3つの“海”に囲まれたユニークな立地! 「伊豆半島」ならではの海洋生物10選
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ソフトコーラルに彩られた根に、サクラダイやネンブツダイが群れている。伊豆半島の岩礁でよく見られる華やかな光景だ(写真/Clover Diving Service)
関東近郊からアクセスがよく気候は温暖、温泉や歴史名所、自然景観などが素晴らしい人気の観光地、伊豆半島。同時に、日本で最も有名なダイビングエリアのひとつでもあります。今回は、伊豆半島の海の魅力を語るうえで欠かせない生き物を10種ピックアップ!
伊豆半島の基礎知識
本州と衝突して生まれた伊豆半島
太古の昔(約2000万年前)、伊豆半島は本州から遠く離れた太平洋の海底(現在の硫黄島付近)にありました。フィリピン海プレート上にある海底火山群だったそうです。それがプレートの移動によって北上し、長い年月をかけてゆっくりと日本列島に近づき、100万年ほど前ついに本州に「衝突」! 今のような半島になったのは約60万年前という説が有力です。
ダイナミックな大地の動きと火山活動によって形成された伊豆半島ですから、その海岸線には複雑な形状のリアス式海岸が多く見られます。伊豆半島のあちこちで洞窟やケーブ、トンネルなどユニークな海底地形が見られるのも納得ですね。
東西に面した2つの深い海
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地図で見るとわかるように、伊豆半島は本州から南へグイッと突き出ています。南北の長さは約60km。西の駿河湾、東の相模湾に挟まれた形ですね。
この2つの海はいずれも日本三大深湾に数えられ(もう一つは富山湾)、相模湾には水深1000mを超える相模トラフ、駿河湾には最深部2500mという駿河トラフがあります。
伊豆半島は深場に生息する生き物がよく出没することで有名ですが、その理由はこの特異な立地にあったのです。
「季節来遊魚がいっぱい!」のワケ
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伊豆半島の南には、広大な太平洋が広がり、その沖合を黒潮が流れていきます。黒潮のスタート地点ははるか南西のフィリピン近海です。そこから北東に進路を取って沖縄の島々や奄美大島付近を通過、九州・四国・本州を沿うように北上してくる、その幅100km、深さ1000mにもなる世界最大級の大暖流です。
この黒潮には熱帯・亜熱帯に生息する海洋生物の卵や仔魚、幼生などがよく乗っています。運よく南日本沿岸にたどり着き、人の目に触れるほど成長したものが季節来遊魚(死滅回遊魚)。その多くは幼魚で、伊豆半島では初夏から晩秋にかけて様々な種類が見られるようになります。
伊豆半島はちょっと南に突き出していますし、駿河湾や相模湾に入り込んだ仔魚や幼生は、伊豆の沿岸に流れ着きやすいのかもしれませんね。
個性豊かなポイントが30以上!
日本におけるレジャーダイビングの幕開けは、1964年に伊豆海洋公園にダイビングセンターがオープンしたことに始まるといっても過言ではないでしょう。それから60年以上経過した現在、ポイント数は30カ所以上。伊豆半島は一般観光客とともに、多くのスキューバダイバーが訪れる海となったのです。
伊豆半島のダイビングエリアは、大きく「東伊豆」「西伊豆」「南伊豆」に分けられます。コチラの記事で詳しく紹介しているので、参照ください。
伊豆半島で会いたい海の生き物10選
神子元島の夏の風物詩ハンマーリバー
①アカシュモクザメ
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神子元島で撮影されたアカシュモクザメの群れ
T字型の頭部をもつアカシュモクザメは、ハンマーヘッドシャークという英名でも有名です。大きさ2~4m、世界中の暖海に生息し、大群で回遊する習性が知られています。
このユニークなサメとスキューバダイビングで会うには、ひと昔前は偶然に頼るしかありませんでした。でも、近年は現地のダイビングスタッフや研究者の調査などでポイントが開拓され、エリアとシーズンを選べば高確率で遭遇できるようになりました。
世界的に有名なハンマー・ポイントには、ガラパゴス諸島やココアイランドが挙げられます。でも、その場所ははるか東部太平洋、それも絶海の孤島だからそう簡単には行かれません。国内では沖縄・与那国島で遭遇率が高いものの、季節は海が荒れがちな真冬です。
そこで伊豆半島の出番!
