ミラーレス一眼 水中撮影徹底ガイドby清水淳(第22回)

OM SYSTEM 「OM-1」と「OM-1MarkⅡ」 水中撮影での進化徹底解説

OM SYSTEMから今年発売となった「OM-1 MarkⅡ(以下、MKⅡ)」はもう試されましたか? 前モデル「OM-1」との違いがいまいちわからず、購入に迷っている方も少なくないのではないでしょうか。今回は、私が実際に水中撮影でMKⅡを使用してみて、明らかに進化した点をレビューしていきたいと思います。

前モデルOM-1からOM-1 MKⅡ
水中撮影において変化はあるのか

2024年2月23日に発売されたMKⅡは、2022年3月に発売されたOM SYSTEMのフラッグシップモデル「OM-1」の後継機にあたります。MKⅡの外形寸法は約134.8×91.6×72.7mm、質量は本体のみで511gとなっており、これは前モデル「OM-1」とまったく同じです。

外見や主要仕様はほとんど変更されていませんが、水中でも効果が期待できるAI被写体認識の精度向上、バッファメモリー容量の増設によって、RAWデータの書き込み待ちの軽減やファインダーのブラックアウトフリー範囲の拡大、ワイド撮影、マクロ撮影どちらにも効果が期待できる手ブレ補正効果の向上など、基本性能が大幅に向上しています。

他のカメラに無い斬新な機能では、グラデーションNDフィルターの効果をカメラ内の画像処理で実現する「ライブGND」機能が追加され、半水面のような明暗差の大きいシーンでも輝度差を整える効果が得られる機能が新しく搭載されました。発売当初、情報収集が甘かったのか? 噂を鵜呑みにしていたのか? 「MKⅡの進化は水中撮影では恩恵を受けない」とされていました。

しかし、MKⅡでの撮影を重ねていくと明らかにOM-1との差があることが次第にわかってきました。特に私の専門ジャンルであるセノーテ/水中洞窟などの暗い場所での撮影では、本来持ち合わせていた高感度特性に加えて、他のカメラの追従を許さないOM-1の7段手振れ補正機能が8.5段にパワーアップされたことは、私の作品創作意欲に拍車をかけることになりました。

というわけで、カメラ専門ウェブサイトにも、メーカーの情報ページにも掲載されていないOM-1 MKⅡの水中撮影の進化をここにまとめました。

OM-1からOM-1 MKⅡ
進化した部分

MKⅡはボディー、撮像センサー、画像処理エンジンがOM-1と同じなので、今後行われるOM-1向けのファームウェアのアップデートで、OM-1にMKⅡと同等レベルの機能追加が可能になると希望的観測をしていました。しかし、MKⅡ の進化はメモリーの容量増加と高速化に依存しているので、物理的にOM-1にメモリーの増設や交換ができないOM-1のファームウェアのアップデートではMKⅡ同等程度への進化は望めないことが理解できました。

ということは、買い換えるしかないか??

OM-1からOM-1 MKⅡへの進化一覧

1 ゴミ箱ボタンでメニュー操作に対応/ 右手だけでメニュー操作ができる
2 コマンドダイヤルの材質変更/ 手袋装着時の操作性改善
3 7段→8.5段分のボディ内手振れ補正
4 ハイレゾショットの14bit RAW対応/ ダイナミックレンジが広く、RAW柔軟性の上昇
5 被写体検出「人物」対応 / 顔/瞳検出の統合で一貫性のあるAFシステム
6 撮影時のバッファが約2倍 / 連続撮影枚数が倍増 / プロキャプチャーのプリ連写が微増 / 低速連写でもブラックアウトフリーの恩恵
7ライブGNDに対応 / ハーフNDの代用や併用が可能
8 ライブND機能も従来のND2、4、8、16、32、64に128が加わり7種類へ。1EV強化された。
9 USBウェブカメラ(UVC/UAC)
10 OM Capture Wi-Fiテザーに対応
11 縦位置動画撮影に対応

ざっくりと一覧にしてみましたが、私が思いついただけでも11の項目で進化がありました。この中から、特に水中撮影で進化が感じられる機能をいくつかピックアップしました。

ワイド撮影で効果が得られやすいOM-1 MKⅡの進化

手振れ補正の進化
OM-1 / 7段→OM-1MKⅡ/ 8.5段

メキシコ・セノーテ「ドリームゲート」での1枚。真っ暗なフルケーブエリアに補助ライトを設置して撮影

メキシコ・セノーテ「ドリームゲート」での1枚。真っ暗なフルケーブエリアに補助ライトを設置して撮影

撮影機材

撮影機材

真っ暗なケーブの奥では高感度設定だけでは良好な露出は得られません。今回の進化で手振れ補正が8.5段に進化したおかげでこの作品が撮れました。シャッター速度1/8という超スローシャッターを使ったこの撮影でも8.5段の手振れ補正が機能して微妙なカメラの動きの影響を受けずに撮影できました。水中でプカプカ浮いた状態での撮影でもOM-1MKⅡならビシーっとしたシャープな作風が得られます。私がOM-1MKⅡを導入した一番の理由がこの手振れ補正の進化です。

