沖縄離島のダイビング旅2017(第3回)

神秘的なサンゴの産卵を2年連続で目撃 ~大規模な白化を乗り越えて~

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高水温による白化現象を乗り越えたサンゴは
産卵してくれるのか?

弱々しく照らした水中ライトの光が、ミドリイシ系サンゴの中から湧き出てくる無数の丸いバンドル(精子と浮力を持つ卵が包み込まれたもの)を、暗闇の中で浮かび上がらせる。バンドルは、緩やかな流れに乗って、ゆっくり、ゆっくりと暗い海中に広がっていく。

海底から見上げると、海の中にいながらにして、まるで満天の星を見上げているような、いや、満天の星の中に自分が溶け込んでしまったような、不思議な感覚にとらわれる。「神秘的」としか言いようのない光景。新たな生命の誕生は、何度見ても感動する。

昨年に続き、今年もダイビングチームうなりざき石垣店では、サンゴの産卵を取材テーマの一つとして撮影を行った。
しかし、石垣島と西表島の間に広がる日本最大のサンゴ礁、石西礁湖では、昨年夏、長期の高水温が続き、同海域の約90%のサンゴが白化。その後一部回復したものの、70%が死滅してしまったと考えられている。

無事に産卵を行ってくれるのかという不安もあった。

昨年、産卵を取材した竹富島北のポイントでは、白化の影響で、産卵を狙うミドリイシ系のサンゴが少なくなっていた。そこで、ポイントをさらに西へ移動した「ミツイシ」という、比較的白化の影響を受けなかったエリアに変更して、産卵のリサーチを行っていた。

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可能性がある限り、産卵のリサーチを続けた
うなりざきのリサーチチーム

多くのミドリイシ系のサンゴは、満月の3日前から7日後の間に産卵することがわかっている。つまり、約10日間潜り続ければ、確実?に産卵は見られるはずだけど、日によって大規模に産卵したり、いくつかのサンゴの群体が小規模に産卵を行ったりする。

つまり、狙って潜っても、それぞれのサンゴの群体が産卵をしない日もあれば、すでに終わってしまっている場合もあったりで、タイミング良く産卵が見られない場合もある。規模はともかく、1日だけ潜って、産卵が見られただけでも、ラッキーではあるのだ。

うなりざきのサンゴ産卵リサーチチームの曾我勲さんと高梨太志さんは、まだ産卵の兆候が見られる前から、1週間以上そのポイントに潜り続けた。つまり、産卵が行われる可能性のある「満月の3日前から7日後」の間潜り続けたわけだ。

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取材チームも、うなりざきでの取材期間の4日間、満月の3日前から、毎日潜り続けることになった。しかし結果的には、6日間潜ることになったのだが……。

毎日、午後6時30分過ぎに出港、リサーチポイントに到着する頃には夕日が落ちて、徐々に周囲が暗くなっていく。

サンゴの群体によって産卵する日や時間が微妙に違うことも、リサーチでわかっていた。そのため、到着してしばらくすると、産卵するタイミングより少し前に潜って、サンゴ群体がすでにバンドルを抱えていないかどうかを一つ一つ確認しながら目星をつけていく。

しかし、いざ産卵をする時間になったとしても、撮影に満足できるくらい大規模に行わなかったり、産卵のタイミングが微妙にズレたりと、なかなか難しい。

毎日、サンゴの産卵を求めて、夜の海にエントリー

毎日、サンゴの産卵を求めて、夜の海にエントリー

最初の2日間は、ほとんど何の兆候も見られずに終わった。それでも、海から撤収して、お店に戻って来るのは深夜近く。
翌日には、朝から日中のダイビングを続けるため、曾我さんも高梨さんも、取材チームも、まともに食事を取る時間もなく、毎日コンビニで弁当を買って船に乗り込んでいた。