大物・魚群が多いことで有名な南伊豆の神子元島では、ハンマーヘッドの大群も見られるのです。神子元島は南伊豆の下田や石廊崎から10km前後沖合にある無人島で、港からボートで約20分。アクセスも良好です。
シーズンは初夏から秋にかけて。海に潜るには最高の季節のうえ、数十尾ときに数百尾という大きな群れと遭遇することも珍しくありません。目の前を流れるように泳ぐ様はエキサイティング! まさに「ハンマーリバー」そのものです。
ただし、神子元島周辺は潮が速いうえ、基本的にボートによるドリフトダイビングとなります。経験本数などに制限があるケースもあるので、事前に現地サービスに確認しましょう。
浅瀬の岩礁を彩る赤い「花々」
②キンギョハナダイ
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伊東で撮影されたキンギョハナダイの群れ。写っているのはほとんどメス(写真/三宅健史)
ハナダイの仲間の中で最もポピュラーで、インド・太平洋の温帯から熱帯のサンゴ礁まで広く分布する種類。伊豆半島をはじめ南日本でも水深数m程度の浅瀬から普通に見られます。大きさは8~10cm程度と小さいですが、オレンジや赤といった暖色が岩礁によく映えます。特に田子や伊東、熱海などはキンギョハナダイが多いことで知られ、大群となったときは、その美しさと迫力に圧倒されてしまいます。
なお、ハナダイ科は雌雄で体色が異なる種類があり、キンギョハナダイもオスとメスで模様が違います。メスのほうが圧倒的に多いそうなので、群れの中にオスを探すのもまた一興です。
また、キンギョハナダイは分布が広いためか、オスの色彩はエリアによって微妙に変異があります(日本を含むアジア、南太平洋、モルディブ、紅海の4タイプあり)。映像を撮る方は、撮影地を記録しておくほうがいいでしょう。
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オスは背ビレから糸状の白い糸(棘)が長く伸び、胸ビレに赤い斑紋がある
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メスや幼魚には特に目立った模様はなく、一様に暖色(写真/堀口和重)
初夏の西伊豆にエイが舞う!
③トビエイ
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西伊豆・雲見で撮影されたトビエイの群れ
春から夏にかけて、伊豆半島沿岸ではトビエイが見られるようになります。特に西伊豆の沿岸(安良里、黄金崎など)では、水温が上がってくる5~7月頃にピークとなります。
シーズン前後は単体で見かけることも多いですが、ときに数十尾の群れが中層を舞い泳ぐこともあります。成長すると1mにもなる大型種ですから、迫力満点!
トビエイが群れる理由はよくわかっていません。西伊豆の海岸では晩夏から秋にかけてトビエイの幼体がよく見られるそうです。もしかすると、初夏の群泳は繁殖活動と関連しているのかも?
