奄美大島ホエールリサーチ(第4回)

海中で親子クジラに初遭遇! ~南下しない奄美大島のクジラたち~

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奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

まだシーズンには早いこの時期に、今年生まれた子クジラと母クジラを見つけた

船に乗船させてもらいクジラを発見するたびに、「今年のクジラはおかしいわ。どうしちゃったんだろ?」と何度も口にするマリンスポーツ奄美の才さん。

「何がおかしいんですか?」と尋ねると、通常この時期のクジラは、沖縄に向かって奄美群島の太平洋側を黙々と南下していくのが普通なのだそうだ。
それに水深200m付近を泳いでいることが多いのに、リサーチ期間中、かなり岸に近いエリアでブローを発見することが多かったり、南下どころか北上していくクジラもよく目撃する。

この日は、午前、午後と海に出て、合計で12頭のクジラを確認した。
明らかに南下している個体はほとんどいなかった。

午前中はウォッチングのゲストばかりだったのでなかなかスイムするチャンスは無かったが、何頭かの個体が頻繁にブリーチングしてくれた。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

島から2kmも離れていない水深30m程の浅い海にとどまり、ブリーチングするクジラ

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

ヘッドスラッピングでは、口を開けたので口ヒゲがはっきり見えた

午後はゲスト無し、リサーチのみで海に出してもらった。

「昨日の越智さんの水中写真見たら、自分も水中で撮影してみたくなりました」と水中ハウジングを持ってきていた才さん。
操船をスタッフの伊藤さんに任せて、一緒に海に入る事に。

この日は山頂からクジラのブローを観察している才さんの知人からの情報を元に、普段行かない空港近くのエリアまで北上した。
そこで午前中にとどまっていたブローをいくつか確認していたので、午後もそちらに向かい、3頭のクジラが一緒に泳いでいるグループにアプローチしてみる事にした。

3頭中、なぜか体中に擦り傷の多い個体だけが水面に浮いている時間が長く、後の2頭は海中に滞在している時間が長い。
(もしかして親子? にしてもサイズが大きい。あるいは昨シーズン生まれた1歳になる子クジラか?)。
そう思いながらほとんど同じ場所から動かないそのクジラたちを観察していた。

才さんもGPSでどれだけ移動しているかを確認してみたが、せいぜい150mくらいしか動いていない。
3頭が潜ったところで傷の多いクジラだけが浮上してきたら、エントリーしてアプローチしてみる事にした。

1回目のエントリー。

岸からかなり近いからか、透明度が悪い。
魚探によると水深は30m程しかないらしいが海底はまったく見えない。

傷のついた個体だけが浮かんで止まっているタイミングでエントリーして接近。
かなり近づくと、もう1頭が下から浮上してきて一緒に泳ぎ始めた。

間違いない。サイズが大きいけど親子だ。
それも昨シーズン生まれた個体だ。
そう思ったのは、かなり寄り添って泳いでいたから。

行動は完全に親子のそれだった。
かなり接近して撮影したつもりだが、母クジラの全身は見えない。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

透明度が悪く、撮影は相当寄らないとかなり厳しい

2回目のトライはかなり船から離れていたが、クジラを刺激しないようにそこからエントリーすることにした。
島の稜線をヤマダテに利用して、クジラの背に向かって泳いだ。

途中でクジラは潜行してしまったが、とにかく潜行した辺りまで泳いでいくと、そのクジラが水深10mもない海底でじっとしていて、その横にはさらに巨大なクジラがその深度より少し深い場所で止まっていた。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

右が子クジラ。水深10mもない深度でじっとしていた。その下には、巨大な母クジラの姿が。こちらは透明度が悪いので、やはり最初は全身は見えなかった。

真上にゆっくりと浮上してきていたので、順光側になる2頭の間に入り、まずは傷だらけの個体にカメラを向けて撮影した。
やはり昨シーズン生まれたクジラとその母親のようだ。
エスコートの3頭目の姿はなかったが、止まっているのでゆっくり撮影することができた。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

子クジラとの距離は4m程か。これだけ寄れれば透明度が悪くても、全身をしっかり撮影できた。

僕の存在に気づくと子クジラが少し慌てたように移動を始め、母クジラも子クジラを追うように浮上してきた。
その様子は親子の見慣れた行動パターン。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

