死なないためのダイビングスキル(第11回)

「水中ではぐれる=死の危険」という考え方はやめよう

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セブ島のハゼ(撮影:越智隆治)

“はぐれる=死亡”というイメージは捨てよう

「水中ではぐれたら残圧を確認し、周りを見渡し、1分間その場で留まって、バディやグループが見つからなければ水面にゆっくり浮上、浮上後に水面で浮いて仲間が浮上してくるのを待つ」

これは一般的に言われている水中ではぐれた場合の対処方法です。

ところがエアーが少なくなっても、少しくらい調子が悪くても、はぐれることを恐れてグループに必死でついて行くぞ!
と決心しながらブリーフィングを聞いている人が多くないですか?(^_^;)

死なないためのダイビングスキル、基本編の最後は、こちら。

“もし水中で異変があれば、安全な浮上速度で、水面へ回避する”

水面まで浮上ができて、水面で浮力を確保できれば、ダイバーが溺れることはないのです。
(連載1~3回を参照)

“はぐれる=死亡”というイメージは、人任せに潜っているからでしょう。

はぐれた以外に浮上すべき異常なケースといえば、例えば…。

  • 残圧が30気圧を切ったのにガイドやバディが気づいていない(伝わらない)
  • 水中で調子が悪い(息苦しい、体調が悪くなり始めた、器材が不調)

こんな時にはまず、バディやガイドのサインを送ります。
そして上記トラブルに対処できない、またはサインに気づかなくても水面に回避すべきです。

気が利かないバディやガイドと潜るとサインを出しても気づかないこともあります。
そのためにも、「音の出るシグナル器材」は浮上する前に鳴らすと有効です。

ところが、“サメがいたぞ”ププー、“カエルアンコウいたぞ”ププー、みたいに日常的に気楽にホーン等の音の出るサインを多用しているダイバーをよく見かけますが、こんな狼少年見たいなダイバーが多くて、音によるシグナルの効果が役に立たなくなってきているのは悲しき現実です。

水面へ浮上する際のポイント

水面に浮上するのを躊躇する理由にこんなことを言う人がいます。

「減圧停止が必要だったら、すぐには浮上できない」

この回答に「なるほど」と納得してはいけません。
そもそも減圧停止が必要なダイビングは、レジャーダイビングの領域を超えていると思ってください。

水中で「あら!コンピューターに減圧停止のサインが出ている。でも、減圧停止の時間を考慮しても空気が残っているから大丈夫」などと、お気軽に減圧停止すれば大丈夫だと思っているダイバーは、トラブルが起きても水面に浮上を躊躇するようになります。

減圧停止をするなら予備タンクなどの空気源や予備のマスクくらいの装備は持って潜ってほしいです。

安全停止はどうする?

はぐれた場合の処置で、浮上中に安全停止をするゆとりがあるなら、安全停止を行うべきでしょうが、ゆとりがないなら浮上したほうがより安全です。

もしそれによって減圧症になったとしても、重度の減圧症の発症の可能性は高くないはず。
それよりも無理して水中に留まっているほうが大きなリスクを伴います。

もう一つ大切な前提は、普段から減圧停止ぎりぎりの潜水をしないことです。
コンピューターのマニュアルにも「ゆとりを持ってプランを立てましょうと」とお約束のように記載されていますが、実はものすごく大切な安全への配慮なのです。

水面が荒れていたら

「もし浮上して水面が荒れていたら?」と心配もあるでしょう。
エントリーする際の波の状況しか考慮に入れない人が多いですが(インストラクターにも多い(-_-;))、実はエキジットする時間帯の海況予想もして潜るかどうかどうかを決めるべきです。

現地サービスや気象の知識が正しくついているプロなら、1~3時間後くらいの海の状況は予想できるはずです。
彼らにポイント説明をしっかり聞いてから、“ゆとり”を持って潜るかどうかの判断をしてください。

それでも急変する場合?

少しでも波が立つと、船の上からでも浮いているダイバーの頭を探すことは大変困難です。
ましてや、水面対水面ではかなり見つけるのは困難になります。

だから、シグナルフロートはダイバー必携器材なのです。

今年からPADIではOWのダイバー認定に、シグナルフロートを水面で上げるスキルが義務付けられました。
基準だからという理由だけではなく、初心者ダイバーでもシグナルフロートは水面へ回避するために必要な道具でありスキルでもあるのです。

死なないための考え方

  • 水面で浮いていられる
  • マスクが無くても呼吸が続けられる
  • 水中で呼吸のコントロール

今まで「死なないためのダイビングスキル」という大きなテーマで連載していきましたが、今回の「水面へ回避することを躊躇しない」というテーマは、スキルというよりは考え方なのです。

死なないためのスキルに大切なのは、自分のスキルを見つめて、“ひかえめ”に一つ一つの行動を判断することです。

これはアウトドアスポーツすべてに通じることであり、自分の身を守るためのスキルを身につけることは自分自身の責任であり、この責任と判断は他人に預けるべきではありません。

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PROFILE
九州は小倉に生まれ、法政大学アクアダイビングクラブでダイビングを始める。

学生時代からインストラクターになり、認定したダイバーは数千人、NAUI時代にコースディレクターとしてインストラクターも多数養成。

インストラクターの集まったNPO日本安全潜水教育協会(JCUE、ジェイキュー)会長、雑誌「月刊ダイバー」ではDUKEヤマナカとしてダイビングテクニックのアドバイザーなどなど、比較的スキルや安全のことに比重を置いて活動している。
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