サンゴ礁を科学する(第16回)

まるで宇宙の星屑のようなサンゴの一斉産卵

桜の開花予想も発表され、春が、そして夏本番が待ち遠しいですね!

ちょっと気が早いですが、サクラ前線の後は、そう、サンゴの産卵前線がやってきます。

産卵前線という単語はもちろんないのですが、そう呼びたいくらい楽しみにしています。

サンゴの産卵は非常に神秘的で、サンゴの生活の中でも最も動物らしい一面を感じられる一大イベントです。
心待ちにされている方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?

「夏の満月の夜、サンゴが一斉に卵を産む」という話は、水中に漂うピンク色の粒が、まるで宇宙の星屑のように美しい映像や写真とともに有名ですが、実際はそうシンプルではありません。

そもそも、夜にピンク色の卵を産むサンゴばかりではなく、いろいろな増え方をしています。
しかし、今回は一斉産卵とその後について見ていきたいと思います。

オーストラリアのグレートバリアリーフでは、満月の数日後に100種以上のサンゴが一斉に産卵するそうですが、そのように同調して産卵が起こる地域の方が稀なようです。

日本でのミドリイシの産卵シーズンは大まかに4~5月に八重山諸島、5月に慶良間諸島、5~6月前半に沖縄本島、7~8月に高知県、和歌山県などというように、サクラ前線と同じく、北上していきます。

満月の夜に産むとは限らず、年によって産卵日が前後し、正確に予測することは困難といえるでしょう。

サンゴの産卵

前夜に放出された大量の卵が水面に浮いてピンク色の帯(スリックと呼ばれる)に見える

意外なことに、こんなに大きな現象にもかかわらず、ミドリイシの一斉産卵が知られるようになってから、まだたった30年ほどしか経っておらず、科学的にも多くの謎が残されていて世界中で研究が進められています。

そもそもどんな要因が引き金となって産卵が同調するのかも、水温、月齢、月の光、日没からの時間、潮位、それらの組合せ……など諸説あり、単純ではありません。

何年も続けて観察されていらっしゃる現地ダイビングサービスさんもありますから、問い合わせてから旅を計画されると良いかもしれません。

それでも自然が相手ですし、状況によってずれてしまうこともあるのでちょっとしたギャンブルではありますが、その分見られた時の感動はひとしおでしょう。

サンゴの産卵

各ポリプの口の部分にピンク色の放出直前のバンドルが見える

放出されて浮いていくピンク色の粒はバンドルと呼ばれ、中にはいくつかの卵だけではなく精子も入っています。

卵には脂質が多く含まれて水に浮くため、水面まで上がってからバンドルが崩れて、別のサンゴ群体から出された卵、精子と受精する仕組みです。

サンゴの赤ちゃんプラヌラ幼生

サンゴの赤ちゃんプラヌラ幼生

水面で受精した卵は2~3日かけてプラヌラ幼生になり泳ぎ始めます。

サンゴも一生のうちには泳ぐ時期があるんです。
泳ぐといってもクネクネしたり、派手な動きをしたりするわけではありませんが、体の周りに生えている繊毛を使ってくるくると回りながら進みます。

観察していると、形は写真のようにウリのように伸びてダッシュしてみたり、まぁるくなって止まってみたりして、探索しているように見えます。

産卵から7~10日後、海流に乗って運ばれたり、そうやって泳ぎながら徘徊したりしながら、好きな場所を見つけると、何かにくっついて骨格を作り始め、その後は一生そこで暮らします。

初期ポリプと断面イラスト

初期ポリプと断面イラスト

ポリプの数が増え、群体全体も成長して、やがて産卵できるまでになります。

ゆっくりと時間のかかった産卵に向けてのカウントダウンは、サンゴの中でもう始まっているはずです。

ぜひ一度は海の中で見てくださいね!

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writer
PROFILE
沖縄出身の父に連れられ海に通い、水中にいることが大好きで、中高は水泳部。

大学入学と同時に始めたスキューバダイビングに夢中になり、海中世界を知って欲しいとダイビング雑誌で読者モデルをする傍ら、キラキラした南国の海で、いつも中心にいるサンゴという生物に強く惹かれていく。

大学院は京都大学理学研究科に進学し、サンゴについて学び始める。
英領バミューダにあるバミューダ海洋研究所に留学後、2013年度、京都大学瀬戸臨海実験所にて博士号取得。

現在は沖縄科学技術大学院大学でサンゴの研究に取組んでいる。
趣味でも仕事でもよく潜る。
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