ミラーレス一眼 水中撮影徹底ガイドby清水淳(第20回)

ミラーレス一眼被写体別撮影テクニック「ウミウシ」の撮り方 後編

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ムラサキウミコチョウ/フラッシュOFF

前回に引き続き、AOIの新製品「AOI FLP-09」とOM SYSTEM社のM.ZUIKO DIGITAL90mmF3.5 Macro IS PROを使ったウミウシ撮影を解説します。使用するカメラはOM SYTEM OM-1。2月22日にOM-1MarkⅡが発売になりましたが、水中撮影においての基本性能はOM-1もOM-1MarKⅡもほぼ同じ、そして外観、寸法、ボタン、ダイヤルのレイアウトは2機種とも同じということで水中ハウジングは引き続きAOI UH-OM1が使用可能となります。

今回はウミウシ撮影ということですが、2回に分けてじっくり解説していきます。前半のパートではウミウシ撮影向きのカメラ設定や使いたいレンズの解説をしました。

後半のパートでは実際に海に出て、前編でセットアップしたカメラでウミウシの撮影を行い、撮影のコツと撮影データを交えながら撮り上がった作品について解説していきます。

前編で設定・解説した内容

  • ● 露出モードM(マニュアル)
  • ● シャッター速度は1/250
  • ● 絞り値はf11.0
  • ● ISO感度はAUTO(上限は6400)
  • ● ボタンの設定
  • ● ダイヤルとレバーの設定
  • ● ピント合わせはS-AF
  • ● Q1RCの設定はi-macro
  • ● LED撮影はQ1RCのLEDを照射
  • ● 極小のウミウシには90mmMacroのS.MACROで撮影倍率をアップさせる

詳細は前編を参照

今回はOM SYSTEMの新しいマクロレンズM.ZUIKO DIGITAL90mmMacro F3.5 IS PROを使った撮影です。90mmMacroレンズにはS.MACRO機能が搭載され、クローズアップレンズを使わずに撮影倍率4倍と超高倍率撮影が可能になります。普段使用しているM.ZUIKO DIGITAL60mmMacroの撮影倍率が2倍なので、単純比較でいつもの2倍大きく撮れます。小さな被写体も迫力の大きさに写るわけです。

今回の撮影では、普段は貴族のレンズと呼ばれる高価な超高倍率クローズアップが必要なほどの極小のウミウシを狙ってみました。3~5㎜程度の極小ウミウシの撮影となると、そのウミウシたちがどこに隠れているのか、私にはまったく見当がつかないので、カリスマガイドさんにヘルプをお願いしました。沖縄本島那覇をベースに可愛らしいマクロの被写体から豪快なワイド撮影まで幅広くフォト派ダイバーをケアするカリスマガイド「fillcolor」の出口さん。もちろんご本人もデジタル一眼で撮影されています。彼に見栄えが良いカラフルなウミウシをオーダーしてみました。

ウミウシ種類別撮影解説

フジナミウミウシ

◾️フラッシュON
フジナミウミウシ/フラッシュON

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/200

露出補正

±0.0EV

フラッシュ

ON/RC

Q1RCのモード

i-macro

フラッシュ補正

±0.0EV

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

◾️フラッシュOFF
フジナミウミウシ/フラッシュOFF

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/6400

露出補正

+0.7EV

フラッシュ

OFF

Q1RC

LED弱

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

ストロボON/OFFを比較すると、大きく発色が異なり両方共に楽しめたフジナミウミウシの撮影。前回のカメラセットアップで、OKボタンを押して表示されるスーパーコンパネ上で、フラッシュのONとOFFを設定して撮影します。ONの場合には、ISO感度はAUTOを選択した場合でも自動でISO200に設定されます。フラッシュOFFを選んだ場合には、照射するLEDの強さや環境輝度に応じて、自動で必要な感度を選択する制御になります。

ウミウシの撮影では、往々にしてライトが強いとウミウシがライトを嫌がり逃げ出し、撮影がしづらくなる経験があったので、今回も弱めにLEDを照射していました。(LEDが弱くても、ものすごく逃げ足の速いウミウシたちでした…)

LEDを最大光量にセットすればISO感度はそれに応じて低感度になりますが、使用目的がSNS掲載であれば最大ISO6400でもノイズは気になるレベルではないかと思います。同じ被写体で、フラッシュONとOFFを撮り比べると発色やシャープネスの具合も変わるので、そのバリエーションが楽しめました。

コヤナギウミウシ

◾️フラッシュON
コヤナギウミウシ/フラッシュON

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/200

露出補正

±0.0EV

フラッシュ

ON/RC

Q1RCのモード

i-macro

フラッシュ補正

±0.0EV

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

◾️フラッシュOFF
コヤナギウミウシ/フラッシュON

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/6400

露出補正

+0.7EV

フラッシュ

OFF

Q1RC

LED弱

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

あまりウミウシに詳しくないので、覚えていないだけかもしれませんが、このウミウシは初めて見たような気がします。どこの部分が触覚なのか、それともどこかに退化した目があるのか、わからないままに相当数シャッターを切っていました。

