串本の海が凄いと思う本当の理由~伊豆ダイバーが驚く、本州で唯一の亜熱帯の海~
関西ダイバーに人気の串本の海。
なぜ、それほどの支持を得ているのか考えてみた。
日帰りでも通える “亜熱帯”で“クセが強い”海
まず、最もよく知られる人気の理由からおさらい。
紀伊半島先端に位置する串本の海は、赤道直下から北上してくる世界最大級の暖流・黒潮の影響を色濃く受ける。
結果、温帯域の気候に属する日本にあって、海洋生物の分布からみた気候帯区分が、本州で唯一の亜熱帯なのだ。
もちろん、沖縄に行けば亜熱帯の海で潜れるが、大阪や名古屋など、都市部から日帰り圏内でアクセスできることがポイント。
僕が雑誌取材で潜っていた15年以上前に比べ、東回りも西回りも高速道路が伸び、大阪から3時間以内、名古屋からも4時間以内。
伊豆半島のおよそ倍の大きさの紀伊半島だが、東京から西伊豆に行くより、大阪から串本へ行く方が時間的には近いのだから驚きだ。
また、温帯と熱帯の特色を併せ持つのが串本の特色で、唯一無二の“生物のるつぼ”といった不思議な生物相を楽しめる。
千鳥のノブに言わせれば、「クセが強い」(笑)。
そんなところがダイバーを虜にするのかも。
撮るものに困らない
むしろ、レンズに悩む海
今回、初串本の越智カメラマン。
6日間潜ったここまでの感想を聞くと、「撮るものに困らないね」。
ボートダイビングがメインの串本だが、ポイントのバリエーションが豊富で、フィッシュウオッチングに最適な穏かな内海だけでなく、潮がガンガン当たる巨大根切り立つ外洋ポイントも充実している。
出る港にって異なるが、ポイントまでも割と近く(10~15分)、キンギョハナダイが爆発するワイドシーンや迫力の回遊魚も狙えてしまう。
「次、何狙いましょうかねー?」
「マクロ生物は一気にいっぱい押さえられちゃったから、回遊魚狙ってみますかね。でも、マクロじっくりと精度を上げていくのもいいかな。悩むなー」
被写体選びに困らず、レンズ選びに悩む海である。
「“通える亜熱帯の海”は、クセが強くて、ポイントのバリエーション豊富」
アクセスと海を軸に考えた時、串本の人気の理由はこんな感じだろうか。
フォトコンのレベルが高い
エリア全体としての成熟度を感じる
初撮影の越智カメラマンがしきりに参考にしていたのが、「串本海中フォトコンテスト」の過去受賞作品。
撮影の参考になる情報が詰まっているのはもちろん、通っているフォト派を超えなければいけないプロカメラマンの性がそうさせるにだろう……。
「国内で一番レベルが高いフォトコンじゃない?」という越智カメラマンだが、同感だ。
なぜ、レベルが高い作品が集まるのかを逆算して考えると、上記の“通える亜熱帯の海は、~”に戻るわけだが、関西ダイバーが写真を撮るためのベースを考えると、自然と串本になる。
伊豆のようにダイビングエリアやダイビングサービスも多いとダイバーもバラけるが、紀伊半島の場合、西側の大阪から近い海は都市型ショップが集まる海というイメージ。
黒潮の影響が色濃い、みなべ・田辺やすさみなど、他にも良いダイビングエリアもいくつかあるが、高速道路が延びたおかげで「串本まで行っちゃお」となっている気もする。
三重方面のダイビングエリアの成熟度は、串本ほど高くはない。
そして、何より受け入れ側のダイビングサービスがまとまっているのも大きいだろう。
いや、そりゃ個々にはいろいろあるのだろうが、目に見える形がちゃんと整っていることが大事。
そういう意味では、全25ものサービスが加盟するダイビング事業組合が機能し、漁業者と協調、行政と連携しバックアップを受けている環境は大きく、ダイビングエリア全体として、発信しよう、底上げしようという意思を感じる。
その結実が「串本ダイビング祭り」であり、そして、「串本海中フォトコンテスト」である。
応募点数が多くレベルが高いフォトコンはダイバーたちも励みになるし、レベルも年々上がっており、それが受け入れるお店、ガイドの切磋琢磨にもつながっているはずだ。
ガイドのレベルはオールマイティーに高いが、ビギナー専門、外洋メイン、潮だまりに強い、砂泥好き、深海を攻めるなど、ダイビングスタイルをセグメントして成り立つのもエリアとしての実力といえる。
こうした状況を生み出したのは、老舗ショップの存在が大きいのだと思う。
ダイビングエリアは漁業者との兼ね合いが大きいが、彼らが道を切り開き、難しい交渉もしたりして、ダイビング産業を町に根付かせた。
彼らのサービスやガイドのクオリティーが高く、横のつながりもがあることの影響もあって、それが標準となったのだろうか、どこのお店に行っても“共通の行き届いたサービス”を受けていると感じる(全店そうかは知らないですけどね……)。
