ミラーレス一眼 水中撮影徹底ガイドby清水淳(第25回)

STOP! 水没ミラーレスハウジング 修理依頼から考えるメンテナンスのコツ

ダイバーに人気のコンパクトデジカメOM SYSTEM(旧OLYMPUS) TGシリーズからのステップアップの受け皿になっているOM SYSTEMミラーレス機とAOIハウジング。購入しやすい価格帯と今までに無いお洒落なデザインとコンパクトなシステムから多くのビギナーフォトグラファーに愛用されています。

清水の撮影システム
左 OM-1MKⅡ& M.ZUIKO DIGITAL 8mm FISHEYE PRO AOI UH-OM1&DLP-05+ER-PN_PN24
右 OM-1MKⅡ& M.ZUIKO DIGITAL 90mm Macro PRO AOI UH-OM1&FLP-09

清水の撮影システム
左 OM-1MKⅡ& M.ZUIKO DIGITAL 8mm FISHEYE PRO AOI UH-OM1&DLP-05+ER-PN_PN24
右 OM-1MKⅡ& M.ZUIKO DIGITAL 90mm Macro PRO AOI UH-OM1&FLP-09

もちろん私もOM SYESTEM OM-1MKⅡとAOIのハウジングUH-OM1の愛用者。マクロ撮影用システムとワイド撮影用システムをそれぞれ2セット準備して万全なバックアップを準備して撮影に向かいます。ハウジングは発売開始前からの開発テストで使用していたものをそのまま使っているので、そろそろ3年近くになります。

少なく見積もったとして、週に2度使ったとしてザックリ数えて300日以上の使用状況になりますが、未だオーバーホールしていません。もちろん水没はありませんし、押しづらいボタンや動きの悪いダイヤルもない状態をキープしています。外装は擦り傷だらけですが。

そんな私のOM-1用のハウジングも、さすがにここまで使うとハウジング内部の圧力をモニターしたり、フラッシュ信号を発したりするマルチファンクションユニットの交換時期が来たようです。加えてインナーバッテリーのスタミナも弱ってきました。

修理中のAOI UH-EPL10

修理中のAOI UH-EPL10

AOIハウジング、Q1RCストロボ、レンズポートは、香港からの輸入品ですが、多くの製品の修理サービスは日本国内で行っています。
AOIのハウジングも多くの方がお使い頂くようになり、修理依頼も増えてきました。その修理依頼も様々な内容になりますが、特に多い修理依頼をリストアップしてみましたので参考になれば。依頼数が多い順に並べると、下記が代表的な修理依頼の内容になります。

  1. バキュームバルブの水没
  2. ボタンの固着からのリーク
  3. モイスチャーセンサーの腐食

なぜ、このようなトラブルが発生するのでしょうか? 個々のトラブルを検証して、予防策を考えていきましょう。

トラブルその1:バキュームバルブの水没

バキュームバルブが水没するとハウジング内に海水が入ります。カメラが一気に水浸しになる程勢い良く流れ込むことはありませんが、水没するとバキュームリークセンサーを使ったリーク防止システムを使うことができなくなります。

具体的には、ダイビング前にOリングのメンテナンスを行い、バキュームリークセンサーのスイッチをONにしてポンプでハウジング内の空気を脱気して陰圧にします。その時にバキュームバルブが水没していると、脱気ができずにエラーになってしまいます。要するにOリング部分からのリークはないのですがバルブから空気が漏れてしまうためです。

水没したバキュームバルブ単体。塩分が固まってバルブ機能を阻害しています

水没したバキュームバルブ単体。塩分が固まってバルブ機能を阻害しています

バキュームバルブが完全に水没してバルブが固着したUH-OM1。バルブから海水がハウジング内に侵入しています

バキュームバルブが完全に水没してバルブが固着したUH-OM1。バルブから海水がハウジング内に侵入しています

バキュームバルブの水没への対応策1
グリスアップ

AOIのハウジングを購入したら、最初に行って欲しいことでもありますが、バキュームバルブのOリングをしっかりグリスアップします。ここのOリンググリスが切れるとバルブキャップの水密が保てなくなりバルブが水没します。またキャップのネジが回しにくい場合には、ネジ部分にもグリスを塗布。またグリスアップに使用するシリコングリスはAOIハウジング用を使用してください。

