死なないためのダイビングスキル(第5回)

ただできただけでは意味がない、死なないためのマスククリア

マスクに水が入ることに強いストレスを感じている人は簡単にパニックに陥りやすい。
水中でパニックになれば、ほとんどの人が急浮上し、結果的には肺損傷からエアーエンボリズムや気胸を起こして死に至る重大な事故につながります。

うまく水面に戻れても、もし過度のオーバーウエイトなら水面でBCの給気が出来ずに溺れて水没してしまうかもしれません。

マスクに水が入るのが嫌な人は水へのストレスが強い、パニック予備軍と言っても過言ではないです。

でも、窒息感に少し慣れて、マスク無しで呼吸ができれば、マスククリアは簡単にできてしまうのです。

セブ島のダイバーたち(撮影:越智隆治)

多くの人がマスククリアを習う時に、水面上でマスク内の水を抜く手順を習い、マスクのうえからマスク内に少しだけ水を入れて排水する練習から始めていると思います。
でも、水へのストレスが強い人って、マスクの上部から徐々に水が入ってくる感じって、恐怖ですね(笑)

マスクの水を抜くことよりも、マスク内に水が入っても慌てないダイバーになることが大切。

マスククリアはマスク内の水を抜くスキルですが、水へのストレストレーニングでもあります。
ビクビクしながらかろうじてマスク内の水を抜いても、ストレスコントロールができていないのでは、何時パニックになってもおかしくないのです。

PADIのOWの達成基準では“落ち着いてマスクの脱着ができる”とあります。

そう、ビクビクしながらマスククリアができても、スキルは達成できていないのです。
前回も書きましたが、もしマスク内に水が入ってもパニックにならないなら、水を入れたままでも落ち着いて水面に戻れば溺れることはないのです。

マスククリアができないことが、死なないダイバーになるためのスキルではなく、“マスクに水が入っても慌てないことが死なないためのスキル”なのです。

効果的なマスククリアの練習法

私のマスククリアの練習は、マスククリアやマスク脱着の練習から始めるよりも息ごらえから始めると効果的です。

1.水面で軽く1~2分ほど息ごら(少しの窒息感になれる)

3回目のコラムで、やり方は書きましたね。

2.足の立つ水深で、マスクなしレギも咥えずに顔を水につけて暫く1~2秒程度息堪え

※目は開けてやってください。ストレスに慣れるためにも!

3.マスクなしで、レギュを咥えて、顔を水につけて口からの呼吸

最低でも楽に1~2分以上呼吸してください。できればいくらでも呼吸ができると自信が持てるまで!
ここまでできたらパニックダイバー予備軍からほぼ卒業です。やってみると簡単です。ぜひ試してみてください。

※もし鼻から水を吸ってしまったら、ストレスで慌てて呼吸をしようとしているので、しばらくは鼻を指でつまんでゆっくり呼吸してください。レギ呼吸では吸気と排気を口笛を吹くように細い息でゆっくり呼吸して、徐々に鼻をつまんだ指を離してください。魔法の呼吸法です。

4.マスクなしで、レギュレータ呼吸で口から吸気→鼻から排気

この状態でしばらく呼吸。

5.マスククリアや脱着の練習

マスクの形状で押さえ方や顔の上げ方も様々ですが、水へのストレスに慣れたこの時点では大して問題になっていないはずです。
この間、鼻から水を吸わない人なら15分程度です。

冷水の場合はちょっと注意!

普段、温かいところでしか潜らない人が、水温の低いときにマスクが外れるなどして顔に冷水が触れると(急に冷水にさらされる)、呼吸ができないような感じになります。普段マスククリアができる人でも窒息感を感じで鼻からの排気ができづらくなります。この窒息感には多少の個人差はありますが、人間の反射(冷水による催吐反射)なので、慌てずに(すぐに慣れるので)、ちょっとだけ(息堪えはできるので)落ち着いてゆっくり少しの排気をしてから吸気をすると呼吸ができるようになり、落ち着いてマスククリアができるようになります。

ストレスを感じるダイバーさんは、復習を兼ねてやってみると、ダイビングに対するストレスが減るかもしれませんよ。
※練習するならバディと一緒に!

死なないための大切な能力は、マスククリアができることではなく、マスク無しで落ち着いて呼吸ができることなのです。
マスククリアは水中で視界を確保するためのスキルであり、マスクなし呼吸が強いストレスなしにできれば、マスク内の水もストレスにならないはずです。

■2014年3月16日(日)死なないためのダイビングスキルセミナー開催!

※編集長・寺山による、バリのダイビング事故に関する途中報告もあります。

「目からウロコの“死なないためのダイビングスキル”セミナー」開催! | オーシャナ

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PROFILE
九州は小倉に生まれ、法政大学アクアダイビングクラブでダイビングを始める。

学生時代からインストラクターになり、認定したダイバーは数千人、NAUI時代にコースディレクターとしてインストラクターも多数養成。

インストラクターの集まったNPO日本安全潜水教育協会(JCUE、ジェイキュー)会長、雑誌「月刊ダイバー」ではDUKEヤマナカとしてダイビングテクニックのアドバイザーなどなど、比較的スキルや安全のことに比重を置いて活動している。
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