アウトドアスポーツにおけるオウンリスク
アウトドアスポーツにおけるオウンリスク
Profile
山中康司(やまなか・やすし)氏/日本安全潜水教育協会(JCUE)会長
法政大学アクアダイビングクラブ時代にインストラクターになり、認定したダイバーは数千人、コースディレクターとしてインストラクターも多数養成。
現在は、黄金崎をベースに、インストラクターの集まったNPO日本安全潜水教育協会(JCUE)会長、「月刊ダイバー」ではDUKEヤマナカとしてダイビングテクニックのアドバイザーなどを務める。
テーマ選出の理由
受け入れ側が管理責任と向き合うのと同時に、参加者側もアウトドアスポーツである限り、自己責任と向き合わなければいけません。
アウトドアスポーツであるダイバーの自己責任の範囲とはどこまでか、また、自己責任で潜るために身につけるべき技術、知識、意識について考えることは重要だと考えます。
事業者のみならず参加者も
救助に対する意識を持つべき
バリ島の事故を教訓に、ダイバーとしてのリスクを自分自身の問題としてどうとらえればよいのだろう。
アウトドアスポーツで事故が発生したら、誰もが無事な救命を願い、かかる費用などのことを考えず救助に最善を尽くすのは当然である。
では、救助費用はどこが負担をしているのだろう?
急を要する救助では誰が金銭を負担するかなど、事故が発生した直後に話し合うゆとりはなく、できる人ができる範囲で救助活動を行っているのが現状だ。
多くのケースで、救助費用は救助に携わった方々のボランティアでまかなわれているケースが多い。
バリ島の事故で多くのボートが捜索にあたり、民間のヘリコプターも捜索に加わった。
その費用は、ボートは無償、ヘリコプターは地元の方々の寄付などによってまかなわれた形になった。
救助が必要になることを想定して準備すべきことや、緊急を要する捜索に対処するために、緊急救助システムを地元事業者でも取り決めておくことが必要であると同時に、その費用や救助にあたる人材の安全性についても取り決めをしておくべきである。
基本的には救助に関わる費用はサービスを提供する事業者とサービスを受ける人々(参加者)が負担すべきであると私は考える。
そのために事業者は、賠償責任保険に加入したり、遭難対策費用の含まれる保険などにも加入すべきである。
事業者とは、現地でガイドや船の手配(船の運航業者も含む)、および、旅行を手配した代理店など、そのアクティビティにて手数料を受け取る業者も含まれる。
それは、参加者も例外ではない。日本では被害者に救助費用を請求することを、遠慮する傾向がある。
しかし、個人や事業者に関わらず、アウトドアスポーツでは事故が発生した場合は、当事者(事業者や個人)が救助等にかかった費用を支払う覚悟が必要であり、そのための準備をしておくべきである。
事故が必ず事業者の責任とは限らず、参加者の過失も事故の原因になる可能性を考えると、参加者も遭難対策費用の含まれた保険には加入すべきである。
各個人が入ることができる代表的な保険はDAN JAPAN、PADI、スクーバダイバー保険などがある(もちろん、ほかにも存在する)。
安全にダイビングを楽しむために
各ダイバーができること
バディで潜る以外は、参加者(お客様)はエリアを選べてもダイビングポイントを選ぶことはほとんどできないが、安全を他人任せにせずに下記の「事前にできる準備」や「当日できること」を各ダイバーは責任を持って準備すべきである。
そのエリアの緊急時における体制の整備がされているかどうかを判断して、潜りに行く場所を選択することは重要である。
一例
旅行社の中でもH.I.S.は契約現地サービスの選定に自社のガイドラインを定めて選定している。
パラオ地区には事故が起きた際の現地サービス間の取り決めがある。
伊豆半島にもエリアごとに緊急対処体制ができ、伊豆半島全体でのドクターヘリによる搬送体制も整備され、定期的に各エリアで訓練やドクターヘリを運営する病院とのミーティングなども行われている。
業界の課題
しかし、ダイバー各自が各エリアの体制を確認することは容易ではないだろう。
各エリアでの体制の整備やその情報の公開など、ダイビング業界全体で情報の開示を進める努力が期待される。
■各自体調の維持に努める。メディカルチェックに該当する項目があるダイバーは、あらかじめ医師の診断を受けて、潜水できることを確認しておく(診断書のコピーを持参する)。
■ブランクがあるときにはリフレッシュダイビングを行ってから潜りに行くか、現地でリフレッシュダイビングの受け入れ態勢ができていることを確認する。
■遭難対策費用の付帯した傷害保険に加入する。
■シグナルフロートを各自で装備し、使えるようにしておく。たとえば漂流の際に必要なシグナルフロートなどはガイドがいるならガイドが持っていればいいと考えているダイバーは多い。しかしこれは明らかに誤りである。水中でチームとはぐれれば一人になる可能性もあり、結果的に一人で漂流してしまう場合もある。リスクを他人任せにしてはならい。
■家族には旅行の日程や利用するダイビングショップの情報を伝えておく。
■当日の自分自身とバディの体調も把握し、不安があるならダイビングショップに相談したり、その日のダイビングを中止する。
■潜るダイビングポイントに対して、自分自身のスキルや体調を鑑みて、楽しく潜れるかどうかを謙虚に最終判断する。潜るポイントの状況をていねいにブリーフィングするダイビングショップは信用できる。
■ブリーフィングをしっかり聞き、不明な点や不安な点を解消すること。ブリーフィングで不安が解消できない場合はそのダイビングをやめる勇気を持つこと。
本来のバディシステムとは?
