ライトトラップin阿嘉島は熱帯稚魚だらけ!? 〜初めてのライトトラップダイビング〜

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「阿嘉島でライトトラップをやるので取材しに行きませんか?」そう声をかけてくれたのは、沖縄県中心に複数の店舗を持つダイビングショップ・マリンハウスシーサーの河津さん。

ライトトラップと言われパッと頭に浮かんだのはオーシャナの過去の記事。

勝手ながら、ものすごく小さなプランクトンのような生物を夜な夜な探して撮影する、超マニアが好きなダイビングだと私は思っていた。そんなある意味ニッチそうなダイビングを大手のシーサーさんが企画するなんて、少し驚いたのだが、むしろなんだかおもしろそうという自分の興味もあり、二つ返事で取材をお受けした。

今回ライトトラップはシーサー阿嘉島店でも初企画ということで、オーシャナでも連載中の石野昇太さんが一緒にこの企画を行うこととなっていた。石野さんは約10年前からもともと働いていた八丈島で「HOTけNIGHT」と題したライトトラップを年に何十回と行い、日本各地でも企画を行うライトトラップの伝道師である。

「ライトトラップは魚や生き物に詳しければ詳しいほどハマる。だからガイドやガイドレベルに潜っている人にはぜひやってほしいし、魚に詳しくなくても、異形の稚魚たちを見たり、水中に設置されたライトで作られた神秘的なステージを漂ったりするだけでも十分楽しめる。」と鼻息荒く熱弁する石野さん。正直私はそこまで魚には詳しくないが、石野さんがここまで言うのなら楽しいことが待っているのだろうと、ワクワクしながらその日を迎えた。

阿嘉島ライトトラップチャレンジ!

阿嘉島ライトトラップチャレンジ!

ライトトラップとは?

普段私たちがよく見る魚の生まれたばかりの姿を見たことはあるだろうか?海の生き物の多くは、卵や幼生のときには水中や水面を漂っており、岩場やサンゴの隙間といった住処を見つけると、そこに着底し、成体へと姿を変えていく。この着底までの間は、外敵から身を守るために透明で見つかりにくい体色をしていたり、潮の影響を受けやすくするため、長いヒレを持っていたりする。つまり、成体からは想像もつかないような見た目をしているのだ。

ライトトラップの主な観察対象である、いわゆる“浮遊系”の生物は、ほとんどがこの生まれたての海の生き物である。稚魚や無脊椎生物の幼生、そのほかイカ、タコ、クラゲ、サルパなど、潮の流れに乗って漂う彼らを、水中に設置したライトでおびきよせ、観察するというものだ。もともとは研究者が魚や海の生き物の幼生を研究対象として、海上から捕える手法を応用したものだそう。ただし、集まってきたプランクトンなどを捕食する生き物も現れるため、連日同じ場所で行わないなど、生物や環境への配慮しながら行うのが一般的。

夜が本番
日没を待ってのダイビング

阿嘉島でライトトラップを行うにあたり、下見を行ったという河津さんと石野さん、そしてシーサー阿嘉島店のガイド・早野さん。下見の際は珍しいツノダシの稚魚など、とにかくたくさんの熱帯魚の稚魚が現れてフィーバーしていたという。これは期待が高まる。そして迎えた1日目。

昼間のダイビングも堪能し、普段だったら打ち上げモードだが、今回は夜が本番。夕日の撮影もそこそこに、ポイントへ向かい出港した。時刻は19時20分。日没から約30分、西の空にはまだ赤さが残るが、照りつける日差しの暑さはなく、涼しい海風が心地よい。

阿嘉島ダイビング

到着したのは昼にも潜った「嘉比ブツブツサンゴ」というポイント。多種多様なサンゴが美しいポイントだ。石野さんと早野さんがライトをセッティングし、船に上がってくる。浮遊生物が集まってくるのを待つためしばらく船上で待機。この待っている時間もワクワク感が高まって楽しい。

あたりはすでに真っ暗

あたりはすでに真っ暗

ライトアップされた海へダイブ!
浮遊生物探しの始まり

設置されたライトが水面を美しく照らす

設置されたライトが水面を美しく照らす

エントリーして光の方へ向かうとまるでライブステージのような光景が。個人的にはこれだけでも気分が高揚するのだが、このライトアップされた水中のどこに浮遊生物がいるのだろうか。

水中はまるでステージ

水中はまるでステージ

実は、セットされたライトに集まってくる生物はほとんどがプランクトンやゴカイの仲間で、これだけを見ているのはまだまだ素人だとのこと。素人なので別にいいのだが、確かにずっと見ていてもプランクトンは小さすぎてよくわからないし、ゴカイはなんだか気持ち悪い。なんなら顔の周りを泳ぎ回ってぶつかってきてうっとうしいくらい。フードは必須だ。

ライトに集まるプランクトンとそれを食べにきたキビナゴ

ライトに集まるプランクトンとそれを食べにきたキビナゴ

では、どうやってお目当ての浮遊生物たちを探すのかというと、手持ちのライトを使用する。手に持ったライトをひたすら水面や水中に向け、その光の筋にキラっと光る物体を探すのだ。見つけたらその物体に全集中。よく目を凝らすと、そいつは魚の形をしていたりエビの形をしていたりする。それがお目当ての生き物たちだ。

浮遊生物を探す様子

浮遊生物を探す様子

ついに発見!
宝石のような浮遊生物たち

最初は着底したり上下しすぎたりしないように気を遣うのに精一杯だったのだが、慣れてくると確かに光る物体が目につくようになる。それがSNSやブログでよく見かける珍しい生き物でなくても、くるくる回転しながら泳ぐ透明なエビや、つまめそうなくらい小さなクラゲなど、普段と違った生き物の様子に目を奪われていた。