移動を始めた子クジラを追うように浮上してきた母クジラ。親クジラの典型的な行動パターンだ。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

最後は子クジラは母クジラのお腹の下に隠れるように一緒に泳いで行った。1年たった子クジラと母クジラの行動パターンも、生まれて間もなくから親離れするまではあまり変わらないのかもしれない。突然の別れはどのように行われ、その時をむかえた子クジラは、母との別れをどんな風に感じているのだろうか。

これで驚いたのか、その後は止まらずエントリーのチャンスはなかった。
透明度がよければもう少し距離を置いて観察して、慣らせて見たいところだったがこう透明度が悪いとそのアプローチ方法は困難だった。

それでもリサーチとしては十分に撮影ができたので港に戻る事に。
もう片付けもしていた時に急にボートが止まった。
どうしたのかな? と思っていたら才さんがスピーカーで「親子です!」と叫んだ。

操船デッキに上がると、明らかに今年生まれたばかりの小さいな子クジラと母クジラだった。
2頭はゆっくりと南下していた。

しかも時折、母クジラは海中で止まり、子クジラだけが浮上してきて同じ場所を泳いでいた。
「これは入れますね」と才さんが言うので、アプローチしてみる事に。

まずは子クジラが浮上したところの近くまで船を寄せて、できれば水面に浮いている間に近くまで接近したかった。
しかし到着前までに潜ってしまい、母クジラの元へ戻って行った。

前の海域よりは透明度は若干マシだが、決してよくは無い。
勘で母子がいるであろう位置までさらに泳ぎ海中を捜索していると、突然、向こうからこちらに向かって親子が泳いできた。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

母クジラは勢いよく泳ぎ去ったが、こちらの様子を伺うようにさらに2回ほどUターンしてきた。
特に最後の1回は、ほぼ自分の真下を通過していくほどの近さまで接近してきた。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治) 奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

自分で接近してきながらあまりに近くて驚いたのか、勢いよく泳ぎ去ってしまい、それ以降は止まる気配が感じられなかった。
才さんが「止まりそうにないですね。どうしましょう。追っかけるのはやめた方がいいですかね?」聞いてきた。
クジラが嫌がってるか嫌がっていないか、感じ取り方は人それぞれだと自分は思っている。

「もし才さんがこれ以上追うのはちょっと気がひけると思うのであれば、追うのはやめればよいと思いますよ。どうするかはスキッパー(船長)の才さんが決めれよいと思います。自分はその判断に従います」と伝えた。
才さんはこれ以上の追跡はしないと判断して港に戻った。

「こんな早い時期に今年生まれた子クジラも珍しいです」と才さん。
ちなみにトンガでは、自分が滞在している2ヶ月弱の間に40〜50組の親子を水中で撮影する。
もちろん同じ親子の場合は同じ親子としてカウントするし、寄らせてくれなくて水中で撮影できていない親子も入れるとその倍以上になる。

才さんに「奄美では1年に何組くらいの親子クジラを確認しますか?」と尋ねると、水面からの確認で20組くらいとのこと。

できれば、トンガスタイルのアプローチで水中での遭遇確率が上げられれば面白いのだけど。

とにかく、昨日に引き続き水中での撮影に成功した。
しかも今年生まれた子クジラと、昨シーズン生まれた子クジラが撮影できた。
透明度は悪かったけど、水中でクジラを撮影するのはかなり難しいと思っていた奄美でのホエールスイムリサーチの成果としては十分すぎた。

27日はホエールスイム最終日。

ちなみに、ホエールリサーチは才さんにお世話になっているが、自分が滞在しているのは奄美大島南部の大島海峡を望める、ゼログラビティという宿泊施設だ。
この新しいダイビング施設でも、来シーズンから自社ボートを使用したホエールスイムを行う予定でいる。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

加計呂麻島と奄美大島に挟まれた大島海峡。ここにクジラが入ってくることもあるのだそうだ。

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

ハンディキャップの人でも宿泊とダイビングが楽しめる施設の整った、ゼログラビティ

奄美大島ホエール(撮影:越智隆治)

ハンディキャップの人でダイビングやホエールウォッチングが楽しめる設備のあるゼログラビティの船

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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