ゲストがサンゴ礁にダメージを与えないように促す9つのポイント【ダイビング事業者必見】
ダイバーである私たちは、地球上で最も壮大な光景を間近で見ることができます。複雑な生態系、美しいもの(そして奇妙なもの)の住処、その光景はほとんどの人が実際に目にすることができない生物多様性の世界です。しかし、この特権には大きな責任が伴います。
サンゴ礁を見ることを目的とした観光は、世界100以上の国や地域から観光客を集めています。このような水中の景色をみることを目的とした観光需要が高まるにつれ、ダイビングに伴うサンゴ礁のような繊細な海洋生態系へのダメージの懸念も増えています。心配なことに、88%のダイバーがダイビング中に少なくとも一度はサンゴ礁に有害な接触をしているという調査結果が出ています。しかし、これらの損傷は通常、防ぐことができます。アンカーリングや不注意なフィンキック、お土産用に意図的にサンゴを割るなどの行為によって引き起こされることが多いのです。
このようにサンゴがダメージを受けると、気候変動など他のストレス要因に対する回復力が低下し、世界中のサンゴ礁の生存を脅かすことになります。サンゴ礁のない世界なんて、誰が想像できるでしょうか?
なぜ、ゲストを環境に最良な行動に導くことが重要なのでしょうか?
ダイビングのプロであるダイビング事業者の方は、サンゴ礁保護の最前線に立っています。つまり、ダイバーの水中での行動に良い影響を与えることができるのです。ゲストを教育し、管理することで、サンゴ礁へのダメージを防ぎ、一回のダイビングごとに着実にサンゴ礁とその他の海洋生物を保護することができます。
ダイビング前後のブリーフィングに加え、水中でゲストを正すことは、ゲストのダイビング能力の向上だけでなく、効果的に環境に関する最善の行動を教えることになり、水中でのダメージ軽減につながるという研究結果が出ています。
ここでは、ダイビング事業者の方々がダイバーの水中での行動を修正し、良い環境の模範となるよう手助けするために、注意すべき行動を紹介します。
※GREEN FINSがダイビング事業者向けに掲載した記事を転載していますが、事業者以外のダイバーの方も読んでいただくことで、サンゴ保全の理解を深め、できることを知ることに繋がります。
ゲストがサンゴ礁にダメージを与えないよう、修正するための9つのポイント
1. ダイバーが中性浮力をとれるようにサポートする
浮力をうまく取れているダイバーは、デリケートなサンゴや海洋環境に接触する可能性が非常に低くなります。もしサンゴや海洋環境がダメージを受けると、回復に長い時間がかかることがあります。ゲストが浮力コントロールを習得することで、環境にやさしいだけでなく、器材の保護やエア消費の効率化にもつながります。余分なウエイトを外し、ダイバーが「トリム」ポジション(水平でフィンを上げた状態)を維持できるようにすることで、よりコントロールしやすくなるのです。
毎回一本目のダイビングでウエイトチェックをすることで、最初から適切なウエイトで潜れるようになります。必要であれば、上級浮力コースの受講を勧めて、さらなる向上を目指しましょう。
2. すべての器材を固定する
多くのスキューバダイバーは、リーフに沿ってぶら下がる器材に気づかず、途中でサンゴや野生生物、住処にダメージを与えてしまうことがあります。そのため、ゲストが海に入る前のバディチェックでは、ゲストのダイビング器材をすべてしまっておくことが重要です。また、水中でもダイバーから目を離さず、ダイビング中に緩んだものを固定し直すなど、常に気を配るようにしましょう。
3. 砂を巻き上げないようにする
ダイビング中に砂を巻き上げることはよくあることで、これは通常、技術不足なフィンキックや不十分な浮力が原因です。しかし、これは避けることができます(そして避けるべきです!)。砂の巻き上げは視界が悪くなるだけでなく、海底の砂をかき混ぜると、ポリプに砂がかかってしまい、サンゴにダメージを与えることがあります。サンゴの種類によっては、窒息や成長速度の低下など、致命的な影響を与えることもあります。
砂の巻き上げによるダメージを避けるために、フロッグキックを水平に行い、フィンを立てて海底から離すことをゲストに教えてあげてください。
4. サンゴを踏まない
サンゴはとても壊れやすいので、踏んでしまうとサンゴが死んでしまう可能性が高くなります。成長が遅い種類では、わずかなダメージでも壊滅的な被害を受けることがあります。氷山の一角のように思えるかもしれませんが、その被害が毎年世界中の何百万人もの観光客となると…その被害の大きさはおわかりでしょう。
