伊豆大島のテングサ漁に密着!昔ながらのフーカー潜水、ベテラン漁師の収穫技とは?
伊豆諸島の島々に潜りに行くことが多い私だが、夏の時期にダイビングが終わってエキジットすると、いつも気になっていたものがあった。
浅瀬で波やウネリにゆらゆらと揺れて漂う、“赤い美しいもの”。
これはいったい何なんだろう……?
尋ねてみると、それはテングサ(天草)という海藻だった。
寒天やところてんの原料となるテングサは、伊豆諸島はもちろん、伊豆半島や房総半島、紀伊半島など日本各地で漁が盛んに行われているらしい。
私は東京に住んでいるが、恥ずかしながら伊豆諸島で収穫されているということを、この時まで知らなかった。
そこで今回はテングサの収穫の様子から出荷までを、東京都伊豆大島にあるダイビングショップ「ダイブハウス・タック」のオーナーであり、漁師でもある桧山俊延さんにお願いして、1日密着取材をさせていただいた。
“赤い美しいもの”を求めて
伊豆大島へ
伊豆大島へは、東京のJR浜松町駅がある竹芝桟橋から、高速ジェット船で1時間45分ほどで行くことができる。
島の中央にそびえ立つ三原山を中心に、大自然に囲まれた火山島だ。
その三原山から流れてくる栄養分が島周辺の海に行き渡り、海の中も多くの魚やサンゴを見ることができ、海藻も多く群生している。
伊豆大島はダイビングの地としても有名で、週末などは特に多くのダイバーで賑わっている。
そんな私も毎年伊豆大島へは通い続けている。
伊豆大島はじっくりマクロなどが楽しめる「秋の浜」というポイントもあれば、まるでプールのような透明度を誇るタイドプール「トウシキ」などがあり、いろいろなスタイルのダイビングが楽しめる。
特に6月から10月頃までハンマーヘッドシャークのシーズンで、「ケイカイ」というポイントでは多い時で200匹以上の大群を見ることができ、日本とは思えないほどダイナミックなシーンに会えるのも魅力だ。
フーカー潜水による
テングサ漁の様子
伊豆大島で一年間の間にテングサ漁が許されている「口開け(解禁)」と呼ばれる時期は、4月〜10月のみ。
この時期になると、多くの漁師さんが水中に潜ってテングサを獲ってきては、港や岩場に天日干ししてあるのが目立つ。
漁師さんの朝はとても早く、この日も日の出過ぎくらいに岡田港を出発し、日の出浜付近でテングサ漁へと向かった。
ポイントに到着すると黙々と潜水の準備が始まった。
桧山さんが行うのは「フーカー潜水」という潜水方法で、船に積んであるコンプレッサーからホースで随時水中に空気を送りそれで呼吸をするという、昔ながらのやり方だ。
伊豆大島でのテングサ漁は、基本的にこのフーカ―潜水か、素潜りで行われているらしい。
早速僕もスクーバダイビングで行くために、シリンダーを背負って桧山さんについて行くことにした。
水中に入ってみると、水中とは思えないほど機敏に身体を動かして、一房一房丁寧にテングサを収穫していた。
しかもただただ収穫をすればいいわけではなく、商品になるようないい草を選ばなければいけないので、見極めながら収穫を行っていく。
潜水時間はおよそ2時間。時には自ら水中で碇を持ち、船を移動させてポイントを変えたりもしている。
スカリを腰に巻いていて、この中にテングサを入れていくのだが、見る見るうちに草でいっぱいになる。
草がいっぱいになると船から垂らしてあるロープにスカリを縛り、新しいスカリを腰に巻いて再び収穫しに行く。
そんな作業を何回も繰り返して、あっと言う間に2時間が経った。
赤色に染まる港は
この時期ならではの風物詩
潜水を終え船に戻り、ロープに縛ってあったスカリの回収作業をして港へと帰る。
港へ戻ると、収穫したテングサをウィンチで船から降ろして軽トラックに載せ、休む暇もなく天日干し作業へ。
早朝から漁を始める理由は、なるべく日があるうちに1日で乾かすため。
そのため、ウェットスーツのまま干し作業を行なっている漁師さんが目立つ。
港のコンクリートの地面が真っ赤に染まる。
きれいに並べた後にもう一度収穫に行くという漁師さんも少なくない。また戻ってきては、繰り返し干し始めた。
午後15時頃になれば、乾いたテングサを丸めてカゴいっぱいに押し込み、ブロック型にする。それを軽トラックに積み込み、売り手の元へと向かった。
環境の変化や後継者問題
伊豆大島のテングサ漁の現状
売り場は港内にあり、乾いたテングサを中に運んで行く。
辺りを見渡せば、いろいろな色や種類別で並べられたテングサがあった。
早速、売り場担当の宮本和夫さんに今回収穫したテングサの総重量を量ってもらい、種類分けしてもらって、漁師の桧山さんのお仕事は終わり。
ここからはきれいに圧縮して運びやすくするため、ひと固まり30kgと正確に重さを量り、プレス機械に入れ込んで何度も何度もプレスをする。最終的には丸太のような形になり、そのまま保管され、定期船が来たときに東京に送られる。
そして、東京にやってきたテングサは、東京都漁業協同組合連合会からテングサの問屋へ渡り、寒天業者などへ。そこで加工され、寒天やところてんになって皆様の食卓に並ぶ……
といったような感じで、収穫から出荷までにはいろんな苦労があるということが、今回の取材で改めてわかった。
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桧山さん曰く、「最近では温暖化や環境汚染などが一因となり、天草の収穫量が減りつつある」そうだ。
また、「そもそもテングサを収穫しに行く漁師が以前より激減しているということで、テングサの値段が上がってきている。海外輸入のテングサを使って寒天を加工している商品もあるが、やはり国産品は一味違う」とのこと。
大好きな寒天やところてんが、いつの日か食べれなくなる。
そうならないためにも、テングサが生い茂る豊かな海と昔ながらの漁法が途絶えないことを願うばかりである。
テングサ漁の様子伊豆大島〜寒天、ところてんの原料〜
■撮影協力/伊豆大島ダイビング連絡協議会
関戸紀倫さん
プロフィール
1988年7月6日生まれ。
写真家で、ダイビングインストラクターでもあるフランス人の父と、日本人の母の間に生まれ、幼い頃から父に連れられて、ガラパゴス諸島やタイ、フィリピンなど自然豊かな処に訪れるうちに、自然が大好きになる。
2010年にダイビングを始め、翌年には沖縄でダイビングインストラクターとして活動をスタート。2013年からは、オーストラリアのダイビングクルーズにて働くことになり、そこで船内販売用の写真を撮り始める。2014年10月にクルーズ船の仕事を終え、帰国前に念願の一眼レフを手に入れオーストラリアを放浪。
現在は、自然写真家として水中写真をメインに、世界で活躍中。
▶関戸紀倫さんオフィシャルウェブサイト
▶YouTubeチャンネル「KIRIN SEKITO」
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