安全ダイビングのための15の提言集(第4回)

ドリフトダイビングの潜り方および注意点について

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“流れ”に乗って潜るドリフトダイビングは、ちょっとの判断ミスが、漂流など重大事故につながるリスクをはらんでいます。

そこで、世界のプロフェッショナルガイドが集まるガイド会から、ドリフトダイビングのガイド経験豊富なガイドに、その潜り方や注意点を示していただくことは、現実的な事故防止に役立つでしょう。

ゲストのリクエストは
ドリフトダイビングの外洋に集中

パラオの海はサメ、マンタ、ナポレオンフィッシュといったダイバーに人気の魚が数多く生息し、世界中のダイバーから憧れのダイビングポイントとして知られています。

パラオウェブマガジン(撮影:越智隆治)

ダイビングエリアは外洋・内湾と大きく2つに分けることができ、それぞれのダイビングポイントには、コロール州政府の管理のもと潜降ロープが設置されています。

内湾では、小さくかわいい生物の観察、沈船ダイビングを楽しむのが一般的であり、基本的には潜降したロープに戻ってきて、エキジットを行います。
サメ、マンタ、ナポレオンフィッシュなどの人気種が多いのは外洋なので、当然ながら一般的なゲストのリクエストは、外洋のダイビングに集中します。

「デイドリーム」では、ダイビング全体の8割は、外洋でのダイビングといっても過言ではありません。

外洋のダイビングポイントの特徴は、「流れ」といえます。

パラオの流れは潮流、海流、両方の影響を受けて発生します。
流れの中で潜降することが必要なので、体験ダイビングや講習といった特別な条件下でない限り、エキジット時に潜降ロープに戻らない、ドリフトダイビングのスタイルとなります。

つまり、潜降ポイントから流れに乗って移動し数百m、時には1km 以上離れたところで、水面に浮上することもあります。
レクリエーショナルダイビングであれば、潜水時間30〜40分、水深20m前後でのダイビングが一般的な範囲です。

水面浮上前、水深5mで3分間の安全停止を行います。
このとき、リール付きのシグナルフロートを水面に打ち上げてボート操船者に自分の位置を知らせ、そして迎えに来てもらったボートにエキジットしてダイビングが終了となります。

気づいたら残圧ゼロ!
少しの油断がトラブルにつながる

同じダイビングポイントでもまったく流れのないときもあれば、ガイドでも手に負えないほどの激しい流れが発生するところもあります。

流れの向きも徐々に変化する時もあれば、一瞬で真逆の流れに変わるケースもあります。
海流・潮汐・風・水温など、さまざまな環境条件の変化により、流れの強さ、向きは刻々と変化し続けます。

ただでさえ予測が困難なのに、水中地形がさらに流れを複雑に分岐させます。

上方向へと持ち上げられるアップカレント、下方向へ引きずり込まれるダウンカレント、リーフに対し押し出される流れというのもあります。
ひどいケースでは1m先で、真逆の流れが起きているということもあるくらいです。

ガイドから少し離れてしまったばかりに、違う流れにつかまりチームへ戻れなくなる事態が簡単に起きてしまう環境ともいえます。

また、流れのある環境というのはダイバー本人の気がつかないうちにストレスを与えています。

時には流れに逆らって泳がなくてはならないこともあります。
ハードな環境は残圧を急激に減らす、いわゆる「知らない間に残圧0」という事態を起こしやすくします。

何十回とパラオに来られ、ドリフトダイビングに慣れているゲストでも、このようなトラブルに遭遇してしまうこともあります。

ロウニンアジの大群が見られることで有名な、「ペリリュー」というダイビングポイント。
ロウニンアジの群れに集中するあまり、ガイドの指示が見えず、ダウンカレントにつかまってしまったということが起こります。

一度ダウンカレントにつかまると、周囲が自分の吐いた泡で取り囲まれ視界不良となり、ガイドの位置はおろか自分の位置までもわからなくなり、BCをパンパンに膨らませて水面方向へ一生懸命フィンキックしなければ浮上できない事態へと陥ります。