また、周囲の若手も彼らに感謝をしつつも、それは決してガチガチのヒエラルキーではない横のつながりとなっていて、お店が増えるとバラバラになっていきがちなところを、ダイビングエリアとしての成熟につなげているように思われる。
自分なんかは、先日書いたように(レッドオーシャンのダイビングビジネス)、沖縄のようなカオスになって欲しくないとの思いもあり、ある程度、事業者の間口を絞ってもいいと考えたりもするのだが、どこまでもオープンマインド。
「規制するやり方はよくない。結局、ガイドの腕やサービスで淘汰されたり、生き残っていくお店が決まるんだよ」
そんなとある職人気質のガイドさんの言葉がかっこよかった。
たぶん、最も驚くのは伊豆ダイバー
ひとつの海を潜ることの大事さを思い出す
自分が「いや~、串本、本当におもしろい海だな~」としみじみ感じるのは、伊豆ダイバーだったからに他ならない。
関西ダイバーの「都市部から日帰りできるホームグラウンド」ということで、どうしても関東ダイバーのホームグラウンド・伊豆半島と比べてしまうのだが、伊豆でダイビングを始めた自分にとって、串本の海は「すべてが1.5割増し」に感じるのだ。
伊豆のダイビングスタイルでいうと、南方から流れて来る季節来遊魚の登場が楽しみのひとつだが、より黒潮の影響色濃い串本では、伊豆より種類も数も多いのでテンションが上がるわけだ。
ビーチメインの伊豆とは対照的に、手軽に回遊魚を狙えることも喜びのひとつ(お店にもよるけど)。
ただ、誤解して欲しくないのは、これはあくまで、自分のダイビングスタイルに伊豆の座標軸が染みこんでいるからであって、逆にいえば、串本を珍しい海だと見ているからだろう。
逆にいえば、串本でしか潜っていないダイバーやガイドは、こちらのテンションが上がるポイントにポカンとすることもある。
今回、越智カメラマンが最も気になったという魚はレンテンヤッコ。
実は僕も最初に潜ったころ、当時、伊豆諸島でしか見たことがなかったレンテンヤッコに驚いた。
また、バレーボール大のオオモンカエルアンコウに仰天したのだが、いずれも、あまりにも当たり前にいるので、串本のガイドさんにサラッと流された記憶がある(笑)。
このように、伊豆基準の自分、謎の世界基準(笑)の越智カメラマンなど、ダイビング経験によって見え方、感じ方はさまざま。
逆に、串本ダイバーが伊豆を潜ったら、例えばビーチダイビングの充実に驚いたりするかもしれないし、サクラダイの群れなど見たら仰天するのかもしれない。
つまり、自分が感じていることとは違う何かを1.5倍増しに感じるかもしれないのだ。
やはり、自分が潜ってホッとするのはホームグランドの伊豆のビーチポイントだし……。
窒素抜きの休日、久しぶりの串本ダイビングを振りかえり、ひとつの海を潜る意義を思い出すとともに、実は、伊豆をホームグラウンドにしているダイバーが串本を一番楽しめるかもしれない、なんて思ったりした。
実際、西伊豆の大瀬崎をホームグランドにしつつ、横浜からしょっちゅう串本に通っているリピーターと宿が一緒だったのだが、やはり「大瀬崎が大好きなんですが、串本は伊豆で見られない魚がたくさん見られるのがおもしろくて、しょっちゅう来ちゃいます」と、“伊豆メインときどき串本スタイル”の楽しさを話してくれた。
関東ダイバーの方、心の底から、ぜひ潜ってみてください。
紀伊半島・串本ダイビング特集(2016Autumn)(連載トップページへ)
- 紀伊半島最南端のダイビングエリア「串本」の魅力を現地からお届けします! ~思い出の詰まった海~
- 世界の海を潜る越智カメラマンが、串本初ダイビングで心奪われたのはメジナ玉の“魚圧”
- 狙って会えた回遊魚! 串本№1遭遇ポイント「島廻り」 ~カンパチの集め方は「どんだけ~」~
- ダイバーを利用した捕食シーンを目撃! 串本で潜ったら絶対に見たい“アザハタ劇場”
- バブルリングの世界記録達成! ワンフレームに16個を激写
- これを読めばバブルリングのすべてがわかる! ~ダイバーのためのバブルリング究極版~
- 宮古島と串本の「ランチが美味しい」と評判のダイビングサービスの意外な共通点とは?
- 越智カメラマンが最もテンション上がった串本のフォトジェニックシーン ~海の中のタタリ神!?~
- 串本の海が凄いと思う本当の理由~伊豆ダイバーが驚く、本州で唯一の亜熱帯の海~
- ダイバーに人気の南方系マクロ生物が、数本でこれだけ撮れました
- 沖の吉右衛門で深場のハナダイを狙え! ~串本変態ダイビング 前編~
- フィナーレを迎えた「アンドの鼻」で砂泥のハゼを狙え! ~串本変態ダイビング 後編~