撮影モード

A(絞り優先オート)

絞り

F2.8

シャッター速度

1/8

ISO感度

AUTO/5000

露出補正

-2.7EV

フラッシュ

OFF

撮影地

メキシコ

カメラ

OM SYSTEM OM-1MKⅡ

レンズ

OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL8mmFisheyeF1.8PRO

ハウジング

AOI UH-OM1

レンズポート

AOI DLP-05&AOI ER-PN_PN-24

ブラケット

MPBK-02

アーム

AOI AMC1-BB-10

クランプ

AOI CP-02-WHT

ストロボ

AOI Q1RC-WHT

まったく同じ環境ではありませんが、2枚ともに同じダイビングポイントでほぼ同じ設定で撮影したOM-1とOM-1MKⅡの比較です。

OM-1

OM-1

OM-1MKⅡ

OM-1MKⅡ

絞り値もシャッター速度も微妙に異なりますが、OM-1MKⅡで撮影した作品の方がややシャープに感じます。季節と時間帯はほぼ同じ。ハウジング、レンズ、ブラケットは同じものを使用しています。

ライブGNDを使った半水面

メキシコ・セノーテ「ニクテ ハ」での1枚

撮影機材

撮影機材

蓮の葉が綺麗なセノーテで噂の「ライブGND」を試してみました。水面下と空気中では3EV程度の輝度差があり、水面より上の空気中に当たる部分は白飛びしやすいので、ハーフNDフィルターのようなグラデーションの減光効果をかけていきます。

ピントを合わせながら水面付近にグラデーションのスタート位置をセットして、NDフィルターの濃度を変えて輝度差をなくしていきます。GNDの濃度(ND段数2,4,8)とフィルターの効き具合(Soft,Medium,Hard)を組み合わせてその効果をモニターで確認しながら調整することができます。グラデーションのスタート位置や角度も自在に変更ができる優れもので初めての使用でも直感的に使いこなせました。半水面の上下で露出を変えた撮影が簡単にできたのは驚きです。

イメージしていたとおり、半水面の水面部分に露出の変化基準をセットして、どのくらいのNDフィルターを掛けるかを選ぶだけの簡単な操作でした。ライブGNDを使った作品と不使用の作品を並べてみるとこの効果の凄さを瞬時に理解が可能ですね。半水面を撮ることが多くなりそうです。

撮影モード

P(プログラムオート)

絞り

F4.0

シャッター速度

1/160

ISO感度

AUTO/200

露出補正

±0.0EV

フラッシュ

OFF

ライブGND フィルタータイプ

ハード

ライブGND

GND8(3EV)

撮影地

メキシコ

カメラ

OM SYSTEM OM-1MKⅡ

レンズ

OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL8mmFisheyeF1.8PRO

ハウジング

AOI UH-OM1

レンズポート

AOI DLP-05&AOI ER-PN_PN-24

ブラケット

MPBK-02

アーム

AOI AMC1-BB-10

クランプ

AOI CP-02-WHT

ライブGND 不使用 

ライブGND 不使用

ライブGND使用

ライブGND使用

ライブGNDの設定方法


あらかじめメニューからボタン設定でRECボタンにGNDを割り振っておいた。RECボタンを押しながらダイヤルを回すとフィルタータイプとNDフィルターの濃度を選ぶ画面を表示させることができる。選択が終わったら十字キーとダイヤル操作でグラディーションの位置と角度を調整することが可能になります。

マクロ撮影で効果が得られやすいOM-1MKⅡの進化

被写体認識AF

沖縄・今帰仁「今泊コーナー」で動き回るアケボノハゼを捉えた一枚

沖縄・今帰仁「今泊コーナー」で動き回るアケボノハゼを捉えた一枚

撮影機材

撮影機材

被写体認識AFはモータースポーツ、飛行機、鉄道、鳥、動物(犬・猫)の5種類が用意されたOM-1から、新たに「人物」が追加されました。水中では人物の被写体認識は使わないにしても、進化された被写体認識は,水中でのマクロ撮影で更に撮影がしやすくなっています。OM-1の被写体認識「鳥」が水中シーンで「魚を追いかけるAF」と話題になってカメラを買い替えた! という方も少なくないと思います。

