ミラーレス一眼「OM SYSTEM OM-1」の水中ワイド撮影
先月はOM SYSTEM OM-1のホエールスイム撮影について紹介させていただきました。今月は、外部ストロボを使ったワイド撮影について解説していきます。OM-1を例に解説しますが、メーカーを問わずデジタル一眼の基本的な取り扱い方なのでぜひ参考にしてください。
撮影アクセサリー紹介
まず準備するアクセサリーの紹介です。
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清水淳ワイドスペシャルセット
カメラ
OM SYSTEM OM-1
レンズ
OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL8mmFisheyeF1.8PRO
防水ハウジング
UH-OM1/AOI
レンズポート
DLP-05&ER-PN_PN-24/AOI
ブラケット
MPBK-02/MP
アーム
MP ARM M&18-25ADAPTER/MP
アームフロート
MP ARM FLOAT/MP
クランプ
MP CLAMP/MP
ストロボ
UCS-Q1RC-WHT/AOI
ストロボドーム型拡散板
SD-02/AOI
光ケーブル
MP MULTICORE OPTICAL CABLE613/MP
ほかのカメラと比較すると非常にコンパクトなシステムであることがわかります。
水中撮影に使用する際に使用する防水ハウジングはAOI製の「UH-OM-1」です。パッと見、TGシリーズのワイドセットとさほど大きさが変わらないほど、小さくて軽いのが特徴です。フルサイズのデジタル一眼とTGとの比較のカットを見ていただくとそのコンパクトさが一目瞭然になります。
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左からR5用ハウジング、OM-1用ハウジング「UH-OM-1」、TG-6&PT-059
ストロボ
ストロボはAOI製「UCS-Q1RC」を2灯システムで準備します。ストロボにはちょっとした秘密兵器を仕込みます。
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ストロボカバー「SC-01」
水中ストロボ専用のカバーです。ストロボ本体に傷がついたり汚れたりするのを防ぎますが、主な目的は水中浮力の適正化です。素材に6.5mmと分厚いネオプレン生地を使用しているのでストロボの水中重量を軽減することができます。UCS-Q1RCに取り付ければ、水中重量が軽減され取り回しが格段に向上し、撮影がしやすくなります。
ホワイトボディにもブラックボディにもマッチするモノトーンプリントが、海辺でおしゃれ感を演出すること間違いなしです。リバーシブル構造になっているので、裏地の白で使うことも可能です。これはマストアイテムです。
ストロボドームディフューザー:SD-02
UCS-Q1RC用のドーム型拡散板です。
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ストロボドームディフューザー「SD-02」
拡散グレードの高い樹脂を使用した高品質拡散板。フラッシュ照射角に基づいたドーム形状の曲率設計と特殊素材を用い拡散板自体を極力薄くすることにより、ガイドナンバー (※)をできる限り落とさずに光束を広げることに成功しました。SD-02を装着することで15mmレンズ相当(陸上値)の照射角が得られるようになり、至近距離でフィッシュアイレンズを使ったワイド撮影では特に威力を発揮します。コンパクトなQ1RCをワイド撮影でも効果的に使うことができます。
※ガイドナンバー:フラッシュ(ストロボ)の光の強さを表す単位。数字が大きいほど光量が多く、遠くまで光が届く。具体的には陸上でISO100、被写体までの距離1mの時に発光して、適正露出になる絞り値。水中では光が進みにくいため2分の1程度まで落ちる。
また、Q1RCに搭載されたLEDライト撮影時では、ライト光が拡散板を通過する際に色温度変更効果によってライト光の色温度が5000K程度へ暖色化傾向になると共に、照射角度も広がります。ライトを使った静止画撮影はもちろん、動画撮影にも最適な色彩で撮影するが可能になります。
その他周辺アクセサリー
撮影にはあまり影響がないように思えるブラケット、アーム、光ファイバーケーブルはそれぞれに選ぶポイントがあります。カメラやハウジングはあまり選択肢がないのですが、この辺りのアクセサリーは各社からいろいろ出ています。
私が普段使用しているものを詳しく紹介します。どうしてこれらを選んだのか?どういう観点で設計しているのか?がわかると参考にしていただけると思います。
光ファイバーケーブル:MP MULTICORE OPTICAL CABLE613
