一斉産卵だけじゃない!? サンゴの産卵いろいろ
前回のコラムでは有名な「サンゴの一斉産卵」について書かせていただききました。
でも、実は、造礁サンゴの中でこのようにはっきりと産卵様式が報告されているのは全体の種のたったの3割ほど。
他の多くの種の繁殖様式については観察されていない、わかっていないのが現状です。
サンゴの繁殖様式は種によって実に多様です。
- 雌雄同体で放卵放精するもの(一斉産卵の例はこちら)
- 雌雄同体でプラヌラ幼生を放出するもの
- 雌雄異体で放卵放精するもの
- 雌雄異体でプラヌラ幼生を放出するもの
- これらのミックス
- 性転換するもの(サイズに応じてオス→メス→オス、メス→オス→メス両方可能)
また、増え方として、折れた枝が海底で生き延びて(破片化)群体の数が増えていくものもあります。
さらに、死ぬほど状況が悪くなった場合に、種によっては、骨格からポリプだけが脱出して生き延びようとすることもあるようです。
なんという生命力の強さ。
性転換するサンゴが報告されてからまだ10年ほどしか経っていません。
多くの謎が残されているサンゴの繁殖様式。
まだまだ新しい発見があるに違いありません。
例えば、手前味噌で恐縮ですが、私たちのグループもキクメイシモドキというサンゴの繁殖様式を先日学会誌にて報告しましたので簡単にご紹介させていただききます。
キクメイシモドキ Oulastrea crispataというサンゴは低水温、泥などの外的ストレスにも強く、亜熱帯域から伊豆半島や能登半島まで広く分布が確認されています。
今回、観察してみて産卵の様子が明確に観察されていなかった理由がわかったような気がします。
その理由とは、ずばり、時間帯&卵の見えにくさ……。
まず、真夜中に各ポリプからまるでキノコ雲のように勢い良く放精し、その約20分後くらいに放卵が確認されました。
卵は脂質が少なめであるため、水面まで浮いて行かず、水中を漂っていたり沈み気味だったりしたのですが
小さくて色も透明であるため、周囲の泥や砂粒に紛れると非常に見えにくいです。
いつ産むのか日にちが予測できなかったため、毎晩観察を続けていたのですが、産んだのは小潮の潮止まりで一番海水の動きが少ないタイミングでした。
これが、単にこの年にだけ起きた偶然なのか、放精に引き続き、時間差で沈み気味の卵を放出するこの種の受精率を一番上げるための戦略なのかは、さらなる観察が必要と思われます。
一斉産卵に比べたらものすごく地味でしたが、毎晩の観察の末、深夜にそっと行われた生殖の様子に非常にわくわくさせられました。
他にも、人知れず、深夜や明け方、日中に繁殖しているサンゴもいます。
卵の色もピンクやオレンジ色だけでなく、茶色、白色、薄い緑色、透明など本当に様々。
サンゴの産卵のいろんなパターンをご紹介させていただきましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
本当に多くのパターンがあるので逆に混乱させてしまったかもしれませんが、まとめますと、
「サンゴは満月の夜に一斉にピンク色の卵を産む」
だけではなく、
「サンゴは満月の夜に一斉にピンク色の卵を産むものもいるけれども、それだけではなく、想像以上に複雑でいろんなパターンがある」
ということです。
ダイバーの皆さんも機会があれば、ぜひ観察する機会を持ってほしいと思います。
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