サンゴは何にストレスを感じているのか?白化とストレスの関係
真夏の射すような強い日差し、雲ひとつない晴天に、毎日べた凪!というのは、ダイビングには最高のコンディションですが、台風が来ないことによる海の生き物への悪影響があるなんて考えた事がありますか?
今回は静岡大学でサンゴにかかる様々なストレスについて研究されている樋口富彦博士にお話を伺いました。
Q.サンゴにとってどのような事がストレスとなりますか?
サンゴ礁生態系の存続を脅かす重大な要因として、 高水温にともなう大規模白化現象や二酸化炭素濃度の上昇、サンゴの病気やオニヒトデなどの有害動物、沿岸域の開発や化学汚染などが世界的な機関によって、特に取り上げられています。
中でも広範囲での死滅に繋がる白化現象は大きな問題となっています。
Q.サンゴの白化について教えて下さい
白化は、サンゴが共生藻を失う、または共生藻の色が薄くなることで、半透明のサンゴ組織を通して、白い骨格が透けて見える現象です。
高水温が主な原因と考えられています。
Q.共生藻とは何ですか?
サンゴは、体内に褐虫藻と呼ばれる直径0.01ミリメートル程度の小さな藻(共生藻)をたくさん住まわせており、サンゴは体内の共生藻の光合成によって多くのエネルギーを得ていると考えられます。
健康なサンゴだと1平方センチメートルあたり数十万から数百万の褐虫藻が住んでいます。
Q.白化の原因は高水温だけですか?
高水温の他にも、低水温・強光・紫外線・低塩分などが原因とされています。
例えば、和歌山、静岡など温帯地域に生息するサンゴは高水温よりむしろ冬の低水温で白化します。
また、最近の研究では、高水温と栄養塩(肥料などに含まれる硝酸など)の流入による複合ストレスが、高水温単一のストレスよりも白化を促進することが報告されています。
私自身の研究では、常温ではそれほど白化に影響しないバクテリア(0.001ミリメートル程度の細菌)が、高水温下で白化を加速的に進行させることが明らかになりました。
Q.サンゴは白化すると死んでしまうのですか?
サンゴは白化してもすぐに死ぬわけではありません。
しかし、白化した状態が長く続くと、サンゴは共生藻からの光合成産物を受け取ることができないため、最終的には死んでしまいます。
種類にもよりますが、サンゴはエネルギーの80~90%を褐虫藻の光合成産物に頼っているとも言われています。
一方で、例えば、高水温で白化してしまったサンゴの場合、海水温が戻れば回復できることが多いです。
沖縄では、夏場はなかなか海水温が下がらないのですが、台風の接近は海水温を下げる最も大きなイベントになります。
夏場の台風は、高水温に弱いサンゴにとっては欠かせない存在であり、台風の少ない年には、サンゴの白化が起こる可能性が高くなります。
しかし、勢力が強すぎる台風はサンゴそのものを引きはがして壊してしまうので、サンゴにとって悪影響があることもお忘れなく。
白化してから何日くらいなら生きられる、回復できるというのは、白化の程度や白化する過程にも関連するので一概には言えません。
しかし、数か月高水温の状態が続くと、サンゴ礁は壊滅的なダメージを受けてしまいます。
また、栄養塩の負荷など複合ストレスを受けて白化したサンゴは、海水温が下がっても、白化から回復しにくいという実験結果も出てきています。
Q.サンゴはストレスに対する防御機能を持っていますか?
私たちは、サンゴの白化もストレスに対する防御機能の一つだと考えています。
例えば、サンゴが高水温や強光に晒されると、共生する褐虫藻は活性酸素という物質を通常より多く作るようになります。
過剰な活性酸素はサンゴのDNAやタンパク質を壊してしまうので、ストレス下では、褐虫藻自体がサンゴにとって危険な存在となってしまいます。
そこで、サンゴは褐虫藻を体内から減らす(白化する)ことで、活性酸素からのダメージを抑え、生存を確保しているのではないかと考えられています。
これがサンゴの白化による一時的なストレス回避です。
他にも、サンゴのストレスと防御機能について共同研究者とまとめた文章が公開されていますので、興味をお持ちの方はこちらを読んでみてください。
◆造礁性サンゴ類のストレスと防御機能 ―生理・遺伝子・生態の視点から―
著者:樋口富彦・湯山育子・中村 崇
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrs/16/1/16_47/_pdf
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