ミラーレス一眼被写体別撮影テクニック「ケーブ撮影の楽しさ」
今回は被写体別テクニックシリーズとして、「ケーブ撮影の楽しさ」の紹介をします。使用機材はAOIの超小型水中ハウジング「AOI UH-OM1」と軽量小型で水中での携行にストレスの無いOM SYSTEM OM-1MKⅡ、超広角フィッシュアイレンズM.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyeです。
8月1日から東京・田園調布にて、毎年恒例となる私の個展を開催しています。10年来、季節がら夏っぽい作品を展示させていただきタイトルを「SUMMER」としていたのですが、今年からは私の特技であるテクニカルダイビングの特性を活かした神秘的で幻想的な水中景観を展示する内容に刷新し、個展名も新たに「CAVE」へと変更しました。
テクニカルダイビングとは、通常のスクーバダイビング装備では行くことのできない深いエリアや水中洞窟、沈没船の内部など、浮上に障害がある場所でのダイビングを指します。皆さんには馴染みのない世界ですが、「苦労してやっとたどり着くことの楽しさ」を感じていただければといった趣旨の作品展です。
作品の多くは、メキシコのユカタン半島/プラヤデルカルメンの地下水脈(セノーテ)で撮影した水中景観です。透明で澄み渡った水の中に広がる鍾乳石の造形美を独自の撮影手法で表現しています。12枚の作品の中で2枚だけ日本の南大東島での作品があります。メキシコ/セノーテの水中洞窟景観とは雰囲気が大きく異なり、繊細で透き通った鍾乳石の造形美を見ることができます。長くなりましたが、今回は「CAVE」の作品を見ていただきながら、ケーブ撮影の楽しさを解説していきます。
ピット
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
絞り優先オート
シャッター速度
1/50
絞り値
F5.6
露出補正
-2.3EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
1600
ホワイトバランス
AUTO
撮影地
セノーテ:ピット
まずは、今回の「CAVE」のメインカットです。竪穴系セノーテでは有名な「ピット」で撮影しました。天気の良い日を選んで太陽が一番高くなる時間帯を狙っていきます。何度も入っているセノーテなので撮影したい位置は大体決まっていますが、同じ場所で撮影していても、季節によって光の入り方が変わるので、毎回驚きと感激があります。モデルさん二人にお願いして水底30mから水面まで30分かけてゆっくり浮上してもらいました。
ドリームゲート①
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
絞り優先オート
シャッター速度
1/8
絞り値
F2.8
露出補正
-2.3EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
5000
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:ドリームゲート
どの作品も好きなのですが、技術的に一番上手くいった作品です。撮影時間している時間もとても長かったと記憶にあります。真っ暗なケーブの中でライトを頼りにモデルの位置や光の調整をじっくり何度もやり直しながら撮影を進めていきました。苦労しているポイントはモデルの背景をブルーに抜くことでした。
ドリームゲート②
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
絞り優先オート
シャッター速度
1/8
絞り値
F1.8
露出補正
-2.3EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
1600
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:ドリームゲート
2枚目と同じドリームゲートでの撮影しました。撮影手法的には少し変わりますが、モデルさんが飛び出してくるような勢いを感じる作風を狙っています。暗く光が無いシーンの撮影になるのでシャッター速度がかなり低下します。モデルにも動かないように、狙った位置で停止してもらいました。
「ドリームゲート」には駐車場から水辺にシリンダーの上げ下ろしを出来るように、人力のクレーンが設置されている。これがないと急な階段でシリンダーを運ばなければならない。一人2本の装備なので大変に助かる。
ドス オホス①
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
絞り優先オート
シャッター速度
1/6
絞り値
F2.2
露出補正
-3.0EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
6400
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:ドス オホス
セノーテに行ったことがある方なら大体の方が訪れるメジャーなセノーテ「ドス オホス」。DOSOJOSはスペイン語で二つの目という意味で二つの大きなセノーテが合体しているような感じです。今回は、一つずつのセノーテで作品を撮っています。その一つがこの作品になりますが、ダイビング・コース上のラインにバービー人形が括り付けられていることからこの名前がついたという「バービーライン」の一番奥で撮影しています。一見、明るく見えますが、実は真っ暗な環境です。白い鍾乳石が見事なので明るく仕上げています。
メキシコ/カンクン空港
空港内の廊下も夢があります。
セノーテがあるエリアに行くにはメキシコのカンクン空港から車やバスでいくのが一般的。日本からカンクンまでは色々な行き方がありますが、私の場合はANAで成田からメキシコシティーに行って、メキシコシティーからアエロメヒコ航空でカンクンに行きます。乗り継ぎが少なく、安心のANAですので、ロストバゲージの心配もありません。
ドス オホス②
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
絞り優先オート
シャッター速度
1/8
絞り値
F1.8
露出補正
-3.3EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
640
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:ドス オホス
「ドス オホス」での2枚目の作品です。「バットケーブ」というライン名が付けられていますが、ケーブ内に空気が溜まったエアードームがあり、そこに住むコウモリが見られることからこのライン名がついたようです。そのバットケーブの小さなエアードームで撮影しています。水面が鏡面状になり水中が写っている効果を狙っています。ダイバーが辿るラインが見えるでしょうか?
