2015トンガ・ホエールスイミング(第14回)

およそ2カ月でクジラに会えなかったのは1日だけ ~2015年のトンガ・ホエールスイミングが終了~

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

week7初日の月曜日は、week6から残った2名を乗せて海に出る。
2人にとっては最終日。
「シンガーが見たい」とのリクエストだったので、シングルの個体でもチェックでエントリーしたりしながら捜索を続けた。

最初に遭遇したのは、ペアとそれに絡む2頭のクジラ。
ヒートランだけど、すでに勝者は決まっていて、そのペアにちょっかいを出しに来るオスたちって感じ。

メスはゆったり泳ぎ、時には僕らを振り返るように優雅に泳ぐ中、オスの方は後方から忍び寄る別のオスに、バックしながら、バブルカーテンを出し、テールで身体をはたくみたいな行動を見せた。

後半には、砂地でゆったり泳ぎ、まるでバハマのホワイトサンドリッジで泳いでいるような気分になった。
とはいっても、砂地の水深は30mくらいだったけど。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

帰路、他のボートがシンガーと泳いでいるとの連絡を受けて、そちらに向かう。
そちらの船のスキッパーからの情報では、水深6mくらいで止まって歌っているとのこと。

だいたい、潜れない人が、クジラのいる水深を5mとか、10mとかって感じてる場合って、実際にはその2倍から3倍深い場合が多い。
これは12年間の経験からはっきり言えることだ。

だから、「多分、良くて10mから15mくらいにいるんだと思います」と伝えてエントリー。
案の定、最初は20mくらい。
歌いながら徐々に上がってはくるものの、せいぜい15mくらいまでだった。

透明度の悪い海域ではあったけど、それくらい上がってきてくれれば十分近くにシンガーを感じながら、歌を聴くことができた。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

その翌日、火曜日からは、week7のメンバーとのホエールスイミング。
この週は3隻船を出して、岡田くん、ルコちゃん、自分がガイドとして乗船。

しかし、トンガでの最終グループは、初日から自分が12年トンガに来て以来経験したことのないくらいの激しい土砂降りの悪天候に加えて、自分が信頼するスキッパー2人を欠く。
という非常事態からスタート。

スキッパーのローが病気で入院、もう一名のスキッパーのナティは、操船するボートが、土砂降りが影響で動かなくなり、その修理のために場合によっては、4日間とも海には出れない可能性もあると初日の朝に告げられた。

「まじか!」まるで、勝敗のかかった重要な最終戦を、両エースストライカー欠場の状態で試合に挑む。
そんな気分だった。
同時に、頭の中では、この状況をどう打開するかを瞬時に考えていた。

とにかく、替えのボートを探す。
頭に浮かんだ何隻かの船とスキッパーへ、この状況を説明して、海に出てもらえるのかどうか。
他の人に全てチャーターされてしまっていたら、当然その時点でお終い。

しかしラッキーなことに、何度か乗船したことがある船が空いているという。
しかも、トンガ人で一番最初に、ババウでのホエールスイミングを始めたノサの弟のローリーがスキッパー。
彼とも何度か一緒に海に出たことがある。
スパーサブと呼ぶに相応しい腕の持ち主でもある。

その船に乗船して、通常より3時間遅い出港。

そんな状況ながら、8頭か9頭のヒートランに遭遇。

しかし、やはり良いクジラが少ないらしく、通常は2隻くらいでシェアするヒートランを、この日は4隻でローテーションしながらのエントリーだったので、タイミング良く浅い海域で落としてもらい、クジラたちと泳ぐことができた。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

2日目の水曜日は、4人乗りの船に乗船。
この日もなかなか良いクジラが見つかっていないなか、Hunga島の外洋で6頭のヒートランを発見。

しかも、かなりの勢いで、Hunga島に移動していたので、何回か入水しながら、群れが島に接近して、浅いリーフを泳ぎ続けるコースを取るように船を誘導してもらった。

その作戦は上手くいったのだけど、驚いたのは、集まってきた船の数。

相当この日も良いくじらがいなかったらしく、なんと6隻のボートがシェアをする状況に。
こう船が多いと、ベストのポイントでタイミング良く落としてもらわないと、1回のドロップが無駄になってしまう。