パラオの場合、ダウンカレントが発生しやすいところに群れ・大型生物が集まりやすい傾向があります。
ここにダイバーの落とし穴があるのです。

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シグナルフロート打ち上げまで
ドリフトダイビングの基本

ドリフトダイビングは他のダイビングと比べ、水中・水面ともに遭難しやすいスタイルだと思います。

ガイドは流れをかわせる場所、そのダイビングポイント独特の流れによる危険な点を熟知しているのはもちろんのこと、つねに海を見て流れの向きや強さに注意をすることが必要です。
潜る前には「カレントチェック」という素潜りで、ダイビングポイントの流れの強さと向きをチェックします。

そしてボート上で、起こるであろうトラブルや回避テクニック、注意事項をゲストへブリーフィングで説明します。
エントリー前には必ず操船者に潜水時間・コース・エキジットポイント・使用するシグナルフロートの色を伝えます。

これはあくまでも基本中の基本です。

特に激しい流れの中でダイビングを行う際は注意が必要です。

このケースではまず操船者に、水面に浮いたダイバーの排気の泡を追いかけてもらいます。
エントリーポイントより遠く離れた場所でエキジットするので、海面に上がったシグナルフロートを操船者が発見次第、シグナルフロートを中心に大きく円を描き航行してもらいます。

これが水中のダイバーたちへの「発見したよ」というボートからのサインとなります。

もし、シグナルフロート打ち上げ後、数分間ボートからのサインがなければ、操船者はダイバーの位置を把握していない可能性があり、ガイドは一足早く水面へ浮上し、ボートの位置確認を行わなければなりません。

そして、ボートが気づいていない場合は、自分たちの位置を知らせる信号の発信を行います。

こういったケースは、潮流の速度が操船者の想像よりも速いときや、ガイドと操船者との打ち合わせが不十分な場合に起こりがちです。
この素早いボート位置の確認作業は、長い安全停止を終えた後に行うよりも遭難リスクを大きく減らすことができるのです。

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携行品、連携、判断力……etc.
ガイドが気をつけていること

ガイド本人も激しい流れに対し、対策を講じています。

基本的なものでは、少なくとも色の違う2種類のシグナルフロートを携行します。

1つ目のシグナルフロートにトラブルがあった場合の予備の意味はもちろん、急な流れの変化によりコース変更を余儀なくされた場合、シグナルフロートを打ち上げることによりコース変更を操船者へ知らせることができます。

事前に操船者と色の違いによるサインの内容を打ち合わせるのは必須です。

我々ダイバーをピックアップするのは操船者です。

ガイドとして、操船者との連携・情報交換はドリフトダイビングを行う際の重要なポイントの1つといえるでしょう。

しかし操船者も人間ですからミスをすることもあります。
ですから、遭難に備えさまざまなものをガイドは携行します。

「デイドリーム」のスタッフは、笛・反射鏡・発煙筒・GPS 発信機といったものを携行しています。

操船者とのしっかりとしたコミュニケーションをとり、充実した携行品を持っていてもガイドとして冷静な判断力が欠如していては何の意味もありません。

海中にいながらも常に海上の様子に気を配り、少しでもコンディションが悪化したら潜水時間10分でも上がるという判断力も必要です。

H.I.S.安全ダイビング

ガイドの視点から考えるゲストに気をつけて欲しいこと

さらに、ゲストの協力も不可欠です。

ガイドの指示を注視し、従っていただくことは強くお願いしたいことの1つです。

また最近ではカメラの小型化、軽量化に伴い水中撮影を楽しまれるダイバーを多くお見受けしますが、1m先で流れが異なる場合もあるのです。
シャッターを切ったらガイドの位置を必ず確認する癖をつけていただきたいと思います。

十分に気をつけていたとしてもトラブルに遭わない保証はありません。

水中ではぐれてしまった場合、それぞれの地域・ダイビングポイントにもよりますが、一般的にいわれているのは、動いてチームを探し回らないこと。
その場で留まるのがセオリーです。
1分待って、それでもチームと合流できなければ浮上するという手順です。