オウンリスクの意識を持つ必要性
参加者(お客様)が事故に巻き込まれた場合、彼らは全面的に被害者なのだろうか?
今のダイビングスタイルはガイドと参加者各自がバディのような形態になっている(参加者自身が本来のバディシステムの機能を果たせていない)。
スキルに自信のないダイバーは、ガイドが各自を監視し、トラブルを早期に対処してくれると信じている。
法律的にもガイドは安全管理義務があるという判例が多数出ている。
しかし、事故はいつも原因が1つとは限らない。
認定に必要なスキルができない、あるいは体調不良で、ダイバー自身にトラブルが発生すれば、引率者は当該ダイバーの救助にあたるために、残されたメンバーのケアが手薄になる。
グループにスキルや体調が不完全なダイバーがいることで、新たなトラブルを起こさないとは限らない。
自分に潜水中にトラブルが起きれば、インストラクターが助けてくれると安易に考えるのは危険である。
また周囲にも迷惑をかける。
ある意味で、スキルの未熟なダイバーは加害者になるかもしれないのだ。
各ダイバーはプロが引率するダイビングやバディで潜るダイビングでも、「スキル」「体調管理」「控え目な計画」「事故が発生した場合の対処」を各自の責任において十分に準備すべきである。
特に、事前準備の可能な以下の項目をおろそかにすべきではない。
スキル
- ・最低限のスキルを維持する
- ・各自のスキルと体力に合ったダイビングポイントを選ぶ
体調管理
- ・体調を整える
- ・健康診断を受け、ダイビングに適した体調であることを確認する
控え目な計画
- ・ダイビング事業者を各自の責任において選ぶ
- ・ブリーフィングをしっかり聞いてダイビングを行うかどうかを自己の責任で判断する
- ・ポイントに必要な器材を用意する
- ・事故が発生し救助にかかる費用を賄える保険に加入する
Cカード保持者に本来要求されているスキル
- ・器材のセットアップ、装着と調節
- ・水面でBCDへの給気/排気
- ・レギュレーター・クリア-息を吐く方法とパージ・ボタンを使う方法
- ・レギュレーター・リカバリー-アームスイープ法とリーチ法
- ・少し水の入ったマスクのクリア
- ・バックアップ空気源の使用
- ・潜降と圧平衡
- ・ハンド・シグナル
- ・水中を泳ぐ
- ・ゲージの使い方と残圧のチェック
- ・浮上
- ・水面でBCDに給気(オーラル)
- ・プレダイブ・セーフティ・チェック(BWRAF)
- ・ディープ・ウォーター・エントリー
- ・適切なウエイト量とウエイトのチェック
- ・スノーケル/レギュレーター交換
- ・水面を泳ぐ-正しい水面習慣
- ・ファイブ・ポイント潜降
- ・中性浮力-パワー・インフレーター
- ・全部に水の入ったマスクのクリア
- ・マスクの脱着とクリア
- ・マスクなし呼吸
- ・エアが少なくなってきたときの対応
- ・エア・マネージメント-20bar/300psiの誤差の範囲
- ・こむらがえりの除去-自分とバディ
- ・視標を使った潜降
- ・ホバリング-30秒間
- ・水平に泳ぐ-トリムの調整
- ・バックアップ空気源の使用
- ・バックアップ空気源を使って泳ぐ/浮上する
- ・コントロールされた緊急スイミング・アセント
- ・バディとウエイト量とトリムの調整
- ・疲労ダイバー曳行-25メートル/ヤード
- ・スクーバ・キットの脱着-水面
- ・潜降-着底しない
- ・傷つきやすい水底の上を泳ぐ
- ・オーラル・インフレーションでホバリング-1分間
- ・フリーフロー・レギュレーターからの呼吸
- ・マスクなしで泳ぐ
- ・水底に着かないで浮上
- ・スクーバ・キットの脱着-水中
- ・ウエイトの脱着-水中
- ・エキジット
- ・スキン・ダイビング・スキル
- ・インフレーター・ホースの取り外し
- ・緩んだシリンダー・バンドの締め直し
- ・ウエイトの脱着-水面
- ・エマージェンシー・ウエイト・ドロップ
※株式会社パディ・アジア・パシフィック・ジャパンHP(http://www.padi.co.jp/)より抜粋
安全ダイビングのための15の提言集(連載トップページへ)
- Webを利用したダイビング事故情報の継続的な有効活用
- 海外ダイビングツアーにおける法的リスクについて
- パラオダイビング協議会における漂流事故への対策と有用性
- ドリフトダイビングの潜り方および注意点について
- 民間ダイバーと公的機関が連携したレスキューの可能性
- 海外の医療ネットワークを持つDANの果たす役割
- ドリフトダイビングのリスクヘッジ
- レジャーダイビング産業の現状と課題、解決の道筋
- 事故から見えるダイビングの安全と広範な情報収集の必要性
- 日本と海外における救難体制の違いと留意点 〜タイの事例を中心として〜
- 漂流などダイビング重大事故における保険の課題と解決策
- 漂流時にダイバーが取るべき行動と生死を分けるポイント
- ガイドやインストラクターの適切な事故時の対応 ~沖縄からの考察~
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