サンゴ礁を科学する(第21回)

サンゴに住み込む生き物たち ~健康なサンゴ群体“Coral Holobiont”~

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私の住んでいる沖縄本島ではサンゴの産卵シーズン真っ只中です。
5月31日を皮切りにほぼ毎日のようにあちこちからサンゴの産卵の情報が入ってきています。

まだ産卵が確認されていないエリアもあるため、いつでも潜れるように情報交換をしながら毎晩そわそわと待機しています。

ミドリイシの多くの種類で、産卵の1〜2時間ほど前にはサンゴのポリプが盛り上がって、バンドル(卵と精子の入ったカプセル)が透けて見える状態になります。

サンゴに住み込む生き物(提供:座安)

透けて見えるピンク色の粒が産卵前にセットされたバンドル

バンドルの確認のためサンゴを見ていると、実に様々な生き物が見えてきます。

小魚やサンゴガニ、ヤドカリ、ヒラムシ、クモヒトデ、貝などなど……サンゴを食べたり、隠れ家として利用したり、サンゴ群体間を移動する生き物たちは、私たちが普通にサンゴの上を泳いでいるだけでも目に入ってきます。

サンゴに住み込む生き物(提供:座安)

サンゴの隙間からこちらを威嚇しているオオアカホシサンゴガニ

サンゴによく目を凝らしてみると、サンゴ骨格に自分自身が埋まりこんでサンゴ群体間をほとんど移動しないで住んでいる生き物たちも見えてきます。

サンゴフジツボやサンゴヤドリガニ、イバラカンザシやその他ゴカイなどがその例です。

サンゴに住み込む生き物(提供:座安)

サンゴの群体間をほぼ移動しないで生活する生き物たち。a)瑠璃色が美しいルリツボムシ。フジツボの仲間。b)アシビロサンゴヤドリガニ。体のサイズに合った凹み(巣)に入っている。c)色とりどりのイバラカンザシ。ゴカイの仲間

さらに、もっと小さなレベルでサンゴ内部に住み込んでいる生物たちは、近年、科学的にも注目されています。

サンゴの健康を考える上で、刺胞動物であるサンゴのみについて考えるのではなく、「Coral holobiont」という捉え方が主流になってきているからです。

Holobiontという単語にはうまい日本語訳がまだないようですが「Holo 全体、多くのものを含む」、「Biont 生き物」という意味で、健康なサンゴ群体を構成するサンゴ(刺胞動物)、褐虫藻(藻類)、バクテリアなどを含む集合体全体のことを一つの単位として指します。

サンゴが受け取る多くの光合成産物はサンゴ内部に共生している褐虫藻が作っていますが、わずかながらもその他の微生物やシアノバクテリアからの産物も利用していることが明らかになってきています。

また、通常は見ることがないサンゴの骨格にもendolithic algae(骨格内にすむ藻類やシアノバクテリア)やendolithic sponge(海綿の仲間)がすんでいます。

サンゴ礁は明るくキラキラと太陽光が降り注ぐイメージがありますが、骨格内というのは太陽光のわずか5%以下の光エネルギーしか届かない暗い環境で、この藻類はこのわずかな光を利用しています。

サンゴに住み込む生き物(提供:座安)

サンゴ断面。Endolithic algaeがいる部分は骨格が緑色に見える(赤い矢印)。Australian museumウェブサイトより引用

いろいろなレベルで生き物が複雑に住み込むことができるサンゴ。
生物多様性の基盤といわれる理由の一つです。

美しい割には一般にあまり注目されていない生き物や、その生き物がいることでサンゴ側へのメリット、デメリットなど基礎的な関係性や生態などがきちんと明らかにされていない生き物もまだまだいます。

サンゴをじっくり眺める機会があれば、ぜひ彼らのことも観察してみてくださいね。

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writer
PROFILE
沖縄出身の父に連れられ海に通い、水中にいることが大好きで、中高は水泳部。

大学入学と同時に始めたスキューバダイビングに夢中になり、海中世界を知って欲しいとダイビング雑誌で読者モデルをする傍ら、キラキラした南国の海で、いつも中心にいるサンゴという生物に強く惹かれていく。

大学院は京都大学理学研究科に進学し、サンゴについて学び始める。
英領バミューダにあるバミューダ海洋研究所に留学後、2013年度、京都大学瀬戸臨海実験所にて博士号取得。

現在は沖縄科学技術大学院大学でサンゴの研究に取組んでいる。
趣味でも仕事でもよく潜る。
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