OM-1を収納するハウジング「UH-OM1」は、カメラの内蔵フラッシュを使わずにカメラからのフラッシュ信号をハウジングに内蔵されたマルチコントロールユニットのLEDが発光する仕組みになっています。LEDが発する信号は、内蔵フラッシュの光と比較すると極端に弱いために、ストロボとハウジング間の信号のやり取りを行う光ファイバーケーブルの伝達力が弱いとストロボを正確に発光させることができません。そこで「UH-OM-1」を使う場合に選びたい光ファイバーは、伝達力の強い「マルチコア613芯ケーブル」の品物になります。私の場合は「MP MULTICORE OPTICAL CABLE613」を使用しています。
ブラケット&アーム:MPBK-02、MP ARM M、MP ARM FLOAT
撮影システムの水中浮力を考えたことがある方は少ないと思います。フルサイズ一眼にセットできる大型で重いアームやどんな機種へも合うように汎用性の高いブラケットでは、TG並みにコンパクトに仕上がったOM-1&UH-OM1の軽量&コンパクトが生かせなくなります。
コンパクトなシステムもその性能を生かすためには、OLYMPUSミラーレス機専用設計されたアクセサリーが必要になります。しかし、単に軽くても材質が良くなく腐食に弱い材質のブラケットでは長く付き合っていくことはできません。
MPBK-02&MPARMは日本製で、OLYMPUSミラーレスハウジング専用に長い間研究され尽くされたアクセサリーです。軽量で剛性が高くソフトな感触の使い心地が、水中撮影をより快適にサポートします。
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水中撮影のキーポイント
ストロボの設定&セットアップ
ストロボを使ったワイド撮影で重要なポイントは、「ストロボを正しい位置で発光させること」です。エントリー時には、ストロボはコンパクトに収納されています。エントリー後に中層で浮きながら、アームを固定する作業は慣れないと難しいものです。ストロボ展開完成のイメージを正確に理解しておくと良いでしょう。中途半端になんとなくの固定で撮影してしまうと、ストロボ光が被写体に当たらずに残念な結果になります。時間がかかっても良いので、しっかりとセットアップしてください。
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AOI USC-Q1RCの設定はいたって簡単です。電源ONは左右のボタンを同時長押しして、設定は中央のダイヤルをRCの位置に回すだけです。
ストロボ&アームの位置
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ストロボの位置は、カメラを正面から見た時にレンズと同じ高さに左右シンメトリーにセットします。カメラを真上から見たときには、カメラに対して45度の角度になるようにします。レンズがフィッシュアイの場合には撮影範囲がかなり広いので、ストロボがやや外側を向くように固定します。
露出モード
ストロボを使った水中でのワイド撮影は、P(プログラム)モードを使います。前モデルE–M1MKIIに搭載されていた「水中ワイドモード」の撮影モードがなくなっているので、P (プログラムオート)で撮影をしています。
水中でのワイド撮影はストロボを使うので、カメラの構造上シャッター速度が1/250までの制御になります。ほとんどのミラーレス一眼でのシャッターの構造は縦走りフォーカルプレーン式を採用しているので、シャッター速度に制限が生まれます。センサーサイズの小さなOM-1は1/250が上限、フルサイズ機は1/200とさらに低速側で制限がかかります。選択したP(プログラムオート)は、適切なシャッター速度と絞り値を周りの環境に合わせてカメラが設定してくれる便利なモードです。
ISO感度の設定は、ストロボON/OFFで変更します。今回はストロボONなのでISOは200に固定します。ダイヤルに露出補正とフラッシュ光量調整を割り振り、全体の明るさと、ストロボの発光量の調整を瞬時にダイヤルでコントロールできるように設定を施します。
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通常のワイド撮影の設定例
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OKボタンを押すとこのコントロールパネルが表示される。/INFOボタンでRC/発光方式、発光量コントロール画面と通常画面の切り替えができる。(RCモードONのみストロボの設定画面が呼び出せる)
カメラのセットアップ
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外部ストロボにQ1RCを使用するのでRCモード/ON.
