゴミプラスチックの再利用と同様に、シーグラスを題材にアップサイクルを体験するという内容。地元の人に編み方を教えてもらいながら、浜辺から回収したシーグラスと紐を使ってストラップやネックレスを作っていく。
このプログラムは、ごみを捨てる以前に、ごみを出さないこと、ごみをごみとしないといったゼロ・ウェイストの概念をベースにしています。作るものはすべて今ある材料からにして、循環させていこうという発想ですね。いきなり100点満点のゼロ・ウェイストを実行するのは無理かもしれないけれど、このように楽しみながらやることで、意識の底上げや認知拡大に繋げることに意味があるのだと思いました。
プログラム中に、地元の人と交流ができたのもよかったです。ビールを飲みながら、何気ない会話を交えていくうちに、ゼロ・ウェイストの価値観を学べました。印象に残ったのが、ココナッツの葉で染めたTシャツをすごく自慢げに話してくれたこと。タオ島では、ハイブランドを身に付けることがステータスではなく、島で採れたものを大事に思える価値観こそが共感されているんだと気づきました。社会というのは、こういった個人の意識の寄せ集めでもあるので、価値観の醸成は大切だと改めて実感。スポットライトタオ島のようなイベントを通じて、少しずつでもいいから価値観が広まっていけばいいなと思うのと同時に、私もできることを大切にやっていきたいと思いました。
ファンダイビングや陸上観光も楽しみました!
ここからは、サステナブルツーリズムの合間に東さんが出会ったタオ島の魅力について紹介していこう。
魚影が濃く、大き目の魚がたくさんの海!
東さんがファンダイビングをしっかり楽しんだのは、6月の世界海洋デーに合わせて来島した際のこと。本来、乾季にあたる6月は、海の透明度もよく、ジンベエザメが出没する西海岸のポイント「チュンポンピナクル」で潜ることが多いのだが、どうやらエルニーニョ現象で海況がすこぶる悪かったそう。そんなわけで、今回は東海岸のダイビングを楽しんだ。
メインポイントではなかったものの、魚影と大物の水中ごみに恵まれ、サステナブルツアーにふさわしいファンダイビングになったようだ。
リーズナブルなローカルフード三昧!
夜のエンターテイメントも外せない
街には、手軽でおいしいローカルフード店がたくさん!
ほかにも、リーズナブルで本格的に楽しめるタイ古式マッサージ店がおすすめ。東さんと一緒に体験したゲストは、日本で受けたどの施術よりもよかったとお墨付き。1時間1,500円ほど。
遊ぶには困らないタオ島。せっかくなら、自然もグルメもエンターテイメントも存分に楽しめるスケジュールを確保したい。
まとめ
タオ島の美しい自然は、地元の人たちの島愛に支えられ、持続可能な未来に向かっている。
責任がある観光が当たり前にできるようになるには、その土地の自然に触れ、地元の人のリアルな価値観に触れることがカギだ。「1人の100歩より100人の1歩」と東さんが語るように、一つひとつは小さな取り組みでも、多くの人が取り組むことで道は開けるはず。環境・地域住民・旅行者の三方良しを目指すタイのサステナブルツーリズムの輪が広がりますように。
東さんコメント:「水中ごみ拾いを通じて海のSOSを知ってほしいと同時に、ゴミ拾いは実はとても楽しいということも知ってほしいと思い活動しています。環境問題について前向きに考え、何かアクションを起こすきっかけとなれたら嬉しいです。ごみ拾いダイビングはただの慈善活動ではありません。ファンダイビングとは異なるおもしろさが大いにあるので、是非一度潜りにきてくださると嬉しいです。」
Sponsored by タイ国政府観光庁
▶︎公式サイト
▶︎Instagram
▶︎Twitter
▶︎Facebook