産卵の兆候が見られない日は、ブダイなどの撮影を行った

産卵の兆候が見られない日は、ブダイなどの撮影を行った

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レモンウミウシ

レモンウミウシ

ゾウリエビなどの甲殻類もよく見られた

ゾウリエビなどの甲殻類もよく見られた

今回、この取材チームには、NHKの撮影クルーと、「サンゴの産卵が見られるまで船に乗り続ける」と言って乗船していたゲスト1名が加わり、計8名が参加していた。

潜り始めて、産卵の兆候があったのは3日目のこと。ミドリイシ系サンゴより少し早い時間帯に産卵をするハナガタサンゴや、少数ではあるけど、ミドリイシ系のサンゴ群体が、産卵を行った。
しかし、撮影という意味では納得できない。当然NHKも僕たちもその後も産卵狙いで潜り続けた。

曾我さんを撮影するNHK取材班

曾我さんを撮影するNHK取材班

僕らが潜る最終日の4日目、曾我さんと高梨さんがバンドルを持ったサンゴの横に目印の指示棒を置いておき、産卵スタート時間10分前にエントリーしてサンゴの産卵を待った。しかし、この日も産卵はしたものの、納得できる結果ではなかった。

バンドルを抱えていないか、チェックする曾我さん

バンドルを抱えていないか、チェックする曾我さん

同じく、チェックする高梨さん

同じく、チェックする高梨さん

神秘的! 感動的なサンゴの産卵シーンを
2年連続で目撃

翌日からは、ネイチャー石垣島ダイビングサービスでの取材が始まる。しかし、ネイチャー石垣島のオーナー、多羅尾拓也さんに無理なお願いをして、取材後6時30分の出発に間に合うように送迎をしてもらい、産卵を狙った。

そして5日目。どうにか無事、多くのミドリイシ系サンゴたちが産卵を行ったため、NHKはこの日で取材を終了することになった。
自分もハナガタサンゴがたくさんのバンドルを放出し、神秘的かつ感動的なシーンを撮影できた。
しかし、自分自身、撮影に納得がいかず、もう1日潜るお願いをした。スケジュールを考えたら、この日を最後にすればいいはずだった。

産卵を開始した、ナハガタサンゴ

産卵を開始した、ハナガタサンゴ

火山の噴火のようにバンドルを放出するハナガタサンゴ

火山の噴火のようにバンドルを放出するハナガタサンゴ

念願のミドリイシ系サンゴの産卵シーン

念願のミドリイシ系サンゴの産卵シーン

なぜ、そこまでサンゴの産卵シーン撮影にこだわるのか?

ここまで産卵にこだわるのは理由がある。

昨年の取材で、かなりのミドリイシ系サンゴが産卵をした翌日、まったく産卵の兆候があるサンゴが見つけられず、実際産卵を目撃できなかったので、これで終わりだろうと撮影を終了。久しぶりに夜、美味いビールを飲んでいた。

しかし! その日もリサーチで海に出ていた曾我さんから、「今日もやりそうですけど、どうします? なんなら迎えに行きますけど」と連絡をもらった。が、時すでに遅く、アルコールが入っていたので、諦めたのだ。

その後、帰ってきた曾我さんに、「今日は大爆発でしたよ!」とうれしそうに言われてしまった……。これが、大きな後悔としてあったのである。

※2016年の記事はこちら

はっきり言えば悔しかった。
一応サンゴの産卵は撮影できていたものの、まだ石垣島にいて、産卵を狙えたにもかかわらず、そのチャンスを放棄してしまったことへの後悔を、翌年まで引きずっていた。

「今年こそ、大爆発のその場にいたい」

その思いから、不完全燃焼のまま、石垣島を後にすることは、どうしてもできなかった。

結果、ギリギリ潜れる6日目の夜も、ライターのルコちゃんは陸に残ってもらい、自分だけリサーチ船に乗り込んだ。

どうか爆発してくれますように。

その思いが届いたのか、自分でも確認できるくらい、たくさんのサンゴがバンドルを抱えていた。そして、昨日よりも多くのミドリイシ系サンゴが産卵を行って、ピークが微妙にずれるサンゴとサンゴの間を激しく移動して撮影を行い続けた。