エビ Photo by Kimiko Inoue

エビ Photo by Kimiko Inoue

しかし石野さんや早野さんが見つけて案内してくれる稚魚を見てしまうと、それだけでは満足できなくなってくる。

トビウオ科の稚魚 Photo by Yoichi Takigawa

トビウオ科の稚魚 Photo by Yoichi Takigawa

私の知ってるトビウオじゃない…!(笑)。それに、思っていたより大きい。数ミリのプランクトンを想像していたが、稚魚たちは1~5cm程度とわりと見やすい大きさだ。その他にもカサゴやイソギンポ科の生物など、普段目にする成体と違った姿の稚魚たちが現れる。

イソギンポ科の稚魚 Photo by Yoichi Takigawa

イソギンポ科の稚魚 Photo by Yoichi Takigawa

なるほど、これはハマる理由もわかる。成体との違いを楽しむのはもちろんだが、成体の姿を知らなくても、光を当てると美しく輝く宝石のような生き物たちは初めて目にするものばかりで、「次はどんなのが出てくるのだろう」と夢中になってしまう。まさに宝探しのよう。下見に参加したと言うウミウシ好きの早野さんも「こんなにおもしろくてハマるダイビングは久しぶりだ」と熱く語っていたのも頷ける。

カマス科の稚魚 Photo by Kimiko Inoue

カマス科の稚魚 Photo by Kimiko Inoue

あとから聞いたところ、初めての人でも楽しめるように大きくてわかりやすい稚魚や、明らかに異形の姿をした生き物を紹介してくれていたそう。つまり、ライトトラップ初心者でも十分に楽しむことができるし、まだまだ知らない生き物がこれ以上に楽しめるということでもある。

チャレンジ2日目
続々現れる稚魚たち

2日目は「ゲルマ洗岩(せんがん)」というポイントへ。潮流の近くにありつつ、流れの影響は受けにくいという、潜りやすく生き物をおびきよせやすい、まさにライトトラップにうってつけのポイントだ。

前日あまり自分で生き物を見つけることができなかった私は、とにかくガイドについていくという作戦に変更することに。だって、見つけるコツを石野さんに聞いたところ「慣れです(笑)」と言うから(笑)。

しかし、実際はそんなことする必要はほとんどなかった。明らかに前日よりもキラッと光る物体を何度も見かける。近づくと魚の姿をしている。すっかり夢中になって、ガイドについていくことを忘れてしまっていた。同時にサンゴの産卵も見られたが、そっちのけで浮遊生物を探す。

ルリホシスズメダイの稚魚 小さい時から星の模様があるのに感動

ルリホシスズメダイの稚魚 小さい時から星の模様があるのに感動

トリクチス(チョウチョウウオ科の稚魚) Photo by Yoichi Takigawa

トリクチス(チョウチョウウオ科の稚魚) Photo by Yoichi Takigawa

下見の時に見られたという、結構レアなツノダシの稚魚も、今回のライトトラップでも発見された。「阿嘉島では普通種です(笑)」と早野さんが冗談っぽくではあるが言うほど(笑)。

ツノダシ Photo by Yoichi Takigawa

ツノダシ Photo by Yoichi Takigawa

しかしこの日、私の心に一番残ったのはホシダルマガレイ属の稚魚。石野さんが見つけて案内してくれたのだが、透明で平べったい体で水中を漂う不思議な姿に目が釘付けになった。

Photo by Yoichi Takigawa

Photo by Yoichi Takigawa

目が光っているのもポイント。クリスマスっぽい写真になった。

目が光っているのもポイント。クリスマスっぽい写真になった。

まだまだ出るぞ
これから期待の阿嘉島ライトトラップ

初めてのライトトラップ。眠気も吹っ飛ぶほど楽しい2日間となった。私と同様に初めての参加というゲストの大谷さんにも感想を聞いたところ、「想像以上に楽しかった。自分で生き物を探すのはもともと好きですが、暗闇の中ライトを使って小さいのを探す特別感がすごく良かったです」とのこと。

満足感に包まれ、石野さんより一足先に阿嘉島を後にした3日目、石野さんから「最終日大当たりでした!」と一報が。なんと、深海魚のテンガイハタまで現れたそう。

テンガイハタ Photo by Yoichi Takigawa

テンガイハタ Photo by Yoichi Takigawa

しかも、ラストダイブのエキジットの際に、ボート下に集まる浮遊生物を見に行ったところ発見したという。「もう1日いれば良かった」とちょっと悔しい気持ちとともに、阿嘉島のライトトラップのポテンシャルに驚かされた。これは、シーサーに蓄積された阿嘉島の潮汐データという現地サービスの強みに、石野さんの積み重ねてきた経験値やライトトラップの知識に基づいた勘が合わさったからこそ実現した結果だろう。今後の阿嘉島のライトトラップ開拓、ますます注目をしていきたいと思う。そしてあえて言おう。ライトトラップはマニアだけの遊びではない。ダイバーであればきっと誰でも楽しめる。少しでも興味を持ったなら、ぜひ参加してみてほしい。

取材協力:マリンハウスシーサー阿嘉島店

リピート率9割を超える阿嘉島老舗のダイビングショップ。3艇のボートHAPPY号、Shooting STAR号、JUMP号で快適ダイビングを提供してくれる。マリンスタッフだけでなく、事務スタッフ、レストランスタッフ、ペンションスタッフと非常勤も入れれば総勢20人でお出迎え。宿泊施設やレストランも併設しており、快適な阿嘉島ダイビングが楽しめる。

〒901-3311沖縄県島尻郡座間味村阿嘉162
TEL:0120-10-2737

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PROFILE
IT企業でSaaS営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。
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