安全ダイビングのための15の提言集(第6回)

海外の医療ネットワークを持つDANの果たす役割

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ダイビング事故の際は、海外における事故への対応が1つの課題です。

そういう意味では、レジャー・スキューバダイビングの海外ネットワーク、事故者に対する緊急医療援助システムを持つDAN(Divers Alert Network)の果たす役割は重要と考えます。

IDANと協力体制がとれる組織
DAN JAPANの目的と役割

DAN JAPAN(ダン・ジャパン)は「レジャーダイビングの安全性の向上」を目的とし、1992年1月に活動を開始しました。
当時、レジャーダイビングが盛んになった半面、研究の進んでいなかった減圧症などの潜水障害の重大事例が発生し、一般ダイバーが安全にダイビングを楽しめる環境作りが急務でした。
このため、事故に遭遇したダイバーを援助する「ホットライン」、さらには「有害事例の収集」および「研究」を主な目的として始動しました。

IDAN(インターナショナルDAN)は、DAN JAPANを含めた5つのDANの集合体です。
DAN JAPANの大きな特徴と魅力は、この世界に広がるDANの協力体制の一員であることです。
IDANとしての活動により、世界の潜水医学情報の入手や、全世界的な研究が可能となっています。
さらに、海外ダイビングの際には、DAN JAPANの会員は、各DANの緊急対応ネットワークを利用することも可能です。

各DANの地域の事情も異なるため、それぞれのDANが提供するサービス内容は多少異なりますが、今回は、これらの違いも含め、海外ダイビングでDAN JAPANが果たす役割についてご紹介いたします。

すでにDAN JAPAN会員の方は、会員サービスの内容を再度認識いただき、必要なときに必要な補償や援助が受けられるようにしてください。

DAN JAPAN 会員以外の方は、ご自身が海外ダイビングでトラブルに遭遇した際にどういったことが必要となるのか、考えながらお読みいただければと思います。
読み終わった後には、きっとDAN JAPAN入会の意義を理解されることでしょう。

international DAN、伊豆ダイビング

海外ダイビングにおける
保険の必要性とDANの保険

DAN JAPANでは、“レジャーダイビング保険”(図01参照)を個人会員(一般会員/インストラクー会員)へ、基本サービスとして提供しています。

<図01 レジャーダイビング保険の主な補償内容(2023年7月現在)>
国内 海外
死亡・後遺症害 100万円 100万円
入院(日額) 8,000円
通院(日額) 5,000円
救援者費用 100万円 600万円
治療費用 400万円
携行品損害 10万円

DAN JAPANダイビング保険改正 携行品損害、シュノーケリング・フリーダイビング中の事故にも対応より

レジャーダイビング保険は、「レジャーダイビング」中の「急激・偶然・外来」の怪我に対する保険で、国内と海外で補償の内容が異なります。
保険を使用するような事故が発生しないことが、ダイバーにとってベストです。

しかし、ダイビングは自然環境下での遊びであり、不測の事態が発生する可能性があります。
このため、DAN JAPANでは全個人会員が入会と同時に最低限の保険に加入するようになっています。
これは、海外のDANにはないDAN JAPANの特徴の1つとなっています。

レジャーダイビング保険の特徴は、「安価な掛金で必要な補償を受けることができること」です。
たとえば、国内での医療機関への入院・通院は、国民皆保険制度により自己負担額が抑えられていますが、海外では事情が異なります。
地域や重症度に依存しますが、再圧治療などは非常に高価で、100万円超の治療費請求が発生する場合もあります。
そのため、海外では「治療費用」として、200万円を上限とした治療費の実費が補償されます。

さらに、必要な治療により予定していた飛行機搭乗ができなかった場合にも、保険会社の約款に基づいた審査がなされ、妥当と判断された場合には実費が補償されます。

また、救援者費用についても同様に実情に即した補償となっています。
国内では海上保安庁や自衛隊の捜索費用が事故者に請求されることはありませんが、海外では捜索費用の実費負担を要求されることもあり、また、救助者の交通費も高価となりがちです。

このため、DAN JAPANのレジャーダイビング保険では海外の救援者費用補償がより手厚いのです。
このように、保険の側面では、特に海外ダイビングにおいて、DAN JAPAN はダイバーに安価で大きな安心を提供しています。

