約2週間、奄美諸島海域に居続けたザトウクジラの親子

奄美2017 越智

1月末、2月末と2度にわたり、ザトウクジラリサーチに訪れた奄美諸島。
今年は例年よりクジラの目撃情報が多く、かつ、マリンスポーツ奄美のオーナー才秀樹さんによると、「例年は、沖縄に一直線に移動していくのが普通で、通過点でしかなかった奄美だが、今年は、奄美にとどまっている個体が多い」とのこと。
そう考えると、クジラたちの行動も明らかに違っていた。

はっきりしたことは言えないが、大きな要因として考えられるのは、まず、この海域を訪れるクジラの個体数が増えたのではないかと言うこと。
(1970年から、米国での絶滅危惧種に指定されていたザトウクジラの個体数が、過去40年間の米国および、国際的な保護・保全計画により回復し、昨年2016年9月6日には、米海洋大気局(NOAA)により、米国の絶滅危惧種から外れたと発表された)。

そして、第二に、水温の高さ。
「例年より2度は高い」という今年の水温は、多くのクジラたちに、奄美が子育てする環境には適温と感じられているのかもしれない。

1月末は、太平洋側を沖縄に向かって一直線に南下、2月末から3月にかけては、東シナ海を流れる黒潮に乗って北上するというパターンが、今年は当てはまらない個体が多い。
しかも、普段は水深200mほどの海域を移動しているのに、今年に限っては、島に近い、水深30m、時には20mほどの浅瀬でとどまっている親子の目撃情報も多かった。

それは、21度という今年の奄美海域の水温が、母クジラにとって、快適で最適な子育て環境であると認知されたからなのかもしれない。
地形を見ても、島々に囲まれ、山がちで入り組んだ奄美の地形は、個人的には、毎年訪れているトンガ王国のババウ諸島に似ていることもあり、「クジラの子育てには適している感じだな」という印象があった。

奄美2017 景色 越智

山が海岸線まで迫っている奄美の島々は、クジラたちが強風を避けて子育てをするには最適な環境に見える

南半球のトンガでも数年前に水温が高くなり、ババウ諸島=沖縄、トンガタプ=奄美という位置付けのトンガタプで、多くのクジラが目撃された年があった。
それがきっかけで、トンガタプでホエールスイムのビジネスをスタートさせた友人もいるのだが、結局翌年からは、またそれほど見られなくなり、結局はババウに多くのクジラたちがやってきている状況が今現在も続いている。

自然のことだから、今後どうなるかは定かではない。
このまま水温の高いシーズンが続けば、奄美にとどまるクジラの個体数が増えるかもしれないし、水温が下がって、また皆沖縄を目指すようになるのかもしれない。

ちなみに、余談だが、去年末から今年にかけては、メキシコのバショウカジキ、南オーストラリアのホホジロザメなどあちこちの海に取材に訪れたが、どこも例年より水温が高く、高水温なのは一部地域的限定なことでも無さそうだ。

また、通年、ババウの水温は25度前後あって、トンガタプは、21~22度が普通。
沖縄の水温を考えると、トンガタプの方が適温にも思える。

奄美では初めてと予測されるクジラの生態を確認

来年以降どうなるかはさておき、今年、奄美では初めてではないかと思えるクジラの生態が確認された。

それはどんな状況かと言うと、同じ親子が、ほぼ同じ海域に2週間以上とどまり続けたこと。
ホエールウォッチング船コホロの太田健二郎さんが、その親子を奄美海峡の中で最初に確認したのは、2017年2月10日のこと。
その後、加計呂麻島の南、ハンミャ島近くに移動して、2月16日~20日と5日間連続で確認された。
最後に確認したのは、2月25日。
実に16日間もほぼ同じ海域にとどまっていたことになる。

体色の黒い子クジラの左側面に、ダルマザメに噛まれた跡があり、それが個体識別の明確な目印になっていた。

奄美2017 越智

今回、2月10日から25日まで、同じエリアで目撃情報のあった、親子クジラの赤ちゃんの左側面には、楕円状にダルマザメに噛まれた跡があった

トンガのババウ諸島でも、2週間同じ海域に留まり続けた親子は、15年間で、過去に2回ほど個人的に確認している。

越智 クジラ

トンガのババウ諸島で2010年に遭遇した「IKUMI」親子も、同じエリアに2週間ほど留まり続けてくれた

また、ダイブエスティバンのオーナー、川本剛志さんの話では、久米島でも、過去に3回ほど、10日間以上同じ海域で確認された親子がいたそうだ。

しかし、奄美クジラ・イルカ協会会長の興克樹さんによると、「奄美では初めての報告です」とのこと。

トンガでは、クジラの個体数が多く、とどまっている親子も多い為に、それほど頻繁には同じ個体に遭遇することはない。
(8月・9月の2ヶ月弱で、毎年、水中で撮影する親子の個体数は、個人的に40~50組に達する。)
ちゃんとリサーチすれば、もっといるかもしれないが、ホエールスイムのボートが頻繁に訪れるにもかかわらず、同じ海域にとどまっているというのは、いずれにしろ、よっぽど肝が座っているか、無神経で無頓着なお母さんクジラなのだろう。

僕らも2月25日にその親子クジラと遭遇した。
この日も発見者の太田さんが一緒に泳いでいて、泳ぎ終わってからこちらにその親子クジラを譲ってくれたのだ。

奄美2017 越智

母クジラが海中で休んでいる間、子クジラだけ浮上して来て、スキンダイバーの周囲をゆっくりと泳いでくれた

2月10日の最初の発見から20日まで、この親子と一緒に泳いだというダイビングショップテールの千々松正昭さんの話では、「最初は警戒していた親子クジラも、回を重ねる毎に、徐々に泳げるようになってきました。それに子クジラは、ブリーチングなんかは、150回くらい連続でしてくれたこともありました」とのこと。
サイズは、最初に確認した時から、最後の確認まで、あまり大きくなったという印象はなかったそうなので、最初に目撃された時には、すでにかなり成長していたのかもしれない。

25日に僕らが、最初にエントリーして様子を見てみると、母クジラは水深25mくらいにとどまっていて、その間に子クジラが何度か浮上して水面で遊んで、また母クジラのところに戻るという、トンガでもよく見かける行動パターンを繰り返していた。

たまたま同じ船に乗りあわせたゲストには、「子クジラが浮上してきても、動かないで向こうが近寄って来るのを待っていた方が良い」というアドバイスをすると、しっかりと聞いてくれていたので、近づいてきた子クジラを、皆かなり近くでじっくり見ることができた。

奄美2017 稲生 越智

その後は、目撃情報もなく、すでにこの海域を離れてしまったのかもしれないが、この間、ホエールスイムに訪れた人たちを多いに楽しませてくれた。

とにかく、今年の奄美は、普段とは違うクジラの行動に、現地の人のみならず、日本人のクジラ好きの間でも、多いに盛り上がってる状況が続いている。
もしかしたら、今からでも、今シーズン、一度足を運んでおいた方が良いのかもしれない。
マリンスポーツ奄美の才さんの話では、3月20日前後に、またピークが来るかも・・・とのことだった。

 

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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