極上のハウスリーフで激写した渾身の1枚
パプアニューギニア・アンバサダー
中村卓哉カメラマンによる連載コラム
夕暮れ時、桟橋の上でサンセットダイビングの準備をする。
昼間のボートダイビングがメインディッシュなら、それは別腹のデザートのようなもの。
“トゥフィダイブリゾート”のハウスリーフはそんな濃密な瞬間を提供してくれる。
ハウスリーフはワイドレンズのカメラを置いてマクロ一本勝負。
その方がゆったりマイペースに被写体と向き合えるからだ。
美しさが引き立つように考えながら視界に入る気になった生物を丁寧に撮影していく。
フィヨルド地形に囲まれた秘境と呼ばれる海域だけあって、見慣れた普通種でもどことなく色彩が異なっているようにみえる。
そのように生物ウォッチングに夢中になっていると時間の経つのもあっという間である。
「ギュルギュル〜」突然、腹の虫が鳴きはじめた。
ふと時計を見ると既に潜水時間も1時間を超え、夕食の時間が迫っていた。
すっかり周囲も暗くなり水中ライトの光を頼りに桟橋に向けて引き返す。
すると現地ガイドさんが手招きをしているのが見えた。
彼がしきりに指を差す方向に目を凝らすと、2匹のマンダリンフィッシュがサンゴの中からチラチラと顔を覗かせていた。
それからどれ位粘ったであろうか。
とにかくファインダーでペアのマンダリンフィッシュを追い続けることおそらく数十分、突然それは始まった。
2匹はぴったりと身を寄せ合いながら漆黒の海中へゆっくりとホバリングしていった。
マンダリンフィッシュの産卵行動である。
広い海の中でようやく出会えたカップルが描く求愛のダンス。
それはとても優雅で美しい愛のランデブー飛行だった。
中村 卓哉(なかむら たくや)
1975年、東京都生まれ。
10歳のときに沖縄ケラマ諸島でダイビングと出合い、海の虜になる。
現在、フリーランスの水中カメラマンとして新聞や週刊誌などにコラムを掲載。
講演や写真教室などの活動も行っている。
主な著書に『わすれたくない海のこと 辺野古・大浦湾の山・川・海』(偕成社)、『海の辞典』(雷鳥社)などがある。
アンバサダーとして、パプアニューギニアでも精力的に撮影している。
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