宮古島ダイビング特集(2013.10)(第5回)

宮古島で一点ものの海の作品を作り続ける職人

クジラのテールのキーホルダー(撮影:越智隆治)

宮古島に台風23号が直撃か、というタイミングで取材に来てしまった。

当然の事ながら、台風の影響で潜る事ができないので、山本大司潜水案内の山本さんご夫妻に案内されて、Moby工房というお店を訪ねた。
ここは、貝や真鍮、海岸などに打ち上げられた木材などを使って、オリジナルアクセサリーや家具を手作りで作っているところ。

宮古島のMoby工房(撮影:越智隆治)

到着すると、沢山の木材が店の前に積み上げられていて、その横では、モビー工房店主の富夢(新島富)さんが、木素材を活かした椅子の作成をしていた。

山本さんが、「仙人」と呼んでいたその人の風貌は、一目で僕の写欲をかきたてた。
アーティストであり、職人。
何かを探求し続けてきた人に共通に存在する独特の雰囲気と存在感。

モビー工房店主の富夢(新島富)さん(撮影:越智隆治)

挨拶をするなり富夢さんが目をつけたのは、僕がしていたクジラのテールとフック、それに波の形を合わせたデザインの、マッコウクジラの歯でできたネックレス
先日訪れたケアンズでも、同じような彫り物をする人が、「それはどこで手に入れたんだ?素材は何なんだ?」と、突然声をかけてきた事を思い出した。

富夢さんにも同じ事を聞かれ、トンガでトンガ人アーティストに作ってもらい、もう6年もお守りみたいに、潜るときも寝るときも、肌身離さず身につけているものだと説明した。
飛行機の離発着時や、海に出る時には、このネックレスを無意識に触るのが癖になった。

その後も、トンガでいくつかのネックレスを手に入れたけど、結局この同じネックレスを6年間、身につけ続けている事も話した。

僕の説明を聞きながら、覗き込むように僕のネックレスを眺める富夢さん。
「コーティングはしてあるの?」という質問に「多分してないです」と答えると、「コーティングすると、削れないでもっと長く形が残っているものだよ。やっぱり生き物の一部だからね、海水に浸けてると、水分を含んでしまうから」と教えてくれた。
確かに、手に入れてから、ずっと身につけているうちに、このネックレスの周囲が、丸みを帯びて来ているのは分かっていた。

身につけずに家に保管している他のネックレスは、いまだに彫り込んだデザインがしっかり残っているけど、このネックレスの彫り込みは、擦れて、少し目立たなくなってきていた。

お店の外観からして、すでに僕の興味をそそるものが多数あるのだろうとは予想できた。
お店の外観を撮影して、皆から少し遅れて、店内に入った。
その途端、きっと、僕の眠そうな目は、キラキラと見開いていたに違いない。

店内には、貝、真鍮、木材のみならず、クジラの骨や歯などで作られたアクセサリー、しかも、相当に完成度の高い商品…、いや、作品が並んでいた。

「こ、これは、やばい!」
すでに、トンガでかなりの数のネックレスを購入して帰ってきたばかり。
なのに、ここでこんなものに出会ってしまった。

おそらく、トンガで購入していなかったら、迷わず購入してしまっていたであろう作品。
しかし、そんなに興味のない妻に「またこんなに買ってきて、どうするの?」と数日前に言われて、出て来たばかり…。

特に気になったのが、やはりマッコウクジラの歯で作られたテールのネックレス。
値段は数万円。

完成度の高さ、素材を考えると、決して高くは無い。
しかも、僕の大好きな、クジラのテール。

写真を撮影していても、自分自身相当にテールフェチだと思うくらい、テールに固執して撮影することが多いくらいにテールに魅力を感じる。

クジラのテールのネックレス(撮影:越智隆治)

自分にとっては、テールは、イルカやクジラの美しさ、力強さの象徴でもある。
15年以上、カメラを通して、このテールを追い求めて来た人生だったわけだから。
とは言っても、まだ15年ちょっとだけど。

トンガのクジラ(撮影:越智隆治)

「う〜ん、う〜ん」と頭の中で葛藤し続ける。「でも、ネックレスはもう買えないよな。う〜ん、う〜ん」。

と、ふと視線を移すと、黒い木の素材で作られた、テールのネックレスが目に付いた。
そのテールもかっこいい。
「これもかっこいいですね〜」。
すると、横にいた寺山君も「あ、ほんとだ、かっこいい、いくらくらいですか?」との質問に、「まあ〜、2000円か3000円くらいかな」との答え。
「え、そんなに安いんですか?」と再度訪ねると、「まあ、おれんじゃないし」と小声で答える富夢さん。
どうやら、フィリピンから来たお弟子さんみたいな人の作品らしい。

宮古島のMoby工房(撮影:越智隆治)

見た目もかっこいいし、値段も安いので、これはいいと思ったけど、個人的には、もし購入するなら富夢さんの作品をと思っていたので、そのネックレスは寺山君に譲った。

「やはりネックレスは、ダメだよな〜。よし、我慢、我慢」とまた見回していると、今度は真鍮のキーホルダーの中に、またしてもクジラのテールのデザインを見つけてしまった。
しかも相当にかっこいいし、テールの付け根部分には、しっかりと「TOM」の名前が彫られていた。

クジラのテールのキーホルダー(撮影:越智隆治)

「あかん、これはあかん!しかもネックレスじゃなくて、キーホルダー」
今まで押えてきていた、欲望が、ここで完全に抑制できなくなった。

結局、欲望に負けて購入し、お礼を言ってお店を出ようとすると「そのネックレス、もし時間があるなら、コーティングするよ」と突然富夢さんが言ってきた。
僕も即座に、「え、いいんですか?時間は十分あります。最低でも12日まではこちらにいますので」と即答していた。

ということで、6年間、マッサージのときに「外して下さい」と言われた以外に外した事の無かったネックレスが、初めて、僕の手、否、首から離れ、富夢さんに託されることになった。

モビー工房店主の富夢(新島富)さん(撮影:越智隆治)

楽しみだけど、でも、また自分にとっては、宝の山のようなお店を訪れる事を考えると、自分の欲望が押えられるのか、今から不安ではある。

僕がいつも身につけている、トンガの職人がつくったクジラのテールのネックレスは、こちらのDive Marketで販売しています。

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writer
PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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