他社の被写体追従AFに比べて水中シーンでの魚を認識する能力が群を抜いて長けているのには私も驚きました。その被写体認識「鳥」が更に精度が上がって動きの速い被写体にもしっかりと追従しています。OM-1MKⅡの進化の中でこの「AI被写体認識AF(鳥)」の正確さとクイックさ、そして魚を認識する速さが際立っています。

検証ではムービーでアケボノハゼを撮影しています。前後左右にフラフラと浮遊するハゼを手持ちでハゼを追いかけていますが、90mmマクロの薄い被写界深度でも、しっかりとピントを合わせ続けています。OM-1MKⅡはマイクロフォーサーズ機なので90mmのマクロレンズというとフルサイズ機では180mm相当の望遠レンズに該当するわけです。

フルサイズ機で180mmのレンズを付けたらとても水中に持っていこうという大きさにならないはずです。しかし、このOM-1MKⅡとAOI UH-OM1の組み合わせであれば小型軽量、TGシリーズよりほんの一回り大きいサイズの撮影システムにも関わらず、高度な撮影が簡単に行えます。水中重量が気になる方には、フロートシステムを併用すれば、非力な方でも扱いやすいのも魅力の一つと言えるでしょう。

マクロレンズを使った水中撮影で動きのある被写体をフレームに入れ続けて、しかもピントを合わせ続けるムービー撮影は今までかなり難易度が高いと敬遠されていましたが、OM-1MKⅡのおかげでこの手の撮影を楽しむ方も増えそうです。

M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO/180mm相当(35mm判換算)を使用したマクロ撮影。

手振れ補正OM-1 / 7段→OM-1MKⅡ/ 8.5段に向上した手振れ補正の効果と進化した被写体認識AFで撮るアケボノハゼ。

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F8.0

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO

露出補正

-0.3EV

フラッシュ

OFF

撮影地

沖縄

カメラ

OM SYSTEM OM-1MKⅡ

レンズ

M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO

ハウジング

AOI UH-OM1

レンズポート

AOI FLP-09

ブラケット

MPBK-02

アーム

AOI AMC1-BB-6

クランプ

AOI CP-02-WHT

このほかにも清水が気に入った進化ポイントに、「ムービー撮影中の、オートホワイトバランスのロック」があげられます。ムービーをオートホワイトバランスをに設定して撮影していると、アングルや光の向きが変わった際にホワイトバランスが変化して不自然な感じが残る場合があります。そんな時には、一時的にオートホワイトバランスを固定することができます。

メニューからボタンの設定/動画で任意のボタンに割り振ることが可能です。これは便利です。OM-1MKⅡになって進化したポイントにオートホワイトバランスの安定と最適化が図られています。この機能との相乗効果が狙えます。

というわけで、新しくデビューしたOM SYSTEM OM-1 MKⅡの水中撮影での進化をここ3ヶ月間使ってみた感触をお伝えしました。

ボディーサイズもデザインもまったく同じなのでインパクトのある進化を強烈に感じないモデルチェンジだと思っていたら、基本的な撮影性能がアップしていることに驚きました。水中用に専用チューニングを施されたわけではないのですが、今まで撮れなかったシーンの撮影が、確実に少しづつ増えていくことが私にとってすごく嬉しいです。まだまだ、検証できていない項目やシーンもあるので、さらにテスト撮影を進めます。

またどこかのチャンスで新しく発見したこと、新しいテクニックをご紹介いたします。

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6月26日(水)20:00〜
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writer
PROFILE
1964年生まれ。水中写真や海辺の風景を撮り続けている。執筆や撮影を行ないながら、沖縄・那覇にて水中写真教室マリーンプロダクトを主宰。 また、カメラメーカーの研究開発にも携わり、水中撮影モードや水中ホワイトバランスの開発アドバイザーも務める。1998年にデビューしたOLYMPUS C900Zoomから最新機種まで全てのOLYMPUS水中モデルのチューニングテストを行なっている。カメラ機材に精通し、機材の特性を生かす能力が評価され、水中撮影アクセサリーメーカーのアドバイザーやテスト撮影の要望も多い。執筆活動では、水中撮影機材の解説や撮影の仕方、楽しみ方の記事をPADI Japan/デジカメ上達クリニック、OMDS/水中デジタルカメラ・インプレッション、マリンダイビング.ウェブ/水中デジカメ撮影教室、オーシャナ/カメラレビューを現在連載中。最近では、「清水淳のマンツーマン水中写真教室」が好評いただき熱意あふれるフォトグラファーたちと一緒に撮影をしている。
公式ホームページ https://shimizu.marine-p.com/ 公益社団法人日本写真家協会会員。
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