このような被害の軽減をするために、ゲストがサンゴを蹴ったり触ったりした時は、シュノーケリングでは水面と水平に、ダイビングでは中性浮力を保つように、ゲストに促しましょう。
5. 海洋生物に触れない、追いかけない、餌を与えない
ダイビングやシュノーケリングで生き物に遭遇したとき、ゲストが覚えておくべきいくつかの重要なルールがあります:それは「触らない」「追いかけない」「餌を与えない」です。海の生き物を追いかけたり、触ったりすると、大きなストレスやダメージを受ける可能性があります。ダイバーにはゆっくりと、敬意を払った距離から野生動物を楽しむように勧めてください。魚の餌付けは、生態系のバランスを崩し、自然に反する行動につながります。餌付けと一口に言っても、食べかす(果物の皮など)を海に捨てるなどの小さな行動から、サメに餌付けするアクティビティのような大きな行動まで、さまざまあります。
6. ノータッチ、ノーグローブ・ポリシーに従う
サンゴに触れると、傷ついたり、病気が蔓延したりする可能性があることは、もうお分かりでしょう。ダイビング中に刺されたり、切ったり、噛まれたりするリスクを減らすために、グローブを着用するダイバーもいますが、これは水中での怠慢な行動や無責任な行動につながってしまうことがあります。触ることへのハードルが低くなってしまうのです。また、グローブを着用していると、生命を脅かす毒のある海洋生物に触れてしまう可能性があり、ダイバーに誤った安心感を与えてしまいます。
しかし、手袋をしないで潜るダイバーは、通常より意識が高く、リーフや他の海洋生物に触れる可能性は低いです。そのため、ダイビングをする前に、グローブやノータッチのポリシーについてゲストに説明し、触りそうな手を動きをしているダイバーを見つけたら、水中で行動を正すことを忘れないようにしましょう!
7. 生死にかかわらず、海洋生物を採取しない
すべての海洋生物は、サンゴ礁が生きていくために必要な貴重な栄養分や物質を提供しています – 中身のない貝殻であってもです!観光客がお土産として海の物を採取すると、生態系のバランスが崩れ、サンゴ礁の健康状態にも影響します。「“とる”のは写真だけにして、何もせずに去る」という大切なモットーを、ゲストに再認識してもらいましょう。
8. 水中撮影に使用する強いライトやフラッシュは最小限に抑える
水中で写真を撮る人たちは、写真に鮮やかな色やコントラストを加えた完璧な写真を撮るためにストロボ照明を使うことがあります。しかし、強い光やフラッシュは海洋生物にストレスを与え、自然な行動を阻害し、生態系の健康状態に影響を与える可能性があります。
可能であれば、水中で撮影をする人たちには自然光を利用して写真を撮り、フラッシュやストロボの使用は控えめにすることを促しましょう。(例:フラッシュを使った写真は、ダイバー1人につき5枚まで)。水中で撮影する人たちのための環境に配慮した行動に関する注意点をゲストに共有しましょう。
9. 水中写真を撮影するゲストに後ろへ泳ぐフィンキックを指導する
水中で撮影するダイバーは、カメラを持たないダイバーに比べてサンゴ礁に大きなダメージを与えていることが調査により明らかになっています。これは、撮影者が完璧な写真を求めて、近づきすぎたり、体を安定させようとしたときに起こりがちです。この問題を解決するには、環境に配慮した写真撮影の方法を事前にしっかりと伝えておくことです。例えば、後方へ泳ぐフィンキックでダメージを与えないようにサンゴから離れる方法や、「完璧な写真」を撮るために海の生き物を動かしたりしないことなどです。また、ダイビング中は、撮影するゲストの器材や浮力調整などのサポートをしてあげましょう。
ゲストが環境に配慮した優秀な模範者になることを奨励する
ボートやダイビングのブリーフィングに環境に関するポイントを盛り込むことは、ダイバーの行動改善に役立つことが証明されています。さらに、水中で行動を正し、ダイビング後のブリーフィングでも訂正箇所について時間をかけて説明することで、ゲストがより深く理解し、次回のダイビングで改善できるようになり、環境保護の模範の一員になることができます!
元記事:GREEN FINS記事「Guiding Guests Towards Best Environmental Practice」
翻訳:Yuki Tanaka
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