カラフルな看板があるドス オホス。大きな公園のようになっていて、幾つものセノーテがある。メイン作品の「ピット」半水面の「ニクテ ハ」も同じ敷地内にある。どのセノーテも掃除が行き届き気持ちよく利用できる。
ニクテ ハ
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
プログラムオート
シャッター速度
1/15
絞り値
F9.0
露出補正
-3.3EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
200
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:ニクテ ハ
Instagramで人気のセノーテ。一面蓮の葉で覆われている。暗い洞窟の作品ばかり続くと、見ている方も飽きるかなと思い、一枚明るい半水面をこのセノーテでと考えていました。この作品は新しいデジタル技術を駆使して撮影しています。グラデーションND機能といって輝度差がある大きなシーンで、ハーフNDをデジタル技術で効果が狙える便利な機能を利用しています。
「ニクテ ハ」で半水面をする清水。意外に楽しく、「ほんの10分撮影してきます」とロケをコントロールしてくれるディレクターに言って始めたのですが小一時間入水していました。
アンヘリータ
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
プログラムオート
シャッター速度
1/15
絞り値
F9.0
露出補正
-3.3EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
200
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:アンヘリータ
セノーテという存在をまだ知らなかった頃に見かけた不思議な光景がこのセノーテ「アンヘリータ」でした。水中なのに雲海のような浮遊物があって、枯れ木が壁にもたれかかっている光景でした。ここに通うようになって何回このセノーテにダイブしたか数え切れない程です。ここでの撮影で気をつけていることは、いかに雲海のように見せるか? です。今回は、枯れ木とモデルさんが放つスポットビームが雲をより魅力的に見えるか? に努力して見ました。
以前はジャングルを進んで、高い崖からジャンプしなければならなかったアンヘリータ。今ではウッドデッキ付きのエントリースペースがあります。
マラビージャ①
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
プログラムオート
シャッター速度
1/200
絞り値
F5.6
露出補正
-2.7EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
800
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:マラビージャ
竪穴系で巾着型のセノーテの「マラビージャ」は入口が狭く底に行くほど広くなっている形状をしています。季節によって光の角度と強さが異なるので、そこを攻め込んで撮影する楽しさがあります。この作品は夏季の撮影で、入り口から入る光のパワーがあり、力強くシャープな仕上がりになります。
マラビージャ②
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
プログラムオート
シャッター速度
1/8
絞り値
F4.0
露出補正
-2.7EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
640
ホワイトバランス
4200K
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:マラビージャ
「マラビージャ」冬季の作品です。夏季に比べて光のパワーがやや弱いので、優しく底面も露光させることが可能です。どちらのマラビージャも好きですが、低速でフンワリとした雰囲気の冬季のこの作品に魅力を感じます。
往々にして竪穴型セノーテは階段が急勾配です。「マラビージャ」も例外ではなく滑ったら大怪我をしそうな程急な階段をゆっくりとシリンダーを運びます。メキシコ人ガイドはここでも一度に2本持って降りて行きます。小さな入り口からは想像がつかない広い巾着型の世界が広がるセノーテ「マラビージャ」。
カーウォッシュ
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
プログラムオート
シャッター速度
1/6
絞り値
F1.8
露出補正
-2.3EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
6400