ちなみに、トビエイは卵胎生。母体の胎内で卵から孵化し、赤ちゃんエイとして誕生します。
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西伊豆・黄金崎で5月頃に撮影された個体。着底したまま特に動きはなかったそうだ(写真/堀口和重)
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成長すると背中に黒い斑紋が出てくる。撮影地は南伊豆・ヒリゾ浜
海底に寝そべるファニーフェイス
④ネコザメ
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ネコザメの幼体。全体に体色が薄く、体に比較して各ヒレが大きい
サメといえば流線形のボディのクールビューティを連想しますが、伊豆半島をはじめ南日本の岩礁では丸い頭のユニークなネコザメが人気です。成長すると70~80cmとなり、薄暗いカジメ林などで出会うと、なかなか迫力もの。春先や初夏の頃には、たまに20~30cmほどのかわいらしい幼魚が見られます。
そのほか、伊豆半島でよく見るサメの仲間にはドチザメがいます。海底に寝ていることも多いのですが、「サメ穴」と呼ばれる亀裂や洞窟にいるのはたいていドチザメ。また、富戸や伊豆海洋公園などの砂地のポイントでは、カスザメという平たい体形のサメも見られます。
200種以上も見られる「海の宝石」
⑤ウミウシの仲間
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人気ナンバーワンのウデフリツノザヤウミウシ。“ピカチュウ”の愛称でも知られる
種類によって色も模様も形も千差万別、スキューバダイバーのアイドルといえばウミウシでしょう。伊豆半島は岩礁あり砂地あり、海底や根にはソフトコーラルや海藻が繁茂するというバラエティ豊かな環境があるので、ウミウシの種類も豊富です。
例えば、西伊豆・浮島では毎年のように200種以上のウミウシが確認されており、その数も年々増えています。例年冬に開催されている「海牛杯」というイベントでは、2022年度に西伊豆・雲見のダイビングショップ「Collins DC」が237種を確認、優勝を果たしています。
また、ウミウシ観察にはナイトダイビングもおすすめです。タテジマウミウシの仲間やウミフクロウなど、明るいうちはなかなか見られない夜行性の種類と会えますよ。
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貝殻をもつウミウシの仲間、ミスガイも夜行性
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優美な色彩のカナメイロウミウシ
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サガミリュウグウウミウシ。新種記載時に使われた標本が相模湾で採集されたことが和名の由来だが、南日本各地をはじめ沖縄の島々でも見られる
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ニシキウミウシは色彩変異が激しく、伊豆半島では3バージョンほどが見られる。この個体は以前“フタイロニシキウミウシ”と呼ばれていたタイプ
超絶キュートな待ち伏せ型ハンター
⑥カエルアンコウの仲間
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クマドリカエルアンコウの幼体は水中モデルとしても大人気
魚なのに泳ぐことはなく、岩の上や海底にいるカエルアンコウの仲間。移動するときは胸ビレなどを使ってノソノソと歩きます。
周囲の環境に溶け込み、近寄ってきた小魚がいると電光石火の早業で丸のみします。鼻先にある釣り竿(イリシウム)と疑似餌(エスカ)を振って、獲物をおびき寄せるという裏技も有名ですね。
伊豆半島でメジャーな種類はカエルアンコウとベニカエルアンコウ、イロカエルアンコウ、オオモンカエルアンコウなど。たまにクマドリカエルアンコウの幼魚が出没して話題となります。
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産卵生態をじっくりウオッチング
⑦アオリイカ
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産卵床に集まってきたアオリイカたち。手前の横向きの個体は、短く細い横縞からオスとわかる
初夏から夏にかけて、伊豆半島各地でアオリイカの産卵生態をウオッチングできます。自然界では海藻やヤギなどに卵嚢(卵が入った細長い袋)を産み付けますが、人工の産卵床を用意することで、メスの産卵シーンやオス同士のバトルをより観察しやすくなっています。水深は10m前後と浅いのでビギナーでも安心。産卵床は東伊豆の富戸や八幡野、川奈、西伊豆では大瀬崎や井田、黄金崎、田子などで設置されています。
産卵直後の卵嚢は真っ白。やがて表面が薄汚れてくる頃には、内部に小さなイカの姿が透けて見えるようになります。その年の天候や水温にも左右されますが、1カ月ほどでベビーたちが誕生します。孵化の瞬間に遭遇するのはかなり難しいものの、運がよければ色素胞の大きいキュートな稚イカを見られるかも。
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白いソーセージのようなものは卵嚢。1本に5~6個前後の卵が入っている。「黄金崎ビーチ」で撮影
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中木・ヒリゾ浜で撮影されたアオリイカの幼体。夏から秋にかけて、表層近くでよく見られる
伊豆半島を訪れる大海の風来坊
⑧マンボウ
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大瀬崎で撮影されたマンボウ。クリーナーのシラコダイが寄ってくるのを待っているところらしい(写真/堀口和重)
マンボウは寸詰まりのユーモラスな体形、愛嬌のある顔で水族館の人気者。成長すると2~3mにもなる大物です。普段は沖合外洋で暮らしているため、スキューバダイビングで出会うことは稀です。
ところが、西伊豆・大瀬崎と東伊豆・伊東ではしばしばマンボウが出没して話題となります。
大瀬崎では3~6月、外海のやや深場で遭遇チャンスがあります。マンボウがここを訪問する理由は体の掃除をしてもらうためで、シラコダイ(チョウチョウウオの仲間)やホンソメワケベラがマンボウを取り巻いて体を突く様子などが見られます。
伊東では1~3月、ダイビングを終えて浮上するときや安全停止中の目撃が多いとのこと。1mほどの小さな個体では、十数尾ほど群れていることもあるとか!