バルブ水没のトラブルで修理に入ってくるハウジングは、このOリングのメンテナンスができていない場合がほとんど。TGシリーズにはなかったシステムなので、TGからステップアップされた方は陥りやすいトラブルと言えるでしょう。

バキュームバルブのOリング

バキュームバルブのOリング

リムーバーを使ってOリングを外します

リムーバーを使ってOリングを外します

バキュームバルブの水没への対応策2
バルブを開ける前に水分を飛ばす

ダイビング後にバルブを開ける前に、バルブ周辺の水分を吹き飛ばして、不織布で丁寧に水分を吸い取ります。そうすることでバルブを開けた時に海水が隙間から入り込むのを防ぎます。

ハンドブロアーを使って水分を吹き飛ばします

ハンドブロアーを使って水分を吹き飛ばします

不織布で水分を吸い取ります

不織布で水分を吸い取ります

バキュームバルブの水没への対応策3
Oリングのこまめな交換

バキュームバルブは細くて柔らかいOリングで、他の箇所のOリングに比べて回転しながらセットされるので傷みやすいと言えます。取り外し時によくチェックをしてサイズが変わっていたり傷があったりする場合には迷わず交換しましょう。

予備のOリングが購入時に1セットありますが、AOIは交換用のバキュームバルブOリングを準備しています。

バキュームバルブのOリング。色はグレーと黒があります

バキュームバルブのOリング。色はグレーと黒があります

UH-OM1付属品 予備Oリングとシリコングリス

UH-OM1付属品 予備Oリングとシリコングリス

バキュームバルブの水没への対応策4
水没した場合はすぐ点検

ダイビングが終わってハウジングを開けるときにバキュームバルブを操作して内部陰圧を解除しますが、キャップを開けた時にキャップ内やバルブに海水が付着しているようであれば、バキュームバルブの水没です。これ以降はハウジングの使用を止めてハウジングを点検に出します。このまま使い続けると、使用の度に海水が少しずつ侵入してバルブ付近の部品が塩害によって腐食します。

ダイビング後にハウジングのリアケースを開く時にバルブキャップを外します

ダイビング後にハウジングのリアケースを開く時にバルブキャップを外します

その際にバルブ周辺に海水が付着していないか?確認します

その際にバルブ周辺に海水が付着していないか?確認します

トラブルその2:ボタンの固着からのリーク

ハウジングに付いているボタンは錆びにくいステレンス製のシャフトを介してカメラのボタンを操作しています。そのステレンスのボタンシャフトも使用後のメンテナンスが悪いと腐食が起きます。「腐食=錆」の発生なのですが、表面に錆がついた軽い状況の場合もあれば、シャフトに傷が出来るほど腐食が表面だけに止まらない重症のケースもあります。

ボタンの動きが悪い、ダイヤルの操作感が良くないなどの症状はシャフトのトラブルのサインです。重症になる前にメンテナンスに出してください。動きの悪いボタンやダイヤル、レバーに機械用の潤滑油やシリコンスプレーなどを吹くと、防水に使用しているOリングを変質させサイズを変えてしまうことがあるので厳禁です。ご注意ください。

錆が発生したシャッターボタンのシャフト(UH-EPL10)

錆が発生したシャッターボタンのシャフト(UH-EPL10)

リークが発生したボタンを分解するとシャフトの状態がよく分かります

リークが発生したボタンを分解するとシャフトの状態がよく分かります


 
レバーシャフトに海水が溜まって錆が出ている様子(UH-OM1)

レバーシャフトに海水が溜まって錆が出ている様子(UH-OM1)

開閉バックルのシャフトから赤錆が出ている様子(UH-EPL10)

開閉バックルのシャフトから赤錆が出ている様子(UH-EPL10)

ボタン固着からのリークへの対応策
真水での洗浄

ボタンシャフトは、使用後の洗浄不足でも起こります。海水中での撮影後には真水につけて洗うことが必要です。
つけ置きした後にボタンを押してボタンホール内にある海水を取り除きます。ダイヤルやレバー部分は、ダイヤルを回転させて入り組んだダイヤル付近の海水を取り除きます。暖かい真水は塩分を溶かすのにも有効なので使用をお勧めしますが、つけたままにして温度が下がってしまうと逆効果なので注意が必要です。
 

