サンゴ礁を科学する(第13回)

サンゴ分類のルネサンス期!? ~大西洋に浮かぶバミューダのサンゴ礁~

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サンゴ(提供:座安佑奈)

海は繋がっているとはいえ、日本近海やインド太平洋と大西洋の生き物は同じか考えてみたことがありますか?

大西洋のサンゴが見てみたい!
太平洋のサンゴについて学ぶほどにその想いは強くなっていきました。
なぜ大西洋か? と言いますと……。

サンゴの分類はこれまで骨格の形態に基づいて分けられてきました。
それがこの10〜20年程の間に、遺伝子の塩基配列に基づいて、どのように進化してきたのか調べた結果、骨格形態に基づく分類と大きく違うことが明らかになりました。

この数年間に、サンゴの分類は大きく変更され、サンゴ分類学のルネサンス期と呼ぶ人もいるくらいです。

この大改変の発端となったのが、太平洋のサンゴと大西洋のサンゴの多くが、“収斂(しゅうれん)進化”をしてきたことが遺伝子を調べた結果、明らかになったからでした。

収斂進化とは、別のグループの生物が進化の結果、似たような形を持っていることで、海の生物ではサメ(軟骨魚類)とイルカ(哺乳類)や、タラバガニ(ヤドカリの仲間)とカニの仲間などが有名な例です。

サンゴの分類学は200年以上の歴史がありますから、そんなに長く分類学者たちの目を欺いてきた大西洋のサンゴの姿を、ぜひ見てみたいと思っていたところ、大西洋に浮かぶ小さな島バミューダ(英領)に行ける機会をいただき、2年前に行ってきました。

バミューダといえば、多くの船や飛行機が行方不明になったという「魔の海域、バミューダトライアングル」の名で有名ですが、実際には、水色の海にピンク色の砂浜にパステルカラーの街並みがよく映えるリゾート地でした。

サンゴ(提供:座安佑奈)

ピンク色の砂の正体は、砂に含まれる貝殻(ピンク色)や石灰藻(赤色)のかけらでした

伝説と思っていたバミューダトライアングルの話は、海流と地理的な影響でこの海域に巨大なハリケーンが発生、集まりやすく、小さな島の周りに今も100隻以上の沈船が眠っているので、作り話ではありませんでした。

サンゴ(提供:座安佑奈)

沈んだ船体にもサンゴがびっしり

さて、肝心のバミューダのサンゴ礁は、26種のサンゴが場所によってはかなり高い被度で生息していました。

随分、種数が少ないように感じますが、一般的にサンゴはインド太平洋には約500種、地球の歴史上、新しくできた大西洋には約65種ほどであることが知られています。

バミューダには、私たちがサンゴと聞いてイメージする枝状のミドリイシサンゴの仲間は分布していません。

強いハリケーンの影響で吹き飛ばされてしまう形状のサンゴは育つ事ができないそうです。

サンゴ(提供:座安佑奈)

バミューダの海中風景。塊状のサンゴと枝状のソフトコーラルが目立つ

見たかった収斂進化のサンゴも容易に見ることができました。
例えばこちら。

サンゴ(提供:座安佑奈)

左)太平洋産、右)大西洋産 以前は両方ともキクメイシ科に分類されていたが、形態が似ているだけで遺伝的に異なるグループであることが明らかになり2012年に別の科に変更された

皆さんも好きな生物、植物があれば各地でよく見比べてみてくださいね、きっと楽しいと思いますよ。

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writer
PROFILE
沖縄出身の父に連れられ海に通い、水中にいることが大好きで、中高は水泳部。

大学入学と同時に始めたスキューバダイビングに夢中になり、海中世界を知って欲しいとダイビング雑誌で読者モデルをする傍ら、キラキラした南国の海で、いつも中心にいるサンゴという生物に強く惹かれていく。

大学院は京都大学理学研究科に進学し、サンゴについて学び始める。
英領バミューダにあるバミューダ海洋研究所に留学後、2013年度、京都大学瀬戸臨海実験所にて博士号取得。

現在は沖縄科学技術大学院大学でサンゴの研究に取組んでいる。
趣味でも仕事でもよく潜る。
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