Vertical Blue2017 世界最高峰の大会終了! ~日本人選手たちにインタビュー~
2017年4月30日~5月10日、バハマのロングアイランド島「ディーンズ・ブルーホール」で行われた「SUUNTO Vertical Blue 2017」。
この大会で、日本女子代表が世界記録を更新&総合金メダルを獲得し、すばらしい結果を残しました。
長丁場を終えてプレッシャーと緊張から解き放たれた選手たちに、大会中の心境や今後の抱負をじっくりインタビュー。
大会中、日本では、数字や結果でしか垣間見ることができなかった、それぞれの申告に向けての葛藤など、実にたくさんのドラマがあったことを改めて感じました。
ぜひ、ご覧ください。
●廣瀬花子選手
<廣瀬選手の-103m達成の動画はこちら>―――― この大会中の心境は?
廣瀬
今回は世界記録を目標にきたので、とにかく101m以上潜ることが頭にずっとありました。日本のみんなが夜中でもライブで観戦してくれるのもすごくうれしくて、楽しんで観ていてくれることで潜る楽しみも増えました。
今までで一番長い滞在と長いトレーニング期間では、実はなかなか思うように潜れない自分にすごくジレンマがありましたが、「世界記録」に挑む中で考え方や自分のダイブとの向き合い方など一つ前進できた大会だったと思います。
――――世界記録103mはどのようなダイブでしたか?
廣瀬
イメージした通り今の自分にできる最高のダイブで世界記録を取れました。私が世界記録を取った後にすぐに新しい世界記録は更新されたので金メダルを持って帰ることはできなかったけれど。
でも、こうやって私たちにはどこまでも潜れる可能性があるということ、これからどんどん伸びていくんだと思うと、すごくワクワクしてきます。
――――この大会で各ダイブの振り返りは?
廣瀬
ちょうど2年前に、この大会で世界記録を取る目標を立てました。
去年のVertical Blueでは99mまで潜り世界記録に近づきましたが、今年バハマへ来てからトレーニング期間が3週間ほどあったのに、いつも90m以上のダイブは失敗していて全然計画通りに進みませんでした。
初日に潜った90mはできなくてもいいやと練習のつもりで申告しました。できるイメージよりもできないイメージが多くて、すごく緊張してしまって……。
耳抜きなどのテクニックも大失敗しながら潜ったダイブ。結果はホワイトだったものの、実はボトムへ到達したのもギリギリでした。
でも、そのダイブで失敗の原因がはっきりわかったので、次の日は迷わず95mを申告しました。
95mを潜った後も100mを迷わずイメージできました。
こうして、迷わずに申告を決められたダイブは全然緊張しないけれど、最後の世界記録103mの申告はやはりすごくナーバスになりました。
イタリアのアレッシア選手が104mを申告してくることはわかっていました。でも105mを潜る準備は自分にはできていないので、自分は105mを申告できないなと思ったときはすごく悔しかった。
103mか104mにしようかすごく迷ったけれど、今の自分に確実なのは103mだと思いました。104mにしていたら、きっともっと緊張して自分のダイブにうまく集中できなかったと思います。
最終ダイブ前はやはりすごく緊張しました。世界記録を意識の中に置かないようにいつも通りに過ごそうと努力していたけれど、100m潜った後は心も身体もなかなか潜りたいコンディションに戻れなくて、ダイブを2回キャンセルしていました。
4日ぶりのダイブは海のコンディションも良かったし、いつも通りふざけながらサポートしてくれるさゆりがいたし、最後のダイブを最高に楽しもうとだけ思おうとしました。
それでもやっぱりいつもよりすごく緊張してドキドキし、「あー、これがワールドレコードダイブ前かぁ」と感慨にふけったりしました。
2分前のカウントが入ってロープにセットしたときは本当に気持ちよく集中できて、浮上しながら、念願の世界記録を潜るうれしさが込み上げてきました。
――――今大会全体を通しての感想は?
廣瀬
今回のVertical Blueは、本当にレベルが高くて、毎日競技のスタートリストが出るたびに数々のナショナルレコードアテンプト、当たり前のように100m超えのダイブが並んでいてすごく興奮していました!