自分たちが発見したヒートランなのだから、せめてゲストにはベストの条件で見てもらわなくてはいけないし、見れていない船にもチャンスをあげなければいけない。

スキッパーに、「とにかく、シェアはしょうがないけど、ここと、ここと、ここ、あとここは、落とすポイントとして絶対キープしてね」と伝えて、毎回その位置近くで待機。
海底の地形を把握しているからできる作戦を取った。

運良くローテーションがそのポイントでピッタリにはまってくれたので、おそらく何隻もヒートランにアプローチしている中では、一番良い状況でクジラを見せれたのではないかと思う。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

面白かったのは、最優先権のあるオスが、メスの尾びれの下の位置にぴったりとくっついてガード。
他のオスには、絶対交尾させない! という意気込みをひしひしと感じて笑ってしまった。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

3日目の木曜日は、ローの弟のアリがスキッパーで海に出る。
彼とは初めて一緒に仕事をしたのだけど、普段からローとの無線のやり取りを聞いていて、トンガ語ではあるけど、スキッパーとしてしっかりしている印象はあったので信頼はしていた。

この日は、最初にコビレゴンドウの群れと泳ぎ、その後は泳げている親子の順番待ちしている間に、別の親子を見つけてエントリー。
しかし、透明度が悪い海域で、まだ警戒心が強いし、母クジラが少し深い水深で休んでいるので見つけづらい。
それでも、どうにか慣らして、見せられるようにできる可能性はある個体だった。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

しかし、そこで自分たちの順番が回って来たので、そちらは、その日、まだ泳げていなかった岡田君に譲り、順番待ちしていた方の親子と泳ぐ。

何隻も順番待ちするくらい落ち着いた親子で、しかも母クジラの休んでいる水深が間違いなく10m〜5m程度と浅く、水面に上がってきても、しばらくとどまっていてくれるので、じっくり撮影することができた。
正面に回り込んでもまったく気にしない感じだった。
撮影はできなかったけど、授乳シーンも目撃することができた。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

ここで、日本でスペシャルトリップの説明会の後の懇親会で行ったジャンケン大会で勝って、クジラとの記念写真撮影権を獲得した成島さんとクジラを撮影。
約束を果たした。

ochi-tonga-20150930-9

最終日の金曜日。

この日は、復活したナティと海に出る。
すでに、先に出た同じ会社の船が親子とエスコートを見つけて泳いでいるというのでそちらに向かい、周辺でクジラを探しながら順番を待つことになった。
しかし、止まってはいないようだった。

しばらくして、シェアしてくれることになった。

親子とエスコート、多分昨日ルコちゃんが泳いでいた親子16ではないかと推測していたのだが、海中で確認すると、まさしく親子16だった。この親子は、9月1日に自分がナティと一緒に確認していたから、23日も経って再度確認されたことになる。
これは数年間リサーチしている中では、結構珍しいことだ。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

9月1日に撮影した親子16。子クジラはまだ小さくて可愛かった

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

9月25日に撮影した親子16。子クジラは、かなり太っていて、元気に成長しいた。ちなみに一番手前が子クジラ

海中で確認しても、9月1日に確認したときと明らかに泳ぎの癖が同じだった。

「これは、うまくすれば止められる」そう思ったので、「なるべく無理に近づかないように」とみなに告げて、ナティと二人で相談しながらアプローチを行った。

前回も、島に近づき、浅いリーフに行くと止まったので、どうにか泳いでいく方向にある島の浅瀬に誘導するように船を走らせた。
もちろん、エスコートもついているし、確証は無いのだけど、このスローな泳ぎで、エスコートは母クジラに受け入れられているようだし、可能性は十分にあった。

移動している間に、トリプルブリーチングなどを見せてくれたりしていた。

しかし、とにかく止まらせたかった。
移動しているときに、前にドロップしてもらい、好奇心の強い子クジラに寄っていこうとするゲストに、「なるべく刺激しないでみて」と伝えたりしながら、浅いリーフへと移動。
明らかに、泳ぎのペースが緩やかになった。

