リブリーザーとは?テクニカルダイビングの雄・田原浩一氏が徹底解説

リブリーザーのデメリットとなる要素とは 

次にリブリーザーと一般的なスキューバシステムとの違いが、リブリーザーのデメリットとなる要素をあげてみます。

最初にお断りしておきたいことですが、リブリーザーは通常のスキューバシステムと比べて高価で、かつ運用に費用がかかるだけでなく、すでにダイバーであっても、新しくリブリーザーのための講習の受講も必要となります。リブリーザーを使うために改めて必要となる費用や時間が必要となるわけで、しかもそれらは共に小さくはありません。
明確な目的や計画があって必要となる出費や時間であれば問題ありませんが、それらのないリブリーザーの導入、運用ではメリットとデメリットのバランスは極端にデメリット側に傾くと思います。

ということで、ここからは、一応、明確な目的や計画があってリブリーザーを使う場合という前提で話を進めます。

●準備や後片付けに手間がかかる

リブリーザーは通常のスキューバシステムに比べて構造が複雑なため、準備にも後片付けにも手間がかかるという点もデメリットにあげられると思います

リブリーザーダイビングには複数のシリンダーの充填やセット、二酸化炭素吸収剤のセット、呼吸ループの組み立て、さらにループの気密の確認、必要なシステムの作動確認を完璧に行う、など多くの作業がもれなくついてきます。
その過程で小さなトラブル、細かい異常が見つかる可能性もあります。その可能性はさほど高いものではありませんが、頻度は通常のスキューバシステムより確実に上です。そうした場合は原因の究明や対応と言った付加的な作業も加わります。
トラブルや異常の種類によっては、せっかく組み上げたシステムを再度分解してトラブルに対応したのちに再度組み立てなくてはならない場合もあります

トラブルが重大でその場で対応できない場合は、ダイビング自体ができなくなる可能性も。そうならないために、バックアップの部品や器材の用意も必要になります。ダイビング後はシステムの洗浄や分解、ループ内の殺菌、乾燥といった作業も不可欠です。これらをしっかりしておかないとリブリーザーを快適、快調に使うことは難しくなります。

結果、リブリーザーを使うダイビングは一般的なスキューバシステムを使うダイビングより手間暇がかかり、ダイビング前後の時間的な余裕もかなり大きくとっておくことが必要となります

またリブリーザーのトラブルに関しては、ダイブショップのスタッフやインストラクターが近くにいたとしても、その方たちがリブリーザーのスペシャリストである可能性は非常に低いので、深刻でないトラブルに限りますが、リブリーザーのユーザー自身での対応が必要な場合も考慮しておきましょう。従って器材に対してのある程度の知識やトラブル対応技術、そのための予備のパーツや器材の携帯も必要です。こうした部分は通常のスキューバシステムに対しての大きなデメリットと言えるでしょう。

一般的なスキューバシステムで楽しめるダイビングでわざわざリブリーザーを使うには、こうした手間暇を超える明確な理由が必要だと思います

撮影:大原拓

撮影:大原拓

●ダイブサイトがリブリーザーに対応していないことがある

リブリーザー運用には、一般のダイブサイトでは手配しにくい酸素の充填や二酸化炭素吸収剤の確保が必要となります。これらなくしてはリブリーザーを使うダイビングはできません。リブリーザーでのダイビングでは、ダイブサイトがリブリーザーダイビングに対応できるかの事前チェックが不可欠です

またリブリーザーは通常のスキューバ器材と比較して大きくて重く、さらに現地で調達できない物は持参する必要もあるので、運搬にも手間がかかります。通常器材を使うダイビングのように、ダイビングバッグ1つに必要器材を詰めて好きなダイブサイトに気軽にダイビング、というわけにはいきません。これらもリブリーザーのデメリットと言えそうです。

●器材の作動状態を、頻繁に確認・把握する必要がある

リブリーザーを使うダイビングでは、ダイビング中も器材の作動、状態の頻繁な確認、把握が不可欠です

一般的なスキューバシステムの場合、たとえばシリンダーバルブの開け忘れ、ガス切れ、フリーフローやОリングの欠損によるガスリーク等、事の重大性の高い低いは別として、運用ミスや器材の異常があった場合、ダイバーがそれに気づくのは難しくありません。

一方リブリーザーは自分の吐いた息を循環させるため、ガスの供給に異常が起きてもそれが自覚できない場合があります。人間の呼吸中枢を刺激するのは酸素ではなく二酸化炭素であるため、二酸化炭素さえ問題なく吸収されていれば、酸素が供給されていなくても、あるいは酸素過多の状態であっても感覚だけでそれに気づくのは簡単ではありません。

酸素シリンダーのバルブの開け忘れや残圧切れ、ソレノイドバルブが開かなくなるトラブル、電気で作動するシステムのスイッチの入れ忘れ等、酸素が足りないことによる危険な状態と共に、酸素センサーの異常やソレノイドバルブから異常な酸素吐出、短時間での極端な大深度へ移動等、酸素分圧が高くなりすぎる危険な状態も感覚で察知することは難しいでしょう。
そうした自覚しにくくかつ命に関わる問題が起きる要素が多いのも、一般的なスキューバ器材に対してのリブリーザーのデメリットでしょう