毎回どんどん記録を伸ばしていく選手たちばかりでブルーホールはお祭りのように盛り上がり、それを観ているだけで自分のモチベーションも高くいられました。
特にアレッシア選手は本当に強い選手で、失敗が続いた後に102mダイブを成功したときも彼女のマインドの強さと実力を本当にすごいなと思いました。
この子よりも強くならないと世界記録は取れないなと焦る気持ちは出て来たけれど、今回彼女が目の前にいたからこそ、自分が103m潜るモチベーションがうまく作れたと思います。
――――今後の抱負は?
廣瀬
フリーダイビング女子世界記録はこれからどんどん更新されていくと思います。
私はそのときにその中にいるかわかりませんが、私も100mくらいはいつでもフラッと潜れるようになっている時代を楽しみにしています。
●木下紗佑里選手
――――総合優勝した今回の大会に向けてどのような準備をしてきましたか?
木下
今回の大会に向けて、2月からフィリピンのパングラオ島で1ヶ月半のトレーニングを計画していました。パングラオに入ってから体調を崩し、腰痛も発症していまい、バハマをキャンセルすることを考えるほどの状態になりました。
体調も精神的にもかなり落ち込んでいましたが、バハマに入ってからは、花ちゃん、美鈴さんと楽しく生活しているうちに大会に対するワクワク感が強くなっていきました。
――――この大会での各ダイブの振り返りは?
木下
今大会の1番の目標はCWTで100m以上潜ることだったのですが、今回は達成できず、たくさんの課題を持ち帰ることができました。
CNF68mは緊張しましたがラクに潜ることができました。今後は安定して70mを潜れるようにしていきたいです。FIMは少し苦手意識があったのですが、今回自己ベストを更新することができて、まだまだいけるかなと自信がつきました。
――――今大会全体を通しての感想は?
木下
今回の大会は本当にすばらしい大会だったと思います。セーフティとメディカルチームはすばらしく、私たちに安心感を与えてくれました。
そして何といっても花ちゃんの100mダイブ、103mの世界新記録を間近で見ることができてとても感動しました!
また多くのディープダイバーたちとともに過ごせたことは私の次のモチベーションにつながっていくと思います。私ももっともっと強いフリーダイバーになりたい!と心の底から思いました。
――――今後の抱負は?
木下
今後も引き続き世界一を目指して練習をがんばっていきます。今年の大会は、8月にホンジュラスで世界選手権があるので(8/22〜9/3)、そこでは3種目優勝し、大会2連覇を目指します!
そして私の目標は変わらず、心地よく潜ることなので、いつでも気持ちよくフリーダイビングを楽しんでいきたいと思います!
●岡本美鈴選手
――――今回の大会中のトレーニング・競技の振り返りをお願いします。岡本
大会までのトレーニング期間は約3週間ありましたが、体調のアクシデントもあり、他選手のように大会に向けての深さを伸ばす練習というより、基本練習を行っていました。
今まで90m以上のダイブでは技術が不安定でメンタルも左右されがちでした。そこで今後深度を伸ばしていくために、思い切って器材も含めて今までの潜り方を変えることにしました。少しずつ技術も安定し、水圧にも適応して、深さや上手くいくかどうかという不安もなくなりました。
大会初日は気楽に行ける深度、一回一回感触を確かめながら少しずつ深度を伸ばし、最終日に自己ベストの94mに臨みました。
この日忘れられないのは、入水前にこれまでに経験したことのない深いリラックス感に包まれたこと。最高のダイブでした。余裕を感じたので浮上後に「まだ行けた〜!」とつぶやいた声が何とライブ中継で丸聞こえだったようで……恥ずかしながらも心配くださっていた皆さまに良い報告ができました。
今回は残念ながら入賞には至りませんでしたが、自分自身のフリーダイビングを心から楽しみ、大きく進化できた大会でした。
――――若い選手たちの活躍と、今後の抱負についてひとことお願いします。
岡本
木下選手と花子選手の大活躍ぶりには毎回感動と力をもらい、アレッシア選手の世界記録更新という歴史的なダイブに立ち会えたことも最高でした。
私は来年のバハマではさらに深度を伸ばせるよう、体質改善から海外練習まで、できる事を積み重ねていきたいと思います。
応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました!!
今後も日本女子の潜りにぜひご注目ください!!