このハナダイに会うなら伊豆半島!
⑨サクラダイ
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青く澄んだ海中に桜色がよく映える。この群れはオスとメスが混泳。大きさ10~13cm
美しい模様、優美な和名をもつサクラダイは、長らく南日本だけに生息する日本固有種と考えられていました。近年、台湾や済州島、朝鮮半島南部にも分布することが確認されたようで、ちょっと残念。
伊豆半島では比較的普通のハナダイの仲間で、特に西伊豆・大瀬崎や田子、東伊豆・熱海や伊東では大きな群れが見られることで有名です。
ところが、伊豆半島以外の南日本では珍しいようです。もともと深場を好む種類なので、セーフティダイビングの深度を超えたところにいるのかも?
そういえば、大瀬崎や熱海などは少し沖合に出れば一気に深くなるドン深の海。しばしばスジハナダイやシロオビハナダイ、マダラハナダイなど深場の珍しいハナダイも出没するから、ハナダイ好きにとって伊豆半島はパラダイスですね。
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オスのボディには真珠のような模様が、胸ビレには赤い斑紋がある
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幼魚とメスの模様は同じ。背ビレに黒斑が入り、体に目立った模様はない
冬の西伊豆は珍種の宝庫
深い海からの訪問者たち
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リュウグウノツカイの幼魚。西伊豆・大瀬崎「湾内」でナイトダイビングをしていたときに遭遇。長い髪のように見えるものは背ビレの一部で、成魚になると「毛量」が増す(写真/堀口和重)
駿河トラフと相模トラフ、東西を深い海に囲まれた伊豆半島は深海性の生き物がしばしば見られます。
特に冬の西伊豆・大瀬崎は有名で、ミズウオという鋭い牙をもつ1mほどの細長い魚がよく出没。北~西寄りの強い季節風によって生じた湧昇流に吹き上げられてきたと考えられています。珍しいところではフリソデウオやテンガイハタ、ユウレイイカなども。
長さ最大8mにもなるというリュウグウノツカイも、今まで何度も観察されています。さすがに成魚ではなく、10cm程度の幼魚ではありますが、生きて泳ぐ姿を目の当たりにできるかも!
また、海底に暮らす深海性の生き物の代表はアンコウ(またはキアンコウ)でしょう。冬、大瀬崎ではかなり浅瀬まで上がってきて、「湾内」でも見られます。サイズは20~40cmほどですが、ときにメートル級もいるとか!
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昼に出会ったリュウグウノツカイの幼魚。頭を上に向け、立ち泳ぎの姿勢で泳いでいる(写真/堀口和重)
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西伊豆・大瀬崎で撮影されたアンコウ(またはキアンコウ)。海底に潜む待ち伏せ型ハンターだ
伊豆半島ならではの海の生き物、いかがでしたでしょうか。ここで紹介したものはほんの一部。四季折々、さまざまな命が見られる伊豆半島の海、ぜひ訪れてみてください。