サンゴ礁を科学する(第12回)

魚は犬以上の嗅覚を持つ!? 体臭で敵を欺くサンゴ礁に棲む魚の擬態

提供:座安

敵から身を守るために擬態している生き物や、獲物を仕留めるために擬態している生き物。

サンゴ礁には色々な方法で生き物が隠れて棲んでいます。

海の生き物の擬態といえば、通常は見た目を周辺の環境や生き物に似せているのを思い浮かべることでしょう。

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見事に岩に擬態して小魚を狙うオニダルマオコゼ

しかし魚たちは、目だけに頼って狩りをしているのではありません。

サメの嗅覚は非常に発達していて、ごく少量の血の臭いもかぎ分けるという話や、サケが、生まれた川の水の匂いを記憶していて戻ってくることができるという仮説も有名です。

実は、あまり知られていないですが、ほとんどの種類の魚は非常に良い鼻を持っています。

嗅覚感度はヒトの1億倍、つまり鼻の良さはなんと犬に並ぶレベルとも言われています。

魚たちは敵や獲物の場所や種類まで、匂いで分かってしまうそうです。

私たちが魚をよく見たくて気づかれないようにそーっと近づいたつもりでも、魚たちにはとっくにばれている訳ですね(驚かさないように近づける気はしますが)。

これに関連した研究結果が、オーストラリアの研究チームから昨年末に発表されていましたのでご紹介したいと思います。

サンゴ食の魚は、その体臭までサンゴとそっくりで、それが敵の鼻を欺いているということが明らかになりました。

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トノサマダイもサンゴをよく食べます。サンゴ食の魚はチョウチョウオの仲間やカンムリブダイなども知られています

調べられたのは、枝状サンゴの間をちょこちょこと泳いでいる姿が可愛らしいテングカワハギ。

カラフルで目立っていますが、これは彼らが専門に食べているミドリイシサンゴの枝とそのポリプに擬態しているそうです。

異なる種類のサンゴを餌として与えられたテングカワハギの姿を隠し、糞などの影響もないように別々の水槽に入れて、水の匂いだけを頼りに、テングカワハギの捕食者であるハタや、サンゴの枝の間に棲むサンゴガニがどういう行動をとるかが比較されています。

食べるものと魚の匂いが似る直接のメカニズムはまだわかっていませんが、食べるものに含まれるアミノ酸と魚の体表の粘液に含まれるアミノ酸が似ることが確認されているそうです。

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テングカワハギ。おちょぼ口でミドリイシのポリプを食べます

同じような化学物質による匂いの擬態は、昆虫など外骨格を作る無脊椎動物で知られていましたが、脊椎動物では初めての発見です。

私たちの想像以上に、多くの、特定の食べ物のみを食べる動物がこの方法で身を守っているのではないかと予測されています。

もちろんサンゴしか食べないという特徴にはデメリットもあります。

白化やオニヒトデの食害でサンゴがなくなってしまったエリアからは、サンゴ食の魚はもちろん、サンゴを隠れ家にしている生き物も、食べるものや安全な家を失っていなくなり、それらの生物を獲物とする大きな魚たちも激減する事が世界中のサンゴ礁で確認されています。

カラフルなサンゴ礁の世界は、私たちの目を楽しませてくれますが、実は生死がかかったシビアな生存戦略の結果であると言えますね。

参考:Brooker et al. 2014 ‘You are what you eat: diet-induced chemical crypsos in a coral-feeding reef fish’ Proceeding of the Royal Society B

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writer
PROFILE
沖縄出身の父に連れられ海に通い、水中にいることが大好きで、中高は水泳部。

大学入学と同時に始めたスキューバダイビングに夢中になり、海中世界を知って欲しいとダイビング雑誌で読者モデルをする傍ら、キラキラした南国の海で、いつも中心にいるサンゴという生物に強く惹かれていく。

大学院は京都大学理学研究科に進学し、サンゴについて学び始める。
英領バミューダにあるバミューダ海洋研究所に留学後、2013年度、京都大学瀬戸臨海実験所にて博士号取得。

現在は沖縄科学技術大学院大学でサンゴの研究に取組んでいる。
趣味でも仕事でもよく潜る。