あちこちで、ミドリイシ系サンゴが産卵を行った

あちこちで、ミドリイシ系サンゴが産卵を行った

一番多くのバンドルを放出していた、テーブル状のミドリイシサンゴ

一番多くのバンドルを放出していた、テーブル状のミドリイシサンゴ

多くのサンゴ群体から放出された無数のバンドルが、海中に広がり、神秘的な光景を見せてくれた。

昨年のリベンジは果たせた。
曾我さんのFacebookにも、「今日はミドリイシサンゴが爆発な日」とのコメントと一緒に、見事な産卵シーンの写真がアップされた。満足しながら、翌日の飛行機で自分の写真展を行っている名古屋へと移動。

これで思い残すことはないな。

また外した! ……サンゴの“大”産卵シーン

そう思った翌日、名古屋の写真展会場で曾我さんのFacebookをチェックすると、なんとそこに書かれていたのは……

「ただいまー( ̄▽ ̄)ノ
今日で7夜目の産卵ショー
今夜は産卵大爆発でした!!‼( ̄▽ ̄)ノ
 
いたる所でミドリイシが産卵し
そこらじゅうバンドルだらけになりました(≧▽≦)
が、今日は取材もなく、ゲストもおらず
スタッフT志と2人で出てますた。
 
なんだかなー、プレッシャーがない方が
良い結果が出るって・・・・
本番に弱いみたいぢゃないか!!( ̄☐ ̄)ノ」

このコメントとともに、バンドルを大放出するミドリイシ系サンゴの写真と動画が……。爆発!ではなくて「大」爆発……。
しかも、本番に弱いみたいぢゃないか、と書いてる割には、絵文字がうれしさを物語っている。少なくとも僕にはそう感じられた。

物理的に潜れない状況ではあったものの、またもや「大」爆発を逃してしまった。
正直なところ、曾我さんのFacebookは見たくなかった。そんな思いを胸にしまい込み、複雑な気持ちで「いいね」をクリックした。
そして、ゲストからの書き込みへの返信に

「YES!! 〇ーシャナさんと〇HK沖縄さんに足向けて
寝られないっス!!(-▽-;)」

と、うれしそうに書き込んでいる曾我さんのコメントを見て、「いい歳して、絵文字を使うな絵文字を! ちきしょ~、来年こそは!!」と、心の中でツッコミを入れたのでした。

曾我さんが、「大爆発」の日に撮影したサンゴの産卵

曾我さんが、「大爆発」の日に撮影したサンゴの産卵

■今後のサンゴの産卵予想スケジュール
サンゴの産卵は、種類によって産卵の時期が違う。そのため、今年もまだまだ産卵を見るチャンスはあるそうだ。石垣島での、今年の今後のサンゴ産卵予想は、以下。
——————————
6月7日~6月17日(満月:6月9日)
ミドリイシ、ハナガタサンゴ、キッカサンゴ、ウスコモンサンゴ

7月10日~7月16日(満月:7月9日)
ハナガタサンゴ、ウスコモンサンゴ、キッカサンゴ、ノウサンゴ

8月9日~8月15日(満月:8月8日)
アザミサンゴ、キクメイシ、ノリコモンサンゴ、リュウモンサンゴ、ソフトコーラル、ハナガササンゴ
——————————

うなりざき石垣店では、ゲスト一人からでも、ナイトダイビングを行う方針なので、当然、サンゴの産卵狙いでも一人だけでも船を出してくれるとのこと。もし、どうしてもサンゴの産卵、「大」爆発が見たいと思ったら、是非、うなりざき石垣店にお問い合わせください。

■supported by「ダイビングチーム うなりざき石垣店

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ビギナーからベテランまで、石垣島でのダイビングを満喫させてくれる、元気いっぱいのスタッフがお出迎え。2艇のダイビングボートを駆使してダイビングが楽しめるので、ポイント選択の幅も広い。サンゴの産卵データも準備しているので、自分に克てる(お酒<サンゴ)という方は、ぜひナイトダイビングまでリクエストを!

沖縄県石垣市浜崎町3丁目2-1-102
TEL. 0980-88-6644 FAX. 0980-87-0145
E-mail:info-ishigaki@unarizaki.com
URL:http://www.unarizaki.com/ishigaki

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writer
PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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