2015トンガ・ホエールスイミング(第7回)

親子クジラと近くで泳ぐために必要なこと ~新米ガイド体験記・week2~

トンガホエールスイミング2015(撮影:稲生薫子)

昨日まではちょっと天候が悪く、風が少し強く吹いているババウですが、今日は爽やかな青空が広がっています。
今朝8月22日の早朝便でゲストが帰国したので、先週同様、ホテルの部屋から海を眺めながらこの記事を書いています。

今週は久しぶりに越智さんと船に乗れたので、ガイドを交代で担当しながらのホエールスイムとなり、いろいろと学ぶことができました。
中でも勉強になったのは親子クジラが人間に慣れるまでのガイドを担当させてもらえたこと。
そのことを後述したいと思います。

Week2はカップル二組が参加。
うち1組はハネムーンカップルで、モウヌ島に宿泊するために1日ホエールスイムはお休みしたものの、Week2も予定通り4日間船を出しました。

トンガホエールスイミング2015(撮影:稲生薫子)

1日目は、5頭のヒートラン、シンガー、ジュブナイルペア。

2日目は、3頭のザトウと10頭以上のコビレゴンドウの群れ、その後1頭乱入してザトウ4頭でのヒートラン、最後には親子とエスコ―トに遭遇。

3日目には、3頭のヒートラン後に1頭乱入して4頭の大迫力なヒートランを間近で見てから、止まっている親子とNorth bayでスイム。
最終日は、出港してから20分足らずでババウ中でその日初となる親子を発見して時間いっぱいまで泳ぎ、午後もNorth bayで別の止まっている親子と時間一杯泳ぐことができました。

ビギナーズラックにハネムーンマジックが重なったのか、3日目のホエールスイムをキャンセルしたハネムーンカップルともに、“グランドスラム達成”となった、最高の一週間となりました。

※グランドスラム(越智さんが名付けたもの)とは、1期間内に、親子、親子とエスコート、ペア、ヒートラン、シンガーの5パターンに遭遇したことを言います。

トンガホエールスイミング2015(撮影:稲生薫子)

中でも最終日の早朝に発見した親子について書いてみようと思います。

「クジラは基本的に臆病な生き物、だから親子と一緒に泳ぎたいなら人間に慣らさなくてはいけない」

このことは前から言われていたことなので、意識はしていたが、最終日の早朝にそれを実践できる場面がきた。

最終日は普段より少し早い、7:30にNeiafuを出港した。

前日止まっている親子と泳いだNorth bayへは同じ会社の別の船がすでにクジラを探しに出ていると無線が入っていたので、外洋に出てクジラを探す予定だったが、外洋に出る手前、Tongashikaあたりでクジラを発見したので確認すると、ゆったりと泳ぐ親子だった。

1隻が親子と泳げる時間は1時間半と決まっているが、一番に見つけた船に優先権があるので、この日の優先権は私たちの乗船していたストライカー。

ただ、優先権があると言っても、一番に発見したので、クジラはまだ人間に慣れていない状態。
一緒に泳ぐためには、クジラに人間という存在に慣れてもらわなくてはならなかった。

その際、何よりも優先すべきは、クジラを驚かさないこと、むやみに近づかないこと。
最初のアプローチを失敗すると、驚いて逃げて行ってしまうことは大いにあり得るからだ。

一番はじめだけは船のオーナーであり、この日共に乗船していたアルが一緒に入水したが、2回目のアプローチからは私がガイドとして入らせてもらった。
ここでクジラを逃がしてしまうことは避けなければいけなかったので、個体識別をするためにも、母親の側面を双方向から急いで撮影した。

トンガホエールスイミング2015(撮影:稲生薫子)

その後は撮影をするのをやめて、母親と子供を観察した。
子供はかなり臆病で、母親の後ろに常に隠れていて、こちらからはあまり姿が確認できなかった。

息継ぎのために数回水面に上がって行ったが、その時も私たちからは離れた場所に上がって、母親の後ろ側にまた戻って行った。
この時、距離にしておよそ15m弱だったが、母親の警戒心はかなり強く、子供を連れて移動してしまった。

同じことを数回繰り返し、4回目の入水くらいの時。

やっと10mくらいまで近づけるようになったが、子供はまだ警戒していてなかなかこちらには寄ってこなかった。
顔をあげると船で見守っていてくれた越智さんが「もう少し近づける?」と言っているのが聞こえてきたので、7mくらいまでゆっくり近づいてみた。
もちろん、母親の目をみてゆっくりゆっくり近づいた。

近寄ってみて分かったのだが、母親はほとんど目をつぶっていた。
心の中で「こんにちは~、近づいていいですか~」などと思いながら近づいて行くと、母親の目がパチッと開いて目が合った。

ちょっとドキッとしたが、ドキッとしたのはどうやらむこうのようで、エンジンを入れ急発進した車のごとく、テールを2~3回びゅんびゅんと動かすと急発進して斜め下、水深の深いところへ潜っていってしまった。

目を開けたときに得体のしれない生物(人間)がいたのに驚いたのか、それとも近づきすぎてしまったのかわからないが、とにかく相当ビックリしていた様子で、なんと子供を置き去りにして去ってしまったのだ(笑)

