Webを利用したダイビング事故情報の継続的な有効活用
NPO「Project Safe Dive」が、安全ダイビングへの貢献を目的として作成した「安全ダイビングの提言集」。“ダイビングの安全・安心”という広い観点から15のテーマを選出し、各テーマの分野における有職者の提言をまとめています。
この提言集を多くのダイバーに読んでいただくため、この連載にて提言をひとひとつ紹介していきます。
今回のテーマは「Webを利用したダイビング事故情報の継続的な有効活用」。
当NPOは、寄付者の「今後の安全ダイビングのために活かして欲しい」との意思表明に基づき、事故の再発を防ぐことを主たる目的としています。そのうえで、事故情報や安全ダイビングのための情報収集・発信を行えることは重要で、とりわけ、IT化著しい昨今、Webを活かした仕組みを模索したいと考え、テーマとして選出しました。
ダイビング事故情報における
SNS時代の問題と課題
近年FacebookやTwitterなどに代表されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の浸透によって、個人が世間に対して大きな発信力を得るようになりました。
事故を目撃した人がSNSに情報を発信するとシェアやリツイートされ、瞬く間に情報が拡散されていきます。
拡散される過程で事実と憶測が混在し、ときに悪意ある虚言も加わり、過激な情報のみが無責任に一人歩きをしてしまうという現象が起こっています。
このことは事故の当事者はもちろんのこと、ダイビング業界全体にとっても風評被害を拡大させている原因です。
また、事故情報が正しく伝わらないということは、事故に対して学習や予防もできないということです。
一般ダイバーが事故についての知識を持ち合わせないことが、今のガイド・インストラクター依存型の安全管理になっている一因ともいえるでしょう。
「憶測情報の拡散防止」と「事故から得た教訓を活かす環境」が、ダイビング業界を健全に成長させるために必要なことではないでしょうか?
スキル・安全についての
コミュニティーサイト開設を提案
上述した課題を解決していくためには、事故が発生した際にすぐに情報が集まり、一般にも公開される場を提供することが必要です。
具体的には、ダイビングのスキル・安全についてのコミュニティーサイトを開設すること。
利用者が気になるテーマを投稿し、他の利用者がそのテーマについてコメントをすることで、知識の共有や様々な視点を獲得し安全意識を高めていきます(図01参照)。
たとえば、「中性浮力が苦手だけれど、コツを教えてもらえますか? 」というテーマを投稿した場合、他の利用者からは「呼吸を意識的にやってみたら? 」や「BCを積極的に使ってみたら? 」、「中性浮力の講習を受けるのが確実だよ」など、いろんなコメントが集まってくる仕組みです。
どれも正解であり、投稿した利用者や閲覧に訪れた利用者が、何を選択するかも考えることができます。
どれもインストラクターやガイドに聞けば教えてくれる内容ではありますが、自分で考えたり情報を探したりする行動が安全面での自立したダイバーへの足掛かりとなるでしょう。
事故情報カテゴリーを設け
迅速な情報公開をリアルタイムで
そのサイト内に事故情報を扱うカテゴリー(図02参照)を設け、事故が発生した際には目撃者から事故情報を集め、リアルタイムに公開されるようにします。
迅速な情報公開を行う理由は、ダイビング以外の事故や不祥事の事例を鑑みても、情報の公開が遅れれば遅れるほど憶測を呼び、炎上してしまうからです。
危機管理意識の高い企業では、事故発生時には相応の責任者による記者会見や、自社メディアより情報を公開するなどクライシス・コミュニケーションの基本となる迅速な情報公開が徹底されています。
しかし、ダイビング事業者での事故ケースを想定すると、当事者となる経営者は事故者、病院、警察、消防、海上保安庁などへの対応に向き合うため、外部への情報公開までには時間を要し、迅速な情報公開は現実的に難しいのではないでしょうか。
またクライシス・コミュニケーションを策定している事業者も多くはないと思われます。
つまり、迅速な情報公開は炎上の予防効果があり、そしてダイビング事業者を支援することにつながります。
ただし、情報公開は早いだけではなく正確であるということも重要です。
目撃情報だけでは不正確であったり、目撃者の個人的な見解が反映されすぎた情報に偏ってしまうおそれがあります。
この点については、情報を集約していれば、誤報・虚言の訂正・削除や当局発表情報の更新を行い、情報をコントロールしていくことができます。
また、事故というデリケートな情報を扱ううえで、ダイビングについての深い知識と経験、見解と事実を切り分けて情報を扱える技術を有する運営サイドが調査を行い、レポートとしてまとめることが重要であると考えます。
事故情報をもとに安全なダイビングや事故予防についての議論ができる場を提供することで、利用者たちの安全意識を高めることにつなげていきます。
利用者アカウントは自由な発言ができる仮名登録と、発言に責任・信用がともなう実名登録を、利用者の意図に応じて選択ができるようにするのが望ましいと考えます。
ただし、仮名で運営される口コミサイトや2ちゃんねるなどのコミュニティサイトは、誹謗中傷が横行する懸念があります。
この問題をいかにクリアしていくかが運営面での課題になります。
誹謗中傷が横行する「荒れる」状態を回避するために、「利用ルールの策定と徹底」、「ルール違反コメントの通報機能の設置」「有識者コメンテーターによる正確な情報発信」などの施策を行っていく必要があるでしょう。
先述のように、またそれ以外にも運営をしていくうえで全く問題がないわけではありません。
しかし、この試みによってダイビング事故の正確な情報共有が実現でき、多くのダイバーに事故教訓を考える機会を与えることができます。
「危険な情報、不利益な情報をわざわざ発信するな」という声があることは十分に承知しています。
しかし、今のSNS時代において情報に完全に蓋をすることは不可能に近いことです。
そして、いびつな情報を生み出してしまいます。
業界自らが正確な情報を公開することは、健全な議論を生み出し、結果的に自らを守ることにつながっていきます。
これが、ダイビングに関わる全ての人たちの安全につながることと信じ、ダイビングのスキル・安全についてのコミュニティーサイト開設をご提案させていただきます。
秋元智道氏/ビットノット株式会社代表(BuddyDiveウェブシステム開発)
目の前のお客様と感動を生み出すことに充足感を得ながらも、より社会全体に訴えかける方法を模索し、WEB制作会社に転職。
いちからWEB技術・マーケティング理論を学ぶ。
現在、WEB制作&マーケティング会社を立ち上げ、ダイビングショップをはじめとする企業の活動をサポートしている。
安全ダイビングのための15の提言集(連載トップページへ)
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