シェアする前のボートが、最後にエントリーし、僕らの番になった。

そのときに、自分がチェックするタミングで、わざと真正面に回り込み、そこで激しく向かっていかないで、浮いてまっているように迎えてみた。
親子とエスコートは底の見える海底にゆっくりと潜行し、そこで止まった。

(やった、予想どうり!)そう思い、皆を迎え入れて、止まっている親子とエスコートを堪能した。
子クジラは、お腹がかなり大きくなっていて、お母さんのおっぱいを沢山飲んで、順調に成長していることが伺えた。

しかも、以前よりも、近づいても母親も気にしないし、エスコートもそれほど警戒する様子も無い。

シェアしていた船は、さっきの一回で終わりにすると言っていたのに、止まったのを見たら、無線でナティに、「泳がせろ」と言ってきた。それは構わないのだけど、子クジラは何度か浮上したけど、母クジラがまだ浮上していないのに交代しろと主張してきたので、さすがにそれには、水面から「NO!」と答えた。

ここで、せっかく止めて皆にじっくり見せられるのに、なんで母クジラが沈んでいるタイミングで交代しなければいけないのか、母クジラと子クジラ、エスコートが3頭一緒に浮上してくる最高のタイミングは、ゲストに見せてあげなくてはいけない。

そう思っていたときに、母子とエスコートがゆっくり浮上してきて、水面で止まってくれた。
かなり近寄っても逃げる様子もなく、良い感じだった。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

しばらくして、母子とエスコートはほぼ動くことなく、同じ場所に潜行した。

そこで、向こうの船と交代し、また浮上してきたら交代するとにした。

そのひと泳ぎで向こうの船は引き上げたので、後はしばらくこちらが一隻で泳ぐことになったが、その後、またしばらくは止まらなくなったが、また時間をかけて、止まるように慣らすことができて、じっくり親子とエスコートが浮いているところを見せてあげることができた。

これが、week7、いや、今年の自分のホエールスイムの最終日のクジラだった。

止まらないクジラに慣れてもらい、止めることができたときほど嬉しいことはない。
それが最後に皆に経験してもらえて嬉しかった。

途中、浅瀬に近づいていたときには、泳ぎ去る親子とエスコートを見送りながら、皆が一斉に「追っていいの? 止まった方がいいの?」という顔をマスク越しに向けてきたので、ちょっと待ってのポーズを取ると、ほとんど皆が止まって指示に従ってくれたりしていた。

今年は、7週間を通して、ホエールスイム初経験の人が多く、親子には優しくアプローチして、向かっていかないようにして欲しいと告げていた。
その説明を守り、優しく親子を見守ってくれる人が多かったから、今年は過去12年間で一番止まっている親子が多く、じっくり皆にみてもらうことができた。

week7は、クジラの個体数が減っていたり、エーススキッパーを欠くなど色々トラブルの連続だったけど、その穴を埋めるスーパーサブの活躍や、皆がしっかり指示に従ってくれたりなどしたので、苦しい中でも良いクジラたちと泳ぐことができた。

結果、7週間いて、自分が泳げなかった日はweek3の1日だけだった。

トンガホエールスイミング(撮影:越智隆治)

いろいろトラブルやハプニングのあった最終週、最後までハラハラドキドキでしたが、参加して頂いた皆様。
本当にありがとうございました。
また来年もトンガでのホーエルスイムを開催します。

募集期間は、

week1 2016年8月6日(土曜日)出発〜8月14日(日曜日)帰国(乗船4日間)
week2 2016年8月13日(土曜日)出発〜8月21日(日曜日)帰国(乗船4日間)
week3 2016年8月20日(土曜日)出発〜8月28日(日曜日)帰国(乗船4日間)
week4 2016年8月27日(土曜日)出発〜9月4日(日曜日)帰国(乗船4日間)
week5 2016年9月3日(土曜日)出発〜9月11日(日曜日)帰国(乗船4日間)
week6 2016年9月10日(土曜日)出発〜9月18日(日曜日)帰国(乗船4日間)
week7 2016年9月17日(土曜日)出発〜9月25日(日曜日)帰国(乗船4日間)

を予定しています。お問い合わせください。

■問い合わせ
tour@oceana.ne.jp

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writer
PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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