そうした状態にならないためには、準備段階だけでなく、ダイビング中もシステムの状態のモニターやチェックなどリブリーザーならでは必要作業をし続ける必要があります。こうしたダイビング中の作業の多さも通常のスキューバ器材に対するリブリーザーのデメリットと感じるダイバーが多いと思います

●トラブルへの対応の種類、選択肢が多い

モニターやチェックによってリブリーザーの異常を認識した場合は、その異常に対する正しい対応を滞りなく行う必要があります。また、リブリーザーに起きる可能性のあるトラブルには、1つの問題に対しての対応に複数の選択肢があるものも多く、問題が起きる要素の数だけでなく、ダイバーが判断して取るべき対応の種類、選択肢も一般のスキューバシステムより圧倒的に多くなります。
トラブルが起こっているストレス下で、その対応に関しての判断、選択を強いられる可能性が高いというのも、リブリーザー運用上のデメリットと言えるかもしれません

ただし、トラブルへの対応の種類、選択肢が多いというのは逆にダイバー自身に使いこなす力があればトラブルに対する対応の幅が広いとも言えます。場合によっては、それはメリットともなります。言い換えればリブリーザーはそれを使うダイバーの能力や適正が大きく問われる器材であり、ダイバー次第でメリット、デメリットが逆転する場合もある器材と言えそうです。

●トラブルが起こる可能性が、一般的なスキューバシステムより高い

リブリーザーはシステムが複雑で、さらに機種やタイプによって使われている部品数の多い少ないはあっても通常のスキューバ器材にはない電子部品が使われています。こうした性格上、トラブルの要素、可能性は一般的なスキューバシステムより高くなります。場合によってはちょっとした水没でシステムが正常に稼働しなくなることもあります

このため、リブリーザーによる本格的なダイビングでは、システムが完全に使えなくなっても無事にダイビングを終えられるように、独立したベイルアウト(緊急脱出用)器材の携帯が不可欠です。一般的にベイルアウトとして用意するのは、レギュレーターシステムをセットしたシリンダーです。従ってリブリーザーを使うダイビングでは、ダイビングの度に、使う機会の稀なシリンダーとスキューバユニットを用意し、組み立て、チェックし携帯しなくてはなりません。これもリブリーザーを使う際のデメリットかもしれません。

ただし、メインのシステムが使えなくなっても、ダイビングを終えることが可能な完全に独立したスキューバシステムを持っているというのは大きなメリットになります。
適正と能力があれば、メインの呼吸システムであるリブリーザーが完全に使えなくなっても、人に頼ることなく無事にダイビングを終えられるというのは、特にテクニカルダイビングでは軽視できない大きなメリットです

●呼吸抵抗を感じる場合がある

一般的なレギュレーターではダイバーが息を吸うと、それをきっかけとして周囲圧よりも高い圧力のガスが必要なだけセカンドステージ内に吐出してきます。
一方、リブリーザーはダイバーが吐いた息を再利用するため、呼吸用のガスの圧力は周囲と同等で、さらに呼吸によって呼吸ループ内のガスが一方方向に移動するようダイバーの口元近くにガスの流れに対する抵抗(大きくはありませんが)となる一方弁も配置されているため、一般的なレギュレーター呼吸に比べると呼吸抵抗が高めになる傾向があります。ただしそれは極端なものではなく、感覚的にはシュノーケル呼吸に近い程度です。

また、リブリーザーのループには、吐いた息を一旦溜めておくカウンターラングという袋が配されていて、機種によってはそのカウンターラングの位置とダイバーの呼吸ルートとの位置(周囲圧)関係を原因とした呼吸抵抗を感じる場合もあります。

これらはごく普通のダイビングをしている限り特に騒ぎ立てるほどのデメリットではありませんが、(機種によっては)極端な姿勢を維持したり、激しく動いて呼吸が弾んだりした時に明らかな呼吸抵抗を感じる可能性があり、これはリブリーザーのデメリットと言えます

またシングルシリンダーの装備と比較するとシステム自体のサイズが大きくベイルアウト用のシリンダーの携帯もあるため、水中を移動する際の抵抗が大きくなり、それ自体及び、そのことを原因とした呼吸抵抗の増加もリブリーザーのデメリットです。総じてリブリーザーは、呼吸が弾むようなハードなダイビング向きの器材ではないということになります

撮影/大原拓

撮影/大原拓

●浮力コントロールが通常の器材より難しい

リブリーザーはその構造上、浮力コントロールが通常の器材より難しいと感じるダイバーが多いようです。

吐いた息を水中に放出する通常のスキューバ器材は、肺の大きさの変化から息を吐けば浮力が減って、吸えば浮力が増しますが、吐いた息をシステムの外に放出しなで肺とループの間でキャボールするリブリーザーに、この理屈は通じません。従って、今までのダイビングで身についた呼吸による浮力コントロールの感覚や技術は、リブリーザーのダイビングには応用できません

