夫婦で好きなことを仕事にすること、南の島へ移住すること
ダイビングボートに乗っていて、つい、じ~っと見入ってしまうことが何度もありました。
今回、ガイドをしていただいた山本大司潜水案内の山本さんご夫婦が会話をしている様子です。
そのあまりの仲の良さに、つい目がいってしまったのです。
夫婦でダイビングショップを経営している人は多いですが、奥さんが陸の担当であることも多く、たとえ一緒に船上で働いていても必要以上のことは話さない印象があります。
亭主関白の夫に内助の功の奥様のそれぞれが役割分担をしていて、それぞれがゲストの方を向いているイメージ。
よく言う、恋人同士はお互いを見つめ合い、夫婦は同じ方向を見つめて歩んでいくってあれなので、それはそれで理想的です。
しかし、山本さん夫婦の場合、操舵室に二人でいる様子を遠くから見ていると、冗談を言い合い、常に笑っています。
初期からの常連である吉田さんによれば、「目だけで会話していることもよくありますよ」とも。
結婚したことのない自分でも、長く付き合うと彼女と話すことは減ってくるというのに(だから結婚できないのか?)、24時間一緒にいて、なにをそんなに話すことがあるのだろう?とちょっと不思議。
12歳を筆頭に3人のお子さんがいてもなお、「大ちゃん」「モトコ」と呼び合うその仲の良い姿が新鮮で、興味本位で馴れ初めなどをしつこく聞いていると、思いがけず「南の島に移住」「好きなことを仕事にする」など、海が好きな人が憧れる生活について、いくつかヒントが見えてきたような気がしたので紹介します。
出会いはダイビングショップの先輩・後輩
まずは、二人の簡単な物語から。
23年前にひょんなことから誘われて、「島暮らしもいいかなー」と気軽な気持ちで宮古島にやってきて、とあるダイビングショップで働き始めた大司さん。
7年働いた後に独立し、裸一貫で店舗もない状態でガイド業を続けていたそうです。
やがて、「それならうちでも手伝って」と声をかけられた老舗ショップにいたのがモトコさん。
15年前のことでした。
一方、東京でOLをしていたモトコさん。
地元・大洗の海しか知らないモトコさんは、西表島での体験ダイビングで、「とんでもない透明度とサンゴ礁に感動」し、すぐに仕事にすることを決意。
当時、ダイビングガイドという仕事は、好きな海に潜れて、ゲストと楽しく話せて、「こんなに楽で楽しそうな仕事はない」と思ったそうです(笑)。
家の近くにあったダイビングショップを利用し、伊豆で50本ほどの経験を経て、OLを辞めてツテのあった宮古島の老舗ダイビングショップで働くことに。
昔ながらの老舗ダイビングショップでは、修行期間はタンクのチャージから、連夜のおとーり、陸上の雑務などなど、潜ることもままならず、同僚も逃げ出す中、3年目でも一番下っ端のまま。
そんな時に、「新人が入って来る」と聞かされ、やって来たのが大司さんでした。
「やっと私にも後輩ができる!」と喜んだモトコさんでしたが、やって来たのが、すでに経験豊富でガイドとしての腕を見込まれてやってきた年上の大司さんと知り、当時、角刈りでヒゲ面だったこともあり、「感じわるーい」が第一印象だったそうです。
ちなみに、大司さんのモトコさんに対する第一印象は「生意気なヤツ」。
その後、一緒に働いている期間中は、とにかく忙しかったこともあり、好きもへったくれもなかったそうですが、忙し過ぎてみんながテンパって自分のことで精いっぱいの中、大司さんだけが「ちゃんと食べてるか」とか「元気か」と声をかけてくれたそうです。
当時、宮古島で時代の最先端だったファミリーマートのサンドイッチを差し入れしてくれた時は「なんていい人だ!」と大感動したそうですが、それが大司さんの恋心だったのかどうかは大司さんのみぞ知ることです。
それにしても、サンドイッチで感動とは何というコスパのよさ。
やがて、大司さんが再び独立してから二人は接近。
まだ一番下っ端で、給料も雀の涙ほどだったモトコさん。
ガイドとしてバリバリ稼いでいた大司さんがゲストを連れて老舗ショップを利用することもあり、そうすると、「今日は○人のゲストだから、いくら稼いだなとわかるので、とにかくおいしいご飯が食べたくて、いつもたかっていました(笑)」
人生何が幸いするかわかりません。
サンドイッチで心惹かれて、おいしいご飯で急接近した二人は自然に付き合うようになっていきます。
いや、もちろん照れ隠しの理由でしょうけど(笑)。
やがて自然の成り行きで結婚することになり、結婚の報告で帰郷をした際に妊娠も発覚。
モトコさんは下積みを3年続け、やっと一人前として認められガイドデビューしたてだったこともあり、「繁忙期に戦力として数えられていたので、二人であちゃーと思い、ショップのオーナーに報告するのは、親に報告するより緊張しました(笑)」というのは今では良い思い出。