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海外ネットワークの活用で
適確な治療相談が可能となる

先日、サイパンのインストラクターから、減圧症の疑いがあるため、帰国して再圧治療を受けたいという内容の相談がありました。
減圧症を疑う場合、気圧の変化を伴う飛行機搭乗はなるべく避けるべきです。

また、発症からなるべく早く再圧治療を受けることにより、重症化の可能性を低くすることができるため、最寄りの再圧治療施設への受診がベストな選択肢です。
この事例の場合、最寄りの再圧治療施設はグアムになり、グアムでの再圧治療が可能であれば、前述の飛行機搭乗や時間の問題もクリアします。

DAN JAPAN会員の強みは、こういった場合にIDANの海外ネットワーク(注1)を利用し、最寄りの治療可能な再圧治療施設を紹介してもらえることです。

重症の減圧障害の場合には「帰国して受診」は、そもそも選択肢ではありません。

減圧症を発症した場合に、なるべく多くの選択肢(帰国して受診するか、現地で受診でするか)を持つことが安心につながり、本当にダイビングを楽しむことが可能となります。

また、減圧症に限らず現地でのアシストが必要な場合、日本語のアシスタントサービスも利用が可能です。

これは保険引受会社の三井住友海上火災保険が運営するサービスで、全世界通話料無料もしくはコレクトコールで相談が可能(注2)です。

注1=英語の対応となりますが、海外でダイビングに関連した緊急時には、各DANのホットラインの利用が可能です。
注2=24時間/365日受付なので、海外からでも時差を気にせず電話が可能です。ただし、減圧障害が疑われる事例については、特殊な対応が必要となる場合がありますので各DANのホットラインをご利用ください。

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海外のダイビングサービスに期待したいこと

ここまで海外ダイビングでDAN JAPANの果たす役割の主なものを記載しましたが、この場を借りて「海外ダイビングをするダイバーのために海外現地サービスに期待したいこと」を2つ挙げたいと思います。

ゲストダイバーの緊急事態に適切に対応できることがダイビングサービスの価値を高め、新規ゲストやリピートゲストを増やすことにつながると確信しています。

①地域のDAN に入会すること

IDANでは、全世界のほとんどの地域をカバーしています。

地域に即した安全情報を入手するため、また、適切な事故対応のために入会を強くお勧めします(IDANの取り決めにより、日本人であっても居住地域担当のDANに入会することとなっています)。

たとえ言葉の障壁があるとしても、入会することによりDAN の援助を受けることが可能になり、多くの利益を受けることができます。

②ダイビングの受付時に、ゲストがDAN JAPANの会員であるかどうか確認

前述したように、有効なDAN JAPAN 会員はレジャーダイビング保険に加入しています。

そのため、受付時に会員資格を確認することにより、不測の事態(遭難や、多額の費用が必要となる治療など)が発生した場合でも費用負担を軽減することが可能となり、特にバリ島の遭難事故のような一刻を争う事態になった場合でも初動態勢を整えることができます。

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不測の事態を予測して
事故なく安全に楽しむために

ダイビングの安全は、「いかに不測の事態を予測して対応の選択肢を増やすか」に大きく依存しています。

また、各ダイバーがダイビングで事故を起こさないための知識やスキルを持つことも重要です。

DAN JAPANでは会員の皆様に「安全/ 医療情報を提供」し、万が一のための「ホットライン」、「保険」などのサービスを提供しています。

事故は発生しないのが一番です。
私たちの活動の最終目的は各ダイバーが「ホットライン」や「保険」を使用する機会が生じないようにすることです。

DAN JAPANではダイビングが安全になり、事故のないものになるよう、今後も活動を継続していきます。

提言者Profile
小島(こじま)朗子(あきこ)氏/ 元DAN JAPAN 事務局
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2020年、ダイビングの安全性向上のために情報提供をするULTRAmarine Labを立ち上げ、多方面で執筆をしている。元DAN JAPAN事務局長。都市型ダイビングショップでの勤務、海外DANとの連携を基に、潜水医学関連の最新情報を中心にダイバーに提供している。PADIマスタースクーバダイバートレーナー(No.808589)。

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PROFILE
安全ダイビングへの貢献を目的とした NPO法人です。
ダイビング事故を防止するため、安全ダイビングに有益な情報発信・施策を行っています。

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