サンゴ礁を科学する(第18回)

マイクロプラスチックから海を守ろう! ~海の生き物と微小ゴミの問題~

この記事は約4分で読めます。

「マイクロプラスチック」という言葉を聞いたことがありますか?

自然界に散らばってしまったミリ単位〜それ以下の微小なプラスチック類のことで、特に海洋環境において問題視されています。

先日、マイクロプラスチックを実験的にサンゴに与えたところ、誤飲してしまうことが確認されたという内容の論文が、海洋生物学分野の科学誌で発表され、SNSでシェアされたりニュースになったりと大きな注目を集めていました。

サンゴ礁連載用(提供:座安佑奈)

図1.プラスチック片を誤飲したサンゴの断面図と取り出されたマイクロプラスチック。黒い線の長さは100μm = 0.1mmを表す。論文情報:Microplastic ingestion by scleractinian corals. NM Hall et al. (2015) Marine Biology

これまでも海に漂うビニール袋を、ウミガメが餌のクラゲと間違えて大量摂取して消化不良で死んでしまったり、イルカが海に漂うゴミで遊んでいる最中にゴミを誤飲してしまったりすることが報告されてきました。

さらにペットボトルの蓋やプラスチック片を食べて死んだ海鳥、ゴミに絡まって死んでしまったアシカなどの痛ましい画像に心を痛めたことのある方も多いと思います。

この大きなゴミの問題に比べれば、マイクロプラスチックは目に見えにくく、生物や人への影響に関する研究も、認識度合いも遅れています。

そんな小さな、しかも大量のプラスチックごみをどうやって回収することが可能でしょうか?

また、先のサンゴでの実験結果に加え、これまでにゴカイやイガイの仲間でのマイクロプラスチックの誤飲も確認されており、多くの小さな生き物たちの口に入ってしまうサイズであること、それにより他の生物の餌になるような小さな生き物たちの全体量が減ってしまうようなことがあれば……と考えると微小なゴミの悪影響は非常に大きいでしょう。

マイクロプラスチックの発生原因は複数ありますが、その一つが、当然ですが大きめのゴミが太陽光にさらされもろくなり波の影響で細かくなることです。

こちらはゴミが自然界で分解されるまでの期間を図に表したものです。
簡単に想像がつかないくらい長い時間が必要ですね。

サンゴ礁連載用(提供:座安佑奈)

図2.海ゴミが分解されるまでにかかる時間。青い人のイラストは平均的な人の寿命を表している。NOAAサイトより引用

サンゴ礁連載用(提供:座安佑奈)

図3.海ゴミが分解されるまでにかかる時間。青い人のイラストは平均的な人の寿命を表している。NOAAサイトより引用

何世代も先まで消えることなく残ってしまうゴミ。
このままゴミが増え続けたらいつか世界中のビーチがこんな風になる日もやってくるでしょう。
それが片付けられることなくマイクロプラスチックになったら……

サンゴ礁連載用(提供:座安佑奈)

図4.モルディブの観光産業の裏で問題になっている「ゴミの島」の様子。Caters News Agencyより引用

怖い話ばかり書きましたが、私たちにはまだそれを防ぐこともできます!

無駄なゴミがでないように生活することが一番の対策ですが、正しい廃棄処理のため、世界各地でビーチクリーンや町の清掃活動が行われています。

海が遠い地域の方でも大丈夫、海ゴミの約7割はもともと陸に捨てられたゴミが川を経由して流れ込んだものとの事です。

決まった時間にイベントへの参加が難しい人でも大丈夫、自分の都合のいい時に目の前のゴミを拾ってゴミ箱へ入れるだけでもいいのです。
それがペットボトルの蓋一つだったとしても、ぜひ想像してみてください。
その一手間で何万個分のマイクロプラスチックが防げたかを。

また海ゴミの場合、硬いフジツボの殻が付着していたり、よく分からないゴミが落ちていたりするので、個人的には軍手か火ばさみの使用をお勧めします。

苦い思い出ですが、素手で何気なく拾ったプラスチック容器が使用済み浣腸容器だった事があり、それが長い年月海を漂ってきただろうという事を頭で分かっていても、納得するまで手を洗うのに少し時間がかかってしまったことがあります……。

他にも海外から流れ着いたゴミや、昔流行っていたポケベルの一部など思いがけないゴミとの出会いの他、美しい貝殻やイカの甲、見たことのない種子、何かの骨、歯など見ていて面白いものもありますし、自分のできる範囲で一生続けていきたいことの一つです。

何より気持ちがいいのでおすすめですよ。

注)タイヤやバッテリーのような簡単に捨てられないゴミ、団体で大量に集める場合、ゴミの処理方法や処理料金が必要かどうかは自治体によって違うので各市町村に事前に問合わせされることをお勧めします。

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writer
PROFILE
沖縄出身の父に連れられ海に通い、水中にいることが大好きで、中高は水泳部。

大学入学と同時に始めたスキューバダイビングに夢中になり、海中世界を知って欲しいとダイビング雑誌で読者モデルをする傍ら、キラキラした南国の海で、いつも中心にいるサンゴという生物に強く惹かれていく。

大学院は京都大学理学研究科に進学し、サンゴについて学び始める。
英領バミューダにあるバミューダ海洋研究所に留学後、2013年度、京都大学瀬戸臨海実験所にて博士号取得。

現在は沖縄科学技術大学院大学でサンゴの研究に取組んでいる。
趣味でも仕事でもよく潜る。
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