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オートフォーカスはC-AFに設定します
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AFエリアはE-M1MKIIIまでは全点にセットしていました。しかし今回のOM-1は測距点が1053点と多くなり、画面の隅々まで正確にピント拾えるようになったせいか、全点を選ぶと水面の波や画面の外側のあまり拾って欲しくないポイントを検出する場合があります。そのため、カスタムエリアを設定して撮影しています。全点とラージの中間くらいにカスタムセットします。浮遊物が多いエリアの場合や被写体より手前にある浮遊物にピントが合うことがある環境では、AFポイントをクロスやミッドに設定する場合もあります。クロスやミッドを使い、被写体をダイレクトに指定してフォーカスを合わせると精度が上がります。しかし、画面上いろいろな場所に位置する被写体にターゲットを頻繁に細かく移動させなければならず面倒です。

フォーカスエリアの違い ALL(全点)
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フォーカスエリアの違い C1(カスタム1)
カメラの前後のダイヤルに露出補正とストロボ発光補正を割り振ります。露出補正が親指
側のダイヤルに、人差し指側のダイヤルにストロボの光量調整を割り振ります。
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露出補正
露出補正を適正からマイナス方向へ振っていくと、背景のブルーは濃くなっていきます。数枚撮影してその環境で好きな背景のブルーを探ります。ストロボの発光量補正もダイヤルで発光の強弱を調整して、好みの発光量へ調整します。
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露出補正0.0
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露出補正-1.0
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露出補正-2.0
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露出補正-3.0
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フラッシュ補正0.0
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フラッシュ補正-1.0
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フラッシュ補正-2.0
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フラッシュ補正-3.0
色空間の設定
水中でのワイド撮影では、色空間の設定でブルーの発色が大きく変わります。本来はアウトプットするデバイスに合わせた色空間をセットする目的の項目ですが、Adobe RGBにセットして置くとブルーの諧調が滑らかになります。
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
AdobeRGB
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sRGB
作例と撮影のコツ
作品を見ていただきながら、撮影のコツを紹介します。
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撮影モード
P(プログラムオート)
絞り値
F6.3
シャッター速度
1/250
露出補正
-1.7EV
ホワイトバランス
水中
仕上がり
水中
ハイライト&シャドーコントロール
HI 0,MID 0,SHA -4
フラッシュ
ON/RC
ISO
200
ストロボ
UCS-Q1RC-WHT×2
撮影地
沖縄/粟国島
粟国島では4月から7月上旬頃まで、ギンガメアジの大群やマグロの群れに出会うことが可能です。この作品は7月中旬に撮影したもので、ピークシーズンではありませんが、水の透明度が50m以上あるのではないかと思うほどの爽快な作品に仕上がりました。
ギンガメアジの群れがどこまでも続くような動きを感じる作風に仕上げるために、背景を濃い目の青にしないで、ストロボ光と自然光の調和を狙いながら撮影をしています。OM-1に搭載されている「水中ホワイトバランス」を生かして、ストロボ光はワンポイント的に使っています。全体的に青かぶりがなく透明感あふれる、それでいて解放感たっぷりな仕上がりになりました。
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撮影モード
P(プログラムオート)
絞り値
F8.0
シャッター速度
1/250
露出補正
-1.7EV
ホワイトバランス
水中
仕上がり
水中
ハイライト&シャドーコントロール
HI 0,MID 0,SHA -4
フラッシュ
ON/RC
ISO
200
ストロボ
UCS-Q1RC-WHT×2
撮影地
沖縄/渡名喜島
渡名喜島の五六ノ崎で撮影。リーフの外側を潮流に乗ってゆっくりドリフトしながらの撮影するのが好きです。何が現れるかわからないワクワク感に、「出てきたら絶対に上手く仕留めてやる!」と考えながら臨戦体制を整えます。いつ、ど こで、どんな大きさ、何が来ても被写体との間合いがどうなろうとも、失敗がないように撮影モードはP(プログラムオート)とストロボはRC/TTLにセットしておきます。
この作品は渡名喜島の南側のダイビングポイントで、リーフをゆっくりと泳いでいるとチョウチョウウオが球状になりそうなところを発見。横目で見ながら忍び寄って、居合い抜きのように撮影した作品です。チョウチョウウオの白い体色がインパクトになるように少し飛ばし気味にストロボを調整します。OM-1のRC方式に対応したUCS-Q1RCストロボは、バッテリーに充電式のリチウムイオン18650×2本を採用しています。そのおかげでフル発光時のリサイクルタイムが0.8秒。この距離なら発光量は1/4程度なので、連写状態でストロボ撮影が可能です。スタミナも十分で一度の充電で1500発光/フル発光。3日間は充電不要でダイビングに臨めるほどパワフルです。
インスタライブで詳しく解説!
いかがでしたか? 本連載では毎回記事掲載の次の日にインスタライブでみなさんの質問にもお答えしながら 解説していきます。今月は3月29日(水)の20:00からInstagramでライブを行います。今回のフラッシュを使ったOM-1のワイド撮影について細かく解説していきます。
皆さんのご参加ぜひお待ちしています。
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