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
セノーテ:カーウォッシュ
暗いセノーテの奥には白黒の世界が広がっていると思いがちですが、STOPの看板を見ると白黒以外の色もあるのがわかります。この看板の奥には特殊なトレーニングを受けたものだけが楽しめる世界があります。以前はこの看板の奥にはきっと相当に危ないことがあるのだと信じていました。しかし今はその奥の世界に魅力を感じて歩み始めています。
メキシコ・セノーテでの撮影の様子
場所は異なりますが、ガイドさんと清水のツーショット。サイドマウントにヘルメットが標準装備。清水は普段から地元の沖縄でもこの装備でダイビングをしています。見かける方には、どうしてこんな重装備なんですか?とよく聞かれます。
「それはですね、ヘルメットにはライトが付いていて重く、外すとバランスが崩れます。いつもおなじ装備のサイドマウントでダイビングすると上手になるからです」と答えています。
こんな感じに水辺にシリンダーとフィンを置いて準備します。
カーウォッシュの一般エリアの奥にはケーブラインという特別な資格を持った人達だけが楽しめるエリアがあります。このエリアが一般エリアに比べて危険も楽しみも大きくなる特別な楽しみ方できます。どんな感じか?簡単にまとめたムービーを作りました。
南大東島CAVE①
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
プログラムオート
シャッター速度
1/6
絞り値
F1.8
露出補正
-2.0EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
6400
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
南大東島
日本にもこんな素晴らしいCAVEがあると思いもしませんでした。それも私が住む那覇から飛行機でわずか45分と身近な場所。駐車場やトイレや水際まで整備された階段があるメキシコのセノーテとは違い、南大東島のケーブは観光化されていない本格的なケーブでした。今回、撮影させていただいた南大東島のケーブは前人未到で壊れていない鍾乳石が魅力でした。
南大東島CAVE②
カメラ
OM SYSTEM OM-1MKⅡ
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmF1.8FishEyePRO
撮影モード
プログラムオート
シャッター速度
1/60
絞り値
F1.8
露出補正
-2.0EV
フラッシュ
OFF
ISO感度
5000
ホワイトバランス
AUTO
ライト
RGBlue SYSTEM01SPOT BEAM
撮影地
南大東島
最後に紹介するのは今までこんなに繊細で美しいケーブは出会ったことがない程に白く輝いていました。小さなホールに牙のような鍾乳石が下からも上からも生えているような不思議な光景でした。ただし、このホールにたどり着くまでには色々な障害を潜り抜けなければなりませんでした。しかし、障害のハードルが高いほどたどり着いた時の感動は高いものだとわかった撮影でした。
南大東島での撮影の様子
南大東に持ち込んだ撮影機材。狭いケーブ内では大きな撮影システムだと携行するのが難しい場所が多い。その点OM-1なら高感度特性はフルサイズに遜色なく安心して使える。ただし、泥がボタンの穴に入り込み毎回オーバーホール、ドームレンズは岩にぶつかり傷だらけになります。それでもケーブ撮影に行きたいです。
南大東島の作品は作品展に展示したもの以外にも数多くストックしています。時期を見て発表をして行きたいと考えています。
というわけで、この一年間で出会った色々なケーブを見ていただきました。
ダイビングをすること自体、一般の方から見たら「変わった趣味だな?」と思われるニッチの世界ですが、さらにシリンダーをたくさん体に装着していくテクニカルダイビングは相当に希少な人たちですね。その中でもケーブを愛する人は一握りです。その世界で撮影をして見ようと試行錯誤の繰り返しでしたが、やっと皆さんに見て頂ける作品が揃いました。
写真展「CAVE」は8/1から8/31まで田園調布のDeco’S DOG CAFÉで開催しています。会期が終わったら弊社ギャラリー、マリーンプロダクトで10/1から展示を行います。お近くにお越しの際は是非お立ち寄りください。
清水 淳と撮るセノーテ
メキシコ/セノーテを4日間8ダイブ撮影します。
2024/12/1〜12/10
興味がある方は、清水までご連絡ください。
▶︎お問い合わせはこちらから
清水氏の水中撮影教室でもっと学びたい方はこちら↓
▶︎マリーンプロダクト水中撮影教室
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