中国船のサンゴ密漁で話題の、深海に棲む美しい宝石サンゴ
今年、小笠原の中国船による密漁に端を発し、関心が高まった深海に棲む宝石サンゴ。
先週、高知県で開催された「サンゴ礁学会第17回大会」で宝石サンゴワークショップも行われました。
高知県といえば宝石サンゴ漁が有名な地です。
あまり学ぶ機会の多くない宝石サンゴについて、科学的知見に触れる貴重な機会になりましたのでシェアさせていただこうと思います。
宝石サンゴとは?
刺胞動物の中で骨を作る仲間をサンゴと呼ぶことを以前お伝えしました。
その骨が宝飾品に用いられるものを宝石サンゴと呼び、分類学的には、ソフトコーラル、ウミエラ、ヤギ、宝石サンゴなどの含まれるグループ、花虫綱八放サンゴ亜綱のうち、ヤギ目サンゴ科に分類される、およそ8種が宝飾品に加工されています。
宝石サンゴは、このコラムで主に紹介してきた、ダイバーが水中でよく目にする造礁サンゴとは分類も生態も異なります。
日本では研究者が少なく、わかっていないことが多い生き物です。日本近海では相模湾以南の水深100~300mの海底に生息するアカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴのたった3種が漁獲されています。
成長が非常に遅い宝石サンゴ
宝石サンゴは海水中のイオンを取り込み、炭酸カルシウムのカルサイト結晶を作ることで骨片と骨軸を作っています。この骨軸が磨かれて加工され、宝飾品に利用されます。
放射線炭素年代や骨軸に含まれるマグネシウムを調べることで、成長速度が推定されています。
それによるとシロサンゴの太さは年に0.24~0.38mm、モモイロサンゴでは年に0.3mmしか成長しないことが分かりました。
大人の小指ほどの太さまで成長するには約50年かかると言われています。
生殖方法についても不明でしたが、最新の研究では、宝石サンゴは雌雄異体で2年に1度のサイクルで夏に卵と精子を放出することで生殖している可能性があることがわかってきました。
10年で価格は約10倍に!
持続的な利用を目指して
日本における宝石サンゴの利用の歴史は古く、シルクロードを通じて主に地中海産のサンゴが多く輸入されていました。
江戸時代になると、国内でも宝石サンゴ漁が始まり、明治時代になるとさらに盛んになりました。
その価格は世界の経済状況や購入希望数に応じて大きく変動し、この10年で価格は約10倍に高騰しているそうです。
ゆっくりと成長する宝石サンゴを取り尽くしてしまわないように、日本では漁船数、小さいサイズのものは採らない、操業時間、明らかになってきた宝石サンゴの生殖時期を禁漁期にするなど、厳しい規制で資源管理を行っているそうです。
漁法についても使用する道具や方法を統一して、海底に棲んでいる他の生物を傷つけたり、海底地形を変えてしまったりするような撹乱がおきないよう配慮しているとのことでした。
巨大サンゴが海底に
こちらは宝飾品に加工されるサンゴではありませんが、同じように深海に棲むサンゴの仲間で、ニュージーランドで採集されたものです。
数百年から数千年生きているだろうと推定され、こんなサンゴがにょきにょきと生えている深海を想像するだけでわくわくしてきますね。
生き物のスケールは時間、大きさの両面で私たち人間の暮らす世界とは別物だということを改めて認識しました。
「我々のタイムスケールとは違う世界が、知らないうちに我々の悪影響を受けているかもしれない。せめて科学的に調査して把握することが必要」という講演者の方のコメントが胸に響きました。
参考資料
- パンフレット:宝石サンゴ保護育成協議会作成パンフレット
- 学術論文:Nonakaetal.2014PacificScience,vol.69,No.1
- ウェブサイト:宝石サンゴその持続的利用を目指して、ニュージーランド国立大気水圏研究所ウェブサイト
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