撮影当日、フードを忘れてしまい、それでいて85分も撮影していたので体温が下がり、浮上後、口数も少なくなるほどの低体温になりました。3~5mmという、あまりにも小さなウミウシの撮影でしたがAOIのフード付き拡大鏡「UMG-01」のおかげで、ショット数に対してピンボケになる確率は相当に低かったです。F11まで絞っての撮影でしたがM.ZUIKO DIGITAL90mmMacroIS PROのS.MACROはレンズ直前で被写体を捉えることになるので、被写界深度は倍率の高いクローズアップレンズを装着したくらいの感覚です。もう一絞り絞ってF16を選んでも良いかと思うほど、ピントの合う幅が薄いです。

このような撮影環境では、カメラをしっかりと固定します。左手でレンズポート先端を持つとぶれにくくなります。ポートを持った左手は地面につけることが最大のコツです。壁についているウミウシの撮影なら左手の指で壁に接地して、カメラを左手の上におくと良いでしょう。息を吐き気味に呼吸して、シャッターを切るタイミングでは、息を吐いた状態で止めると身体が沈み、ピント合わせが安定します。息を吸って止めると身体がふわふわと浮き気味になり、カメラが安定しなくなります。カメラが前後に1mmでも動けばピンボケになります。

ダイビングギヤの選択のコツは、フィンは重めのゴム製フィンであれば足が浮きにくく撮影がしやすいです。ウエイトはやや重めに調整すると良いでしょう。

フジムスメウミウシ

■フラッシュON
フジムスメウミウシ/フラッシュON

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/200

露出補正

±0.0EV

フラッシュ

ON /RC

Q1RCのモード

i-macro

フラッシュ補正

±0.0EV

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

■フラッシュOFF
フジムスメウミウシ/フラッシュOFF

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/6400

露出補正

+1.3EV

フラッシュ

OFF

Q1RC

LED弱

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

今回の撮影ではウミウシを画面に対して大半を占めるアップの状態ではなく、やや引いた状態で、まるでワイド撮影をしているような感覚を生かして撮影したいと考えていました。以前はクローズアップレンズを着けて、画面から溢れてしまうほどの倍率で撮影していた時期もありました。アップのカットが良くないわけではありません。しかし、やや引いて背景を入れ込んだ撮影を心がけると奥行きが感じられ、立体感と今にも動きそうなリアル感のあるカットになります。好みの問題と目的によって撮り方は自由ですが、被写体の種類を識別するならピントの幅が広くアップの写真のほうが良いかもしれません。

あくまで清水流ということで。

この新しい90mmマクロレンズのS. MACROの特徴は倍率が高く、大きく被写体を映し出すのと同時に、画面の隅々まで歪みがなく描写できることです。通常の高倍率撮影では解像感を得るために被写体を中央に置いて描写力をキープするのですが、この90mmMCのS.MACROであれば、被写体を端に配置させて背景の空間を生かす手法を楽しむことが可能です。皆さんも是非、ワイドっぽいウミウシ撮影を試してみてください。

ムラサキウミコチョウ

■フラッシュON
ムラサキウミコチョウ/フラッシュON

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/200

露出補正

±0.0EV

フラッシュ

ON

Q1RCのモード

i-macro

フラッシュ補正

±0.0EV

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

■フラッシュOFF
ムラサキウミコチョウ/フラッシュOFF

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/1000

露出補正

±0.0EV

フラッシュ

OFF

Q1RC

LED強

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

このムラサキウミコチョウには驚かせられました。1ダイブ目が終わって水面休息時にガイドの出口さんに、アドバイスをもらいます。

「ムラサキウミコチョウってきれいだけど、どう撮っていいかわかんないよ! だいたいどっちが前なのか後ろなのか分かんないし~」とかなり乱暴なコメントをする私。
出口さんはそれに対し「実は、ムラサキウミコチョウには目があるんです。よーく見ると黒い小さな点が二つあり、その目がある方が前側です」と優しくアドバイスしてくれました。

それと「ムラサキウミコチョウは水中を羽ばたいて飛ぶ」ということは聞いていましたが、本当に、フラッシュONの撮影中に羽ばたいて飛んでいってしまったのです。

これには驚きました。作品を見ていただくと、今にも飛び立ちそうな感じがありますよね?

このムラサキウミコチョウの撮影では、あまり動かないウミウシだったので発色を良くしようとLEDの光量を最大にしています。そのLEDが明るくて嫌だったので飛び立ったのでしょうか? なんとも不思議なことです。咄嗟のことで動画のRECボタンを押すこともできませんでした。

パスタチゴミノウミウシ

■フラッシュON
パスタチゴミノウミウシ/フラッシュON

撮影モード

M(マニュアル)

絞り

F11

シャッター速度

1/250

ISO感度

AUTO/200

露出補正

±0.0EV

フラッシュ

ON

Q1RCのモード

i-macro

フラッシュ補正

±0.0EV

ホワイトバランス

水中

仕上がり

水中

フォーカス

シングルAF

フォーカスレンジ