ダイビング後にカメラ水槽でハウジングを洗浄している(UH-EM5Ⅲ)

ダイビング後にカメラ水槽でハウジングを洗浄している(UH-EM5Ⅲ)

トラブルその3:モイスチャーセンサーの腐食

下の写真は、バキュームバルブから侵入した海水がマルチファンクションユニットに入り込みユニット内部の電気基盤を腐食させた例です。ここまで腐食が進むとユニットの交換が必要になります。費用もなかなか高価。カバー内に隠れているので気が付かない場合も多いようです。

海水が侵入したUH-EPL10 フロントケース。赤錆が付着しているのが分かります(UH -EPL10)

海水が侵入したUH-EPL10 フロントケース。赤錆が付着しているのが分かります(UH -EPL10)

ハウジング内のマルチファンクションユニットが海水によって腐食している様子(UH-EPL10)

ハウジング内のマルチファンクションユニットが海水によって腐食している様子(UH-EPL10)

これは、トラブル1のバキュームバルブの水没が大きな原因の一つです。侵入した海水が他のパーツに付着して故障を引き起こす例です。

対応策としては、バキュームバルブの水没を防ぐことなので、トラブル1に対する対応策1〜3を実践していただければ、防ぐことができるでしょう。

というわけで今回はAOIハウジングのメンテナンスのコツをご紹介させて頂きました。
他のメーカーのハウジングはメーカー毎に細かい使用法が定まっていると思いますが、基本的には大きな差はないと思います。すべての水中撮影愛好家さんの為になれたら嬉しいです。

AOI製品のメンテナンスはフィッシュアイさんに窓口をお願いしていますので、何かあればフィッシュアイカスタマーサービスへご連絡ください。

フィッシュアイカスタマーサービス

〒171-0052 東京都豊島区南長崎5-29-7
Tel 03-5988-0191 平日(11:00-17:00)水曜のみ(13:00〜17:00)

■保証およびサポートには弊社発行の保証書が必要です■
弊社のAOIブランド製品の保証およびサポートは、弊社が日本国内で販売している国内向け仕様の製品が対象です。非正規ルートで購入された製品、輸入品(海外仕様製品)のサポートは行っておりません。
弊社では、自社基準に基づき製品を選定。受入検査等の品質管理を行ない、販売元を明記した保証書を同梱しております。
正規の販売ルート以外で購入された製品、輸入品や海外でご購入の海外向け仕様の製品に関しては、管理基準が弊社と異なるため、製品保証・サポート対応はいたしかねます。
※正規ルートで販売された製品には弊社発行の保証書が同梱されています。弊社サポートを受ける際には正規代理店の捺印のある保証書が必要となりますので大切に保管ください

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writer
PROFILE
1964年生まれ。水中写真や海辺の風景を撮り続けている。執筆や撮影を行ないながら、沖縄・那覇にて水中写真教室マリーンプロダクトを主宰。 また、カメラメーカーの研究開発にも携わり、水中撮影モードや水中ホワイトバランスの開発アドバイザーも務める。1998年にデビューしたOLYMPUS C900Zoomから最新機種まで全てのOLYMPUS水中モデルのチューニングテストを行なっている。カメラ機材に精通し、機材の特性を生かす能力が評価され、水中撮影アクセサリーメーカーのアドバイザーやテスト撮影の要望も多い。執筆活動では、水中撮影機材の解説や撮影の仕方、楽しみ方の記事をPADI Japan/デジカメ上達クリニック、OMDS/水中デジタルカメラ・インプレッション、マリンダイビング.ウェブ/水中デジカメ撮影教室、オーシャナ/カメラレビューを現在連載中。最近では、「清水淳のマンツーマン水中写真教室」が好評いただき熱意あふれるフォトグラファーたちと一緒に撮影をしている。
公式ホームページ https://shimizu.marine-p.com/ 公益社団法人日本写真家協会会員。
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