宮城県・気仙沼の海で瓦礫撤去レポート
昨日までの楽しいファンダイビングとはうって変わって、今日は宮城県の気仙沼で主にロープ切り。
津波によって水中でロープが絡み合ってしまい、そのまま放置しておくと、新たに養殖ができなくなってしまうため、ロープを取り除く作業です。
ホタテやカキの養殖の場合、水底の瓦礫ごと引き上げないと後々大変なことになる可能性があるのですが(中途半端に瓦礫から伸びるロープを切ってしまうと、ホタテやカキはロープを深く垂れ下げるため、一旦養殖を始められても、後々瓦礫が浮き上がって、養殖のロープに絡み合ってしまうことがある)、今回はワカメの養殖場だったので、水深20メートル以浅でひたすらロープを切る作業(ワカメの養殖は水面付近しか使わないので)。
今までの作業の中でも、比較的ストレスの少ない作業です。
水温23.5度、天気も海況も良好、透明度も比較的よく、ウエットスーツで気持ちの良い環境。
水面から潜降ロープを下げ、作業しないダイバーはそのロープを持ちながら、バティの作業ダイバーを見守る役どころ。
作業ダイバーは1~2分の作業の後、選降ロープまで戻り、浮上開始。
浮上速度は毎秒ひとこぶしで、安全停止は4.5メートルで作業内容によって3~5分、安全停止後の浮上速度は毎分3分、今回の水深の場合、水面休息時間は45分以上と、これまでの積み重ねによってできたルールに忠実にテンポよく進んでいきます。
4ボートで40本近いロープを撤去し、午前中には作業は終了。
「これで、ワカメの養殖ができる」と漁師さんにも喜んでいただけました。
午後は、他の港で漁場となる海域の水底にラインを引いて、瓦礫の有無を確認する作業。
こちらも順調に進み、特に大きな瓦礫もなく無事に終了し、「安心して、サケなどをとる定置網が入れられる」という状態になりました。
以上は、これまではプロに限られていた作業ですが、ステップを踏めば、徐々に一般ダイバーにも参加していただいてもよい内容だと個人的には感じています。
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よく「今、東北の水中の復興はどこまで進んでいるのですか?」と聞かれますが、人の手が入っているところは進んでいるし、入っていなければ瓦礫だらけ、という他ありません。
行政、漁協、港によって状況はさまざまです。
予算をつけて巨大なクレーン台船で体系的に瓦礫撤去を行なえば早いと率直に思うのですが、行政の予算のかけ方、政治力、縄張り意識、マンパワーなどなど、いろいろな理由で、隣り合う宮城と岩手、宮城の中でも漁協によって、事情が劇的に異なります。
そうした、いわゆる“しがらみ”を超えて、今回、漁協とダイバーの間を取り持った「TSUNAGARI」を始めとする、「三陸ボランティアダイバーズ」や「日本安全教育協会(JCUE)」、「潜酔亭」など、地元と密着して水中作業をする団体は、海の町にとってとても重要な存在です。
例えば、「三陸ボランティアダイバーズ」が活躍している、昨日までいた岩手の越来喜湾などは、震災直後から撤去作業が始まり、今では地元と組んで、新しいダイビングポイントの開発というところまで来ていますが、今いる気仙沼の海は、瓦礫がほぼ手つかずの状態。
その明暗を分けるのは、“つながり”や“思い”。
何度も被災地を訪れて思うのは、個人の意思が、現実を動かしているという強い実感です。
今回も、「TSUNAGARI」の代表、かっつんこと勝又さんが、現地に根付いた活動をしている中で、行政から依頼されて実現しました。
今回の活動で、まだまだ、ダイバーが必要とされていることを実感。
反対に、「何かできることはありませんか?」と、オーシャナ読者のダイバーの皆さまに聞かれることもありますので、それらをつなぐことができればと思っています。
全体でみれば海中の復興はまだまだですが、“意志ある海”は確実に前進します。
■撮影:陸上/むらいさち、水中/じゅんじゅん