リアル・サイドマウント体験ダイビング(第2回)

「エントリーが楽ちん」は本当か? ~巷で言われているメリットの真実~

日本でも注目を浴びつつあるサイドマウント・ダイビング。
しかし、「正しく普及されていないのでは?」と危惧する田原浩一さんが言う“本当のサイドマウント・ダイビング”とは?
実際に体験してみたレポートです。

サイドマウントのレクチャー

まず、田原さんから、「サイドマウントのメリットは何だと思う? あるいは、メリットといわれていることを言ってみて。事実とは異なるセールス用のメリットは全部、否定していくから」と圧迫面接のようなレクチャーからスタート(笑)。

これは、経験というよりロジックの問題なので、こちらも頭をフル回転させて、田原さんの考えが違えば指摘するつもりで臨んだ。

よく言われるメリット
器材の運搬が簡単、エントリー/エグジットが楽

寺山

すぐに思い浮かぶのが、器材の運搬が簡単、エントリー/エグジットが楽ってことですよね。

田原

本当に楽だと思う? まず、レギュレーターセットのセッティングを2本分しなくちゃならないし、BCにセットするためのフッキング用のボルトスナップやバンドのセットという通常のシングルタンク装備にはなかった仕事も、タンク2本分増える。さらに、タンクを背負って歩ける通常の装備と違ってエントリー口に2本もタンクを運ばねばならないんだよ? これって、むしろ大変だよね。

寺山

むむ。聞いてもあまりイメージできないのですが、大変そうなことだけはわかります(笑)。ただ、僕が以前、ビーチダイビングで体験した時はとても楽で簡単でした。でも、これはあらかじめ、サイドマウント用にセッティングされたタンクがビーチサイドに置かれているので、重いタンクを背負うことなくエントリー口まで歩いていき、エントリーした後にタンクをBCに付けて潜るだけだったからなんですね。

つまり、環境によるところが大きいのかもしれません。
伊豆だと、獅子浜以外のビーチダイビングだと大変なことしかないかも。

田原

そう。条件として、「タンク要員としてのサポーターがいる」、「ロケーションによる」ってこと。それと、常にあるのが「サポート要員がいない状態で比較しても、従来のシングルタンクより楽といえるのか? また、足場の悪い、あるいは波やうねりのあるエントリー/エグジットポイントでもシングルタンクより楽といえるのか?」という疑問。この条件を隠して、さも、「サイドマウントは楽だ」というメッセージは違うと思う。

プールでサイドマウントダイビングのトレーニング

寺山

でも、以前やった時、“背負って立ち上がる”という行為がないので、腰への負担も少なく、そこはとても快適でしたよ。それに、狭い船上で装着したり、海に入ってからタンクを装着できるボートダイビングなんかだと有効じゃないですか?

田原

だったら、シングルタンクをBCごと海に入ってから渡してもらう方が楽じゃない? 「体力のない人が、水中でタンクを装着できるのがウリ」とも言われているけど、それもシングルタンクをBCごと水面で渡してもらって着ればいいじゃん。それに、エグジット時にタンクをはずすというのは、手が滑ればタンクがレギュセットごと海中に落ちていくリスクもあるし、海況が悪くなった場合、船上へ外したタンクを渡すというのは、とても危険。

タンクを受け取ったスタッフが手を滑らせれば、落ちたタンクがダイバーを直撃する可能性だってある。実際、海外ではそうした事故も起きているからね。浮力体を持たない単独のタンクの脱着は、場合によっては、エントリー/エグジットのリスクをむしろ増やすんだよ。

寺山

なるほど……。サポーターがいるロケーションが整っていれば、運搬も楽な場合もある。エントリー/エグジットでは、なかなかシングルを超えるメリットはなく、やはり、それでもタンク2本で潜るには、その必要性やモチベーションが必要ってことですね……あ、サイドマウント1本という方法も提案されていますよね? 1本ならその点のデメリットをクリアできるのでは?

プールでサイドマウントダイビングのトレーニング

田原

タンクが1本でも2本でも、タンクの脱着がリスクとなる状況下でのリスクはなくならないよね。それに、タンク1本だけを体の横にセットして、わざわざバランスを悪くするより、背中に背負った方が合理的じゃない? 自分がサイドマウント1本で潜る理由があるとすれば、サイドマウント用のBCしかない時ぐらいだね。

寺山

では、通常のタンクを2本持っていくのが大変なら、小さいタンク2本を持っていくのはどうですか?

田原

扱いに困るような巨大すぎる1本のタンクを二つに分ける、という話なら理解できるが、なぜ普段1本で使っているボリュームのタンクを、2本に分ける必要があるのかを逆に聞いてみたい。先ほど、言った通り、レギュセットは2倍必要だし、セッティングも解除も、脱着も2倍の手間が必要。エントリー/エグジットのリスクの増加も含めて、説得力のある実践的なメリットは考えにくいよね。

緊急時の独立した呼吸源の確保というなら、通常のシングルタンク装備に2L位の存在感のないポニーボトルを用意する方がよほど合理的。いずれにしろ、まず、サイドマウントありきで、それを何とか楽に、魅力的に感じさて商売に繋げたいという売り手側の策略としか、僕には感じられない。事実、サイドマウントの本場でそんな装備で潜るダイバー、見たことありません。

寺山

……特に返す言葉はありません……。

サイドマウント ダイビングのレクチャーまとめ

・「サポーターがいる」、「ロケーションが整っている」という条件をクリアしていれば、運搬も楽な場合もある。日本ではその辺の環境は少ない。
・エントリー/エグジットにおいては、なかなかシングルを超えるメリットはなくリスクはむしろ増す。
・それでも、2本のタンクで潜る必要性やモチベーションとは何か?

次回、「水平姿勢が楽、泳ぐ抵抗が少ない」は本当か? に続く。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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