焦らなくて構いませんからゆっくりと通常の浮上速度で浮上します。

浮上後はボートのピックアップを待ちましょう。

操船者に気づいてもらいやすいよう、シグナルフロートは打ち上げてください。

ドリフトダイビングをする場合には、少なくともシグナルフロートは携行したほうが良いでしょう。
ちなみにパラオはシグナルフロートの携行は義務となっています。

それと日本人に多いのが、チームからはぐれ水面を漂っている際、他のダイビングショップのボートが心配し近づくと冷静を装い助けを拒むというケースを見ます。

チームからはぐれた時点で遭難しているのです。

恥ずかしがらずにピックアップしてもらいましょう。

漂流したときにすべきこと
漂流する前に備えること

もしも船が迎えに来ない場合、焦ってはいけません。

必ず迎えは来ると信じること、その気持ちを維持することに努めてください。
陸地が見えていたとしても決して泳いではいけません。

島と漂流者の間には激しい流れがあり、陸地まで近いと思っていても辿り着かないことがほとんどです。
体力の温存に努めてください。

流木のような漂流物を見つけた場合はそれにつかまりましょう。
浮力確保のためだけでなく、何かにつかまっていないときより、つかまっていたほうが発見されやすくなります。

そのため、つかまるものは大きければ大きいほど良いといえるでしょう。

発見されやすくなるスキルの1つに、漂流者が複数いる場合は皆の身体をラインで結び円形につなげてください。
線状にすると波間で隠れやすくなりますが円形であればそんなことはありません。

お互い離れ離れにならない利点も兼ね備えています。

その場の状況にもよりますが、基本的に器材はすべて装着したままのほうが良いといわれています。

真っ先に不要と判断されそうなウエイトも高波のときは、足に巻くことで体が垂直になり呼吸しやすくなります。

暖かい海域では薄着でダイビングを楽しまれる方がいらっしゃいますが、ウエットスーツを着用したほうが良いと思います。
常夏の島パラオの場合、平均水温は30℃です。

一見、暖かそうに思えますが、それは1ダイブの時間で考えているからです。

漂流時は何時間、もしかすると、何日も水中にいなくてはいけません。
水温30℃の環境でも長時間いれば極寒に思えることでしょう。

ゲスト・ガイド・操船者がどんなに協力し合っていたとしてもトラブルが起こる可能性を0にはできません。
ですからトラブルは起こるものだと認識することがもっとも大切です。

いつどこでトラブルに遭ってもいいように器材のメンテナンス、スキルの向上はもちろんのこと、無茶なことはしない冷静な判断等々、おのずと今自分がしなくてはいけないことが見えてくるのではないでしょうか。

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自分の心と競い合い生きて帰ることを前提に考える

ダイビングはスポーツのカテゴリーに含まれています。
スポーツというと自分のスキルを磨き、他者と競い合うのが一般的です。

しかし、ダイビングは他者と競い合うということはありません。

その代わりに自分の心と競い合うスポーツだと私は思います。

非日常的な空間を味わうことのできるダイビングは魅力的です。

解放感から、ついつい羽目を外してしまうこともありますね。
そんなときこそ、自分の心と競い合い、より安全にダイビングを楽しむ選択をしていただきたいと思います。

私は、ダイビングガイドという仕事は、ゲストを海中から生きて帰すのが第一目標で、ゲストに非日常的な空間へ案内し、楽しませることはその次だと思っています。

もう少し泳げばもっと近くで魚を見せることができる!
もっと楽しい時間を演出できる!

でもそれは、本当に安全の範囲内でしょうか?

ただの独りよがりではありませんか?
ダイビングガイドを行う方々も、今一度自分の心と競い合ってみてはいかがでしょうか。

提言者Profile
加藤(かとう)栄一(えいいち)氏/ガイド会所属パラオガイド
加藤栄一
東海大学海洋学部卒業後は、高知県柏島にて海のいろはを学ぶ。2012年より拠点をパラオへと移し、「デイドリームパラオ」にてガイドとして活動。テクニカル・ダイビングへの知識、技術を持つことから、デイドリーム内では現場のリーダとして信頼されている。
「楽しく安全なダイビングを提供できるよう邁進しています」

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ダイビング事故を防止するため、安全ダイビングに有益な情報発信・施策を行っています。

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