ただひとり日本から出場していた男子選手、原選手のコメントもご紹介します。プロフリーダイバーではなく、社会人として本業をこなす傍らでの国際大会出場。年を重ねてもチャレンジし続ける姿勢は、多くの方の参考になるかと思います。
●原哲雄選手
――――他の女子選手と異なり短い調整期間で大会に出たと思いますが、どのような準備をしてきましたか?原
今大会が5月開催という時期的な問題と仕事との兼合いで、事前のディープ練習やプール練習がほとんどできず、現地入りした当日から5日間の調整期間のみで本番に臨み、大会後半に競技日を集中させるという身体を休める時間もない過酷なスケジュールとなりました。
この短期間で80m超まで深度を伸ばすコンディショニングの中で、足りなかったのはスタミナ。疲れが溜まり、体調も万全でないまま自己ベストに挑戦するのはやはり難しかった。
そんな状況でFIMの自己ベストを伸ばせたのと、自己ベストに近いCWT記録を出せたことには満足しています。
仕事をしながらバハマの大会で自己ベストを更新させるのは簡単ではなく、歳を重ねるほどに仕事の責任も重くなり忙しくなる一方で、トレーニングできる時間は限られてきます。
しかし隙間の時間を使った短い時間でも、量より質のトレーニングに集中することで、なんとか仕事とフリーダイビングのバランスを取れてきたのではと思います。
あと、大会で外国人選手に年齢を聞かれて驚かれることが多かったです。まだ身体のピークを感じることはありません。それよりもまだまだ伸ばせるイメージの方を、今大会を通じても感じることができました。何よりも気持ちの強さが大事だと思います。身体は気持ちについてきますから。
――――Vertical Blueには何回か出場していますが、今大会全体については?
原
中国、韓国のアジア勢の強さを感じました。短期間に著しく深度を伸ばしている選手が多いのですが、これはフィリピン・パングラオの練習環境が作り出している効果だと思います。みな、そこで練習を積んできていますので。近くに良い環境があるかないかが非常に重要と再認識しました。
そして最終日に11人もの選手が100m超えのアテンプトをしたように、全体のレベルが非常に高くなっています。特に女子の101m超の世界記録を賭けた攻防が今大会の最大のドラマでしたが、世界の女子選手のレベルを牽引しているのが、90m超の記録を伸ばし続ける日本女子4選手であることを改めて誇りに思いました。
――――今後の抱負は?
原
ディープにフォーカスして自分のペースで100mを目指していきたいです。また、世界の海で潜り、自分を表現していけたらと思います。
最後に、今回コーチとして現地で選手の支えになった岡本耕輔氏(日本フリーダイビング協会副会長)からの総括でこの記事を締めくくりたいと思います。
●岡本耕輔氏
競技はやはり、廣瀬選手の躍進と木下選手の安定した強さが印象に残りました。両選手は自己新の競技前であってもひどく神経質になったりすることなく、通常の練習とほとんど変わらないテンションで臨めているところが、従来のダイバーとの大きな違いであると感じます。
いよいよ女子も100m台の争いになったという危機感はありますが、両選手とも自分の限界を見極めた競技を行えており、まだまだ伸びしろを持っているため、今後も先頭集団の中での争いを見せてくれるものとも思います。
大会側の安全管理は従来から行われている肺の状態のチェックに加えて、今回はブラックアウトを起こした選手はその翌日の競技を強制的にキャンセルするルールを導入するなど、安全性を高めようとする様子が見られました。
海外の選手がBOを出しながら記録を更新していくのを見ていると、今のフリーダイビングの常識はそういうものなのかと思われるかもしれませんが、今回の日本選手の、段階を踏んで着実に記録を伸ばしていく姿勢を高く評価する海外選手がこれまで以上に多く、必ずしも博打的な潜り方が賞賛されているわけではないことがわかりました。
日本フリーダイビング協会としても、安全な、他人が見ておもしろいと感じるフリーダイビングがどういうものなのかを、継続して啓蒙していきたいと思います。
——————
Vertical Blue2017に出場した選手の皆さん、スタッフの皆さん、応援した皆さん、お疲れさまでした。歴史に残る大会の興奮と感動をともにできました。多くの勇気と感動をありがとうございます。
今年は8月にホンジュラスでフリーダイビング世界選手権が開催されます。ぜひ多くの人に、世界に誇る日本人選手たちが活躍するこのスポーツを知っていただければと思います。
また来年も、楽しみにしています!