さらにリブリーザーはその構造上、浮上時に極端な浮力の増加が起きます。これは呼吸ループ内のガスの膨張に加えて、ループ内への酸素の追加も続くためです。特にループ内の酸素分圧を一定に保つように働くシステムのエレクトリカルタイプのリブリーザーは、浮上によるループ内のガスの膨張によって低下した酸素分圧を設定値まで高めるためにまとまった量の酸素を追加するので、浮上中の浮力はダイバーが思った以上に大きくなり続けます。

したがって浮上中のリブリーザーダイバーは、通常のBC排気に加えて、呼吸ループ内ガスの、先を見越した適量排出を続ける必要があります。通常の器材であればかなりの浮力コントロールが可能な呼吸のコントロールもリブリーザーでは役に立たないため、いかにベテランダイバーであってもリブリーザーの浮力コントロールが自在になるにはかなりの時間がかかるようです

以上、通常器材とリブリーザーを比較しながら目につきやすいメリット・デメリットをまとめてみました。しかし最初に説明したとおり、器材のメリット・デメリットは目的とするダイビングによって変化します。ですから、リブリーザーでのダイビングを検討する際は、まず自分のダイビングのテーマや目的を明確にすることが大切だと思います

リブリーザーを使いたい場合は、どうすればよいか?

では実際に、リブリーザーを使ってみたいという場合は、どうすればよいかを説明していきましょう。
いくつかの指導団体は、レジャーダイビングでリブリーザーを使いたいダイバーのための講習カリキュラムとインストラクターを用意しています。リブリーザーを使いたいダイバーはそうした講習を受講することで、リブリーザーダイバーになれます。

講習ではリブリーザーの基本的な構造や運用に関する知識、技術、トラブルの可能性やその対応、潜水計画をはじめとしたリブリーザーを効率的に使うための様々なテーマについて学ぶことができるはずです。

ただし、リブリーザーの講習は使う機種ごとに設定されているので、ただ漠然とリブリーザーを使いたい、ではなく、どのリブリーザー(機種)を使いたいかの選択が必要になります。また、リブリーザー講習を受講するためには、ダイバーレベルの前提条件がある場合もあります。いずれにしろ、リブリーザーを使いたいなら、まず自分で能動的に動き、ある程度の事前知識を得ることが必要だと思います。その上でリブリーザーを扱うショップやインストラクターに相談してみるのがいいでしょう。日本でも多くの種類のリブリーザーの講習が可能です。

なお、リブリーザーの講習には段階があります。一般的には、まず希釈ガスにエアを使ってレクリエーショナルダイビングの範囲で潜るエントリーレベル。次にリブリーザーを使って減圧ダイビングを行うコース。その先にヘリウムを加えた希釈ガスを使ってレクリエーショナルダイビングの範囲を超えた最大水深に潜るミックスガスリブリーザーのコース(エントリーとアドバンスド の2段階の設定)が用意されています。

リブリーザー講習を受けているダイバー(撮影/大原拓)

リブリーザー講習を受けているダイバー(撮影/大原拓)

最後になりますが、オーシャナ編集部から「ドラマ『DCU』の中で、水深100mまで潜るシーンが出てきましたが、リブリーザーを使用すると、あのような潜水が可能になるのですか?」という質問を受けましたが、こちらについてお答えします。

最大水深100mのダイビングは、リブリーザーを使用するから可能になるわけではありません。通常のスキューバ器材でも大深度に合わせた器材構成と必要なガスを用意して、体制を整えれば可能です。ある程度までですが、深度の限界は使う器材ではなくて使うガスによって決まります。

通常は、ということでざっくり紹介すると、リブリーザーで潜れる最大水深や時間は、水深45m程度、時間は3時間程度としておくのが無難だと思います。もちろん、通常にはその先がありますが。

ただ、メリット・デメリットの項で説明したように、リブリーザーを使うダイビングでは、必要となるチェックや確認が多くなります。また、二酸化炭素吸収剤には使用の限界があるので、リブリーザーでのそれを超えたダイビングは基本的にはできません。ですから、ガスを自由にブレンドできて無尽蔵に使えるなら、通常器材を大深度用に構成して使う方がリブリーザーを使うより、より深く、長く潜れるかもしれません

なお、実際に使うガス量やガスの費用はリブリーザーの方が圧倒的に少なくて済みますが、装備という部分では、万一のシステムダウンに備えてたくさんのベイルアウトのタンクを携帯するので、リブリーザーだから極端に身軽でいられるということもありません。

リブリーザーはそれに適したテーマ、フィールドで使うにはとても優れた器材ですが、決して万能の魔法の器材ではなく、さらに本当に使いこなすには知識や技術、経験だけでなく、ユーザーの適正も求められるタイプの器材だと思います

田原浩一さんの解説で、リブリーザーについての理解は深まっただろうか? リブリーザーの基礎知識を知ってから、ドラマ『DCU』を見るとまた新たな発見があるかもしれない。

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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