その後、山本大司潜水案内を立ち上げ、二人三脚でやってきて、今年で16年目を迎えています。
「好きなことを仕事に」も突き抜ければ大きな原動力
モトコさんの話を聞いて驚いたのが、出産を機に海から離れる女性も少なくない中、すべての出産後3ヶ月でガイド復帰していること。
お店が忙しいという事情かなと思いきやそうではありません。
「潜りたくて潜りたくてストレスで我慢できなくなっちゃって」
最初の1本で「これ仕事にする!」と即決するほどダイビングが好きなモトコさん。
「休みの日でも潜りにいきたいです」と言い、周囲のガイドたちも「あの人はダイビング好きだよね~」というほど海が好き。
家でも海の話をよくするそうです。
「好きなことを仕事にしたい」とガイドやイントラを目指す若者に、「好きなだけじゃ飯は食えない」「そんな甘いもんじゃない」とよく先輩たちは諭します。
それは経験に基づく真実でしょうが、「好きなことを仕事にできて、本当に幸せです」と目を輝かせるモトコさんを見ていると、好きなことがとてつもない原動力になることもまた真実だと思い出させてくれます。
「こんな楽そうな仕事はない」という印象から一転、厳しい下積み生活を送っていたモトコさんですが、「潜れることでリセットができた」ことは大きな強みになったはずです。
沖縄移住のポイントは“根をおろす”覚悟
“好きなことを仕事にしたい”、“沖縄で暮らしたい”という人は少なからずいますが、実現させるためにはどうしたらよいのでしょうか?
「二人とも若いこともあって割と軽い気持ちで宮古島に来ちゃっていますが、来たら来たで、根をおろす覚悟を持って、目の前のことを真剣に一生懸命やることの積み重ねじゃないかな」と大司さん。
「やっぱり、仕事をしっかり見つけることが大事だと思います。そこから生活の基礎となる交友関係ができる。沖縄暮らしに憧れてやってくる人は多いですが、仕事を頑張っていないと結局帰ることになっちゃう人も多いですからね」とモトコさん。
動機は何でも良いけれど、根をおろす覚悟としっかり働くことが南の島への移住のポイントということです。
やっぱり、シンプルに基本的なことが大事なんですね。
また、沖縄移住で気になる、島の人たちとの関係や子育て。
その辺、宮古島はどうなのでしょうか?
「沖縄というとないちゃー(本土の人)が肩身の狭い思いをするというイメージがありますが、宮古島は割とその辺りはオープンです。沖縄の中では割と都会で、ないちゃーがひっきりなしに行き交ってきたことも大きいかもしれません」と大司さん。
他のないちゃー出身のガイドたちに聞いても、「いろんな沖縄の離島で住んだことがありますが、宮古の人は外の人に優しいですよ」「沖縄のマイナス面の気質を表す時にヒジュルー(冷たい)なんて言うこともありますが、宮古の場合はガーズー(頑固)なんて言われていて、ちょっと他の沖縄と気質が違うのかもしれませんね」などなど、住みやすいと口をそろえます。
では、子育ての面ではどうでしょう?
「子供は宝で、おじい・おばあを大切にする文化ですから、根をおろせば、他人の子もみんなの子として扱ってくれるので『ちょっと見てて~』みたいなことができるので助かります。東京みたいな綺麗で衛生的な保育園とは程遠い、なかなかファンキーな託児所でしたが(笑)、皆の協力で子供たちは元気に育っています。今は上の子が下の子を見てくれるので安心して留守を任せられます」とガイドをしながら3人を育てているモトコさん。
「ダイビングガイドという職業で考えると、海外だと自分たちだけならいいんですけど、子育ての面ではちょっと不安。帰国するかどうかの話まで考えなくちゃいけない。そういう面では沖縄は日本ですから、根もおろしやすいですよね」と大司さん。
これからも夫婦でのんびり、こじんまりと
「夫婦で24時間一緒ってどういう感じですか?」と遠慮のないバカな質問をしてみると、「24時間一緒が当たり前ですからね~。普通です」という大司ですが、小さい声で「ま、かけがえのない存在です…」とボソッと。ひゅ~。
あえてデメリットを聞くと、「ガイドに身が入っていないと怒られます(笑)」。
一方、「家の喧嘩を引きずることはたまにありますね」とモトコさん。
全部のことを夫婦二人でやらなければいけないのは大変ではあるけれど、これからも夫婦でこじんまりとやっていきたいという山本夫婦。
「本当は下を育てて任せるといったことを考えなければいけないとも思うのですが、リピーターさんと共に自分たちも歳を取っちゃうのもいいかなと。年齢層も上がってきていますが、そうした落ち着いた雰囲気を大事に二人でやっていきたいですね」
宮古島に根をおろして23年。
やんちゃな子供たちに囲まれながら、今日も明日も二人で海に行き、船上で楽しそうに冗談を言い合っています。
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