パプアニューギニア ”濃密の瞬間(とき)”(第2回)

キリがないほどの美しさ ~ケビエン・リセナン島の空~

パプアニューギニア(撮影:中村卓哉)

奇跡のような夕陽を前に言葉を無くした。

無我夢中でシャッターを切るが5分前よりもさらに赤く、そしてそれよりもさらにまた空が赤くなっていく。
どこまで赤くなるのだろう。
キリがないほどの美しさとはこんな光景なのかもしれない。

空っぽになったビール缶を握りしめたままでも、きっとこの場所に佇んでいただろう。

360度周囲を海に囲まれたケビエン・リセナン島。

ここは水平線から昇る朝日と沈む夕陽の両方を満喫できる特別な場所だ。部屋のバンガローから30歩でこの景色が広がっているのだからなんとも贅沢である。

ビール片手に砂浜に横になる者、三脚を何本も立てその瞬間を動画で記録する者、紅に染まる空をぼーっと見つめ瞳を赤く染める者。
それぞれが束の間のマジカルな光景を写真や映像や心に記録している。

しかし不思議だ。
とてつもないサプライズな生物が目の前にいるわけでもない。
誰もが簡単には行けない道中過酷な絶景地でもない。

ごくごく当たり前に毎日必ず訪れる風景を皆が無我夢中になって記録している。
誰の頭上にも必ず存在する空、太陽、雲、そして綺麗な海があるだけである。
だからこそ万人が惹かれるのだろう。

近代写真の父、アルフレッド・スティーグリッツが晩年に空の写真ばかり撮影したという話が頭によぎる。
大切なものと特別なものは違うはずだ。

しかしながらこの先もこんな空が当たり前に見ることができる地球であってほしい。

次第に空の赤みが海に溶けていき満点の星空が顔を出した。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
1975年東京都生まれ。

10才の時に沖縄のケラマ諸島でダイビングと出会い海中世界の虜となる。

師匠は父親である水中写真家の中村征夫。
活動の場を広げるため2001年に沖縄に移住。その頃から辺野古の海に通いながら撮影を始める(現在は拠点を東京に置く)。

一般誌を中心に連載の執筆やカメラメーカーのアドバイザーなどの活動もおこなう。
最近ではテレビやラジオ、イベントへの出演を通じて、沖縄の海をはじめとする環境問題について言及する機会も多い。

2014年10月にパプアニューギニア・ダイビングアンバサダーに就任。

■著書:『わすれたくない海のこと 辺野古・大浦湾の山 川 海』(偕成社)、『海の辞典』(雷鳥社)など。
FOLLOW