不意打ちのようにして急発進した母親を見て、「え、え、ママどうしたの?ちょっと待って~!」と言った感じで子クジラは慌てて追いかけていった。

数秒後、100mくらい先で母親が特大ブリーチをして見せた。
「あまり驚かさないでね、逃げちゃうわよ」と言われているようだった。

その後も徐々に徐々に、距離を縮めた。

最終的には、母親は子供に危害を加えるような生物ではないと認識してくれたのか、かなり近寄れるように慣らすことができた。
“しょうがないから一緒にいてもいいわよ”と受け入れてもらえたようで嬉しかった。

母親が安心すると、子クジラの警戒心も取れ、息継ぎをする時に、こちらの様子を見に近づいてくるようになった。
じっとこちらを見つめて、何者かを観察しているようだ。

トンガホエールスイミング2015(撮影:稲生薫子)

やっと親子と近づいて遊べるようになったところで、私たちの持ち時間が終了してしまった。

これからという時に時間が来てしまうのは正直悔しかったけど、ゲストが「近くで見れた」と言ってくれたとことは嬉しかったし、何より、「クジラって本当に急に近づいちゃダメなんですね、どんどん慣れていくのが見ていてわかりました」と言ってもらえ、人間に慣れていく姿を見て親子クジラを理解してもらえたことが嬉しかった。

個体によっては慣れずに逃げてしまったり、最初っから警戒心の薄い母親もいるので、100%今回のことが正しいわけではないし、アプローチ法のマニュアルがあるわけでもない。
越智さんもこればっかりは感覚的なことだから説明はできないと言う。

だた、クジラの目を見ていると「それ以上は近寄らないで」とか「あなただぁれ?」とか「別に近寄っても私たち平気よ」などと言っているような気がした。

そして“やはり嫌がっているかな”と思う母親に近づこうとすると、決まって、それ以上は来ないでと嫌がる素ぶりをしてみせた。

トンガホエールスイミング2015(撮影:稲生薫子)

それ以上近づかないでと手を広げた母クジラ


そのことに関して、「人間だって、ベビーカーに乗っている自分の子供に、得体のしれないカメラを抱えた人が突如近づいてきて写真撮りまくっていたら、警戒して、うちの子に近づかないでよって言って逃げるでしょ?」と越智さんもよく言う。
そりゃそうだ(笑)

その日一番はじめに親子を見つけた船が泳ぐためには、そのクジラを慣れさせなくては行けなく、その船と、慣れた最高の状態で譲ってもらえる次の船の持ち時間が一緒なのは正直どうなんだろう、最初の船にはもう少し時間をあげても良いのでは、と思ったりもしたけれど、とにかく「クジラを慣れさせる」という経験は、その日一番はじめに親子を見つけないと出来ない経験なので、今回はその機会に巡り合えて、また任せてもらえて勉強になったし、自信にも繋がった。

現地ガイドのアルは、「もうブリーチさせないでね」と笑っていたが、「今回のルコのガイドはパーフェクトだった。まぁeasyなクジラだったけどね」と、褒めているんだかどうなんだか不思議なコメントをくれた。

この日の午後は、私たちの乗船するストライカーのスキッパーであったローのお兄さんのアリが見つけた親子が、North bayで泳げているというので、アリの次に泳いでいたマレスキングから譲ってもらって一緒に泳いだが、朝のことがあったから「ここまで慣らしてくれてありがとう」と、いつもよりも感謝してクジラと泳いだ。

トンガホエールスイミング2015(撮影:稲生薫子)

ババウには今、ホエールスイムのライセンスを所持している会社が17社あるが、中には、自分でクジラをあまり探さず、朝から無線を傍受して良いクジラと泳げている船に頼ってクジラと泳ぐ会社もある。

ゲストのためにも譲ってもらうことは決して悪いことではないと思うし、確かに“目一杯効率よく泳げる”という意味では良いかもしれないが、ここ2週間で感じているのは、自分でブローやブリーチを見つけた時の喜びだったりする。

越智さんも自分で探すタイプなので、船を頼んでいる会社もそういう会社で、今まで会ったスキッパーもそういう人ばかりだった。
まぁ自分はまだ目が慣れていないので、見つけるのは下手くそだけど。

レストランや町ですれ違うスキッパーやガイドに「Hi,RUKO! How was your today?」と声をかけてもらえたり、やっと少しコミュニケーションも取れるようになってきて、船にいるのも陸にいるのも少しずつではあるが緊張しなくなってきた。

来週はどんなクジラに逢えるのか、楽しみでもあり、不安もあり。
しかしながら、一つでも多くのことを吸収したいという気持ちは、先週より強くなっている気がする。

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writer
PROFILE
成蹊大学文学部国際文化学科卒業。
ナレーター、司会、ダイビング・モデルとして、TV、雑誌、モーターショー、トークショーなどで活躍。宝くじのキャンペーンガール「幸運の女神」では、46都道府県を旅する。

2013年からは、大物運・海況運をつかさどる「海の女神」へと転身し、舞台を海に変えてオーシャナの突撃体験レポートを担当。
潜水士資格も取得し、2014年は伊豆大島復興観光大使「ミス椿の女王」として、伊豆大島をはじめとした被災地復興支援活動にも尽力する。

「ダイビングがきっかけで、物の見方も感じ方も生き方も180度変わり、自分の周りまでもキラキラ輝き出したことを実感。 
いろんなことを体験しながら、たくさんの“きっかけ”を届けていきたいです」

【経歴】
・第25期 日本テレビイベントコンパニオン
・第11~12期 スバルスターズ
・第33期 宝くじ「幸運の女神」
・第23代 ミス椿の女王(2014.2~)
・第29代「ミス熱海・桜娘」(2016.1~)
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