ミラーレス一眼でホエールスイム撮影! OM SYSTEM OM-1を使用した撮影システム、設定、コツを紹介
OM SYSTEMのミラーレス一眼カメラ「OM SYSYTEM OM-1」と、その専用ハウジングとして2022年10月5日発売になった「AOI UH-OM1」。先月はそれらを使用したマクロ撮影について解説させていただきました。
今回の撮影は、沖縄本島那覇をベースに冬季に行っているホエールスイムへ、OM SYSTEM OM-1をもってチャレンジしてみました。防水ハウジングはもちろんAOI UH-OM1。補助光は今回はなしで、自然光での撮影になります。レンズは、画角が広く大きな被写体の撮影に最適な「M.ZUIKO DIGITAL8mmFisheyeF1.8PRO」を使用しました。
初めてホエールを撮影する方に向けて、撮影システムやコツ、ポイントをお伝えさせていただきます。
那覇エリアのホエールスイム
那覇エリアのホエールスイムがどういったものなのか、最初にご紹介します。
ザトウクジラは冬になると、繁殖、子育てのため、アラスカやロシアなどの北の海から沖縄本島近海まで移動してきます。そのクジラを狙いスノーケルスイムで入水し、撮影チャンスを待ちます。海況、クジラの動きなどさまざまな条件が揃わないと必ず成功するとは限りませんが、出会えた時の感動と興奮は忘れられない思い出になります。さらにその瞬間を撮影できることは、写真好きには最高の瞬間になるはずです。
私たちが所属している中南部ホエールウォッチング協会では、ウォッチ船、スイム船で優先時間を決めています。ホエールスイム船は、出港から10:00までと12:00〜14:30が優先時間に割り当てられています。出港は7:30前後、那覇港を出た付近からクジラに出会えるエリアになります。西側は慶良間諸島の手前、北側は残波岬の手前、南側は糸満港の手前のエリアでクジラを捜索します。
クジラが見つかっても、すぐにはスイムはしません。そのクジラがスイムに適しているかじっくり観察します。スイムをする個体は、基本的には落ち着いて静止している個体とします。船のスピードを上げないと追いつけない個体はスイムをあきらめます。出港後にはいつでも水面に入れる準備をしておきます。スーツを着用し、マスクやシュノーケル、フィンを準備してエントリー場所で待機します。船長のOKの合図で静かに入水します。ダイビングのようにジャイアントストライドやバックロールエントリーは行いません。入水する時に音を立てたり、水しぶきを飛ばしたりしないように注意し、滑るようにエントリーします。音を立てるとクジラがビックリして、行動が変わってしまうこともあるからです。
入水後にはガイドの周りに集合します。集合する時にも水しぶきに注意してください。顔を水面につけて水平に泳ぐと、水しぶきやフィンで水面を叩く音が出てクジラが逃げたり避けたりして、次のスイムに影響が出てしまいます。
クジラが去った後、船に戻る場合にも移動するときは立ち泳ぎ状態でフィンを水中深く沈めたままゆっくりと動かします。クジラを発見したら泳がずに、流木のように止まって観察と撮影を行います。クジラが遠くに行っても追うことは厳禁です。このように厳しく制限されたルールの中でホエールスイムを行っています。
ホエールスイムの装備
那覇エリアのホエールスイムは泳ぐことがほとんどありません。また、一斉に大勢のダイバーがボートへエキジットするので、フィンを履いたまま上がることが多くなります。そのため、短くて脱着のしやすいフルフットタイプのフィンがおすすめ。シュノーケルは、水が入りにくい高性能なシュノーケルを準備したいところ。私はこのGULLのスーパーブリットというシュノーケルがお気に入りです。
水面でバランスをとりやすくするため、体が少し沈むくらい、ダイビング時の1/2程度のウエイトを装着します。モデルはオーシャナ編集部のスイカさん。今回の水中撮影を担当していただきました。水温は期間中20~21℃くらいなので、ドライスーツの方もいますが、私は6.5mmのウエットスーツです。
初めてのホエール撮影のための撮影システム
それではここからは初めてホエール撮影を行う方向けの撮影システムを解説していきます。今回使用したシステムは以下の通り。
カメラ
OM SYSTEM OM-1
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED8mmFisheye
防水ハウジング
UH-OM1/AOI
レンズポート
DLP-05&ER-PN_PN-24/AOI
ブラケット
MPBK-02/MP
アーム
MP ARM M/MP
アームフロート
MP ARM FLOAT/MP
ダイレクトベース
MP DIRECT BEASE/MP
クランプ
MP CLAMP/MP
ハンドストラップ
UH-OM1同梱品/AOI
ほかのカメラと比較すると非常にコンパクトなシステムであることがわかります。
なぜフィッシュアイレンズを選ぶのか?
ワイド撮影に向いているレンズはM.ZUIKO DIGITAL ED8mmFisheyeだけではありません。レンズポートはそれぞれのレンズに合ったものを選ぶ必要がありますが、OM SYSTEM OM-1とAOI UH-OM1の組み合わせでは、そのほかにM.ZUIKO DIGITAL7-14mm, M.ZUIKO DIGITAL8-25mm, M.ZUIKO DIGITAL12-40mmなどがあります。どのレンズもホエールスイム撮影に使えるのですが、今回は初めてホエールスイム撮影を行う方向け、また、那覇エリアでのホエールスイムの環境を考え、M.ZUIKO DIGITAL ED8mmFisheyeをチョイスしました。
選んだ理由は、被写体であるクジラがとても大きいことが一番の理由です。那覇エリアで見られるクジラはザトウクジラです。標準的な個体で11m〜16m、大きな個体では20mを超える大型のクジラです。その体のすべてを写真に収めるには、画角が非常に広いことが必要です。
それと、冬季の那覇近郊エリアでは海中の浮遊物が多く透明度も抜群に良いとは言えず、綺麗に撮るには被写体に接近して撮影する必要があります。夏の沖縄のように透明度が50m近くある透き通った環境であれば、M.ZUIKO DIGITAL7-14mmのような広角ズームを使い、被写体から引いた距離での撮影も可能です。しかし、ホエールシーズンの海中環境ではそれも期待できない日が多いのが現状です。
また、M.ZUIKO DIGITAL ED8mmFisheye レンズは、ピントの合う幅が非常に深いのが特徴です。多少のフォーカスのズレや動画撮影時に被写体との距離が変わった場合でも、ある程度はピンボケを防ぐ許容範囲が広いのも選択の理由に挙げられます。さらに、防水ハウジングであるAOI UH-OM1のM.ZUIKO DIGITAL ED8mmFisheye用レンズポートは、ものすごくコンパクトにできています。波の中での撮影にも撮影システムが小さいことは何よりも優先したい事項です。
浮力を確保するアームとフロート
MPアームMとMPフロートをハウジング上部に取り付けると水中での浮力が得られ、水中バランスが良くなります。撮影システムが重いと撮影がやりにくいし、カメラの水中落下にもつながってしまいます。エントリー&エキジット時のカメラの手渡しもスムーズです。
カメラの設定
カメラの設定に関しては、いろいろなやり方がありますが、今回は通常のワイド撮影で使用したいP(プログラム)モードではなく、A (絞り優先)オートを使いました。S(シャッター速度優先)オートやM(マニュアル)モード
を使う場合もありますが、Aモードは失敗しないことを最優先させる場合に使いたい設定です。
シャッター速度は速く
クジラの動きは速く、遅いシャッター速度ではブレが出ます。カメラには手ブレ補正が搭載されていますが、被写体が速く動くために発生するブレを止めるには、高速シャッター速度を使うか、流し撮りのテクニックを使う方法があります。今回は高速シャッター速度を使い、対応します。
絞り値:F4.0〜F8.0
絞り値に関しては、ある程度絞って被写界深度を稼ぐ手法を使います。今回はF4.0〜F8.0を使っていきます。雨天ではF4.0、曇天ならF5.6、晴れたらF8.0にセットします。
ISO AUTOで低速限界は1/250
ISO感度はAUTOに設定して、環境輝度が低くなるにつれてISO感度が自動で上がっていく設定を選びます。ISO感度が上がる基準値をシャッター速度1/250に設定します。これは「低速限界設定」でコントロールすることが可能です。
Mモードを採用して絞り値F4.0、シャッター速度1/250、ISO AUTOでも同じようなプログラムになります。ですが、一時的に天候が素晴らしく良くなり眩しいくらいに環境輝度が上がった場合にも、露出オーバーになることがなく露出をコントロールできる方法が、このAモードF4.0〜8.0、ISO AUTO(低速限界1/250)を採用する理由です。
乱暴ですが、すごく簡単に説明すると、エントリー後、露出調整のすべてをカメラに任せてファインダー越しのクジラとのやりとりに集中できる設定になるということです。
露出補正:-0.3〜-0.7EV
明るさの調整はほぼ適正露出ですが、若干アンダー側に振って-0.3〜-0.7EVで撮影しています。それでは、OM SYSTEM OM-1の画面を参考に、カメラの設定を細かく見ていきましょう。
設定の確認
まず、現状の設定を確認しましょう。主要な設定状況は、OKボタンを押すと表示されるスーパーコントロールパネルでひと目で確認が可能です。
ドライブ:連写
ドライブは連写にセットします。メカニカルシャッター、秒間5コマ、枚数リミッターはOFFとします。
AFターゲットモード:Large
AFターゲットモードはLarge。全点を使うと水面のキラキラや波にAFが合うことが多くなってしまいます。全点とLargeの中間、独自に設定したカスタムエリアを使う場合もあります。
画質モード:RAW
ホエール撮影の場合、RAW現像を施す必要が多くなるため、画質はLSF+RAWに設定します。なぜかというと、クジラの体色と背景の海の色が同化しがちなため、その場合に有効な、RAW現像の効果に搭載されている「かすみの除去」を使用する必要があるからです。これを使うとはっきり見えなかったクジラのボディーが浮かび上がります。TGでもRAWで撮影できるのでぜひ使いたい機能です。最近ならスマホでもRAW現像が可能なアプリが用意されており、私はスマホではAdobeのLightroomを使用していいます。
ホワイトバランス:水中WB
ホワイトバランスは、水中WBにセットしておくことで自然な色になります。
ISOオート
ISO感度は上限6400、下限は200に設定し、環境輝度が暗くなるにつれ感度を自動でアップさせるようにします。シャッター速度が1/250以下にならないようにISOオート低速限界を1/250にすることも忘れずに。
オートフォーカス
オートフォーカスのモードはC-AF、AFターゲット表示はON2にセットします。
オートフォーカス(動画)
動画撮影時のオートフォーカスは、録画中にピントが泳がないようにスタート時のフォーカスに固定する設定にします。
ホワイトバランス(動画)
動画撮影時のホワイトバランスも水中WBとします。
ISO感度(動画)
動画撮影時のISO AUTO設定も、写真同様に上限がISO6400、下限はISO200に設定します。
アイセンサー:OFF
ハウジングにカメラを入れる場合には、アイセンサー/EVの自動切換をOFFにしましょう。アイセンサーの自動切り替えをONのままハウジングに入れて収納すると、アイセンサーがハウジングを撮影者の顔が近づいてきたと勘違いして、モニターを表示させずにEVFのみの表示になってしまうからです。今回使用しているUH-OM1はEVFでの表示に対応していませんので忘れずにOFFにしましょう。
バックライト時間:8秒
バックライトを8秒で自動消灯を選んでおくと、バッテリーの持ちが良くなるのでこちらも設定しておきましょう。
ホエール撮影のコツ
レンズポートの気泡を振り払う
エントリー後にレンズポートに付いている気泡を、手で水流を起こして振り払います。気泡が付いたまま撮影すると気泡でノイズが出てしまいます。
撮影する姿勢
リラックスして体を水面に横たえます。ここでのホエールスイムではクジラが近くにいるときにフィンを動かして泳ぐことは禁止されていますので、流木スタイルを忘れずに。両手でカメラをホールドし、なるべく被写体に近づけるよう腕を伸ばしながらカメラをクジラに向けます。
自然光の向きを確認する
許されるのであれば、順光環境で撮影したいので、エントリー時に太陽の方向を確認しておくのもテクニックの一つです。逆光撮影では浮遊物に太陽光が乱反射してノイジーになってしまうのです。下記は同じ環境で逆光と順光を比較したもの。
作品例
これらのシステムを使い、撮影のコツをお伝えして、スイカさんにミラーレス一眼を使用した初めてのホエール撮影にチャレンジしてもらいました。
スイカさん撮影 作品1
撮影モード
A(絞り優先)オート
絞り値
F4.0
シャッター速度
1/250
露出補正
-0.3EV
ホワイトバランス
水中
仕上がり
水中
フラッシュ
OFF
ISO
AUTO/320
撮影地
沖縄/那覇市
水中約10m付近で停止しているクジラの親子。
運よく自分の下に現れてくれたので、真上から撮影ができました。清水さんのアドバイスのとおり、エントリー前に光の向きを確認して撮影するようにしていたのがよかったのでしょうか。光の筋もきれいに映り込んでよかったです。
スイカさん撮影 作品2
撮影モード
A(絞り優先)オート
絞り値
F8.0
シャッター速度
1/250
露出補正
-0.7EV
ホワイトバランス
水中
仕上がり
水中
フラッシュ
OFF
ISO
AUTO/640
撮影地
沖縄/那覇市
水中で停止していた親子を観察中、やや離れた場所に浮上してきた。
この時はおそらく、なるべく腕を伸ばして撮ることを意識していたような気がします。エントリー前に他の方の作品に水面が映っているのを見て、きれいだなと思ったので、水面も入るように意識しました。
スイカさん撮影 作品3
4K60Pの動画撮影から切り出した静止画の作品。
大きな画質低下もなく明るく爽やかに仕上がった4Kムービーからの切り出し。
ムービー撮影に専念しておいて、撮影後に切り出ししても水中ホワイトバランスが効いた美しい作品が手に入るのもOM-1の魅力の一つだ。
動画からでもここまできれいに切り出せるのには驚きました。今回のホエールスイムではクジラたちがわりと近くまで寄ってくれることが多く、動画も撮影したい!と思っていましたがメインは写真。それでも撮りたいと思って撮影した動画ですが、結果的に写真としても残せるのは嬉しいですね。
スイカさん撮影 作品4(4K60Pのムービー)
OM-1の魅力の一つに水中ホワイトバランスの搭載が挙げられる。動画撮影でも画像処理に頼らずに、青被りの少ない水中ムービーが手に入る。
OM-1から60pの撮影が可能になったので滑らかなムービーが楽しめる。
実はこの動画を撮る前のスイムでは、ボタンを押し間違えてまったく撮れていませんでした。悔しくて次は絶対に撮ってやると意気込んで撮影したワンシーンです。機材を使い慣れておくのは大事だなと感じる出来事でした。
いかがだったでしょうか?
今月も残りわずかですが、3月21日まで私が在籍する那覇の水中写真教室でもホエールスイム撮影を開催しています。
興味がある方は専用ウェブサイトをご覧ください。
▶︎MARINE PRODUCT公式HP:ホエール撮影
今月は2月22日(水)の20:00からInstagramでライブを行います。今回のOM-1のホエールスイム撮影について細かく解説していきます。
皆さんのご参加ぜひお待ちしています。
インスタライブで詳しく解説!
本連載では毎回記事掲載の次の日にインスタライブでみなさんの質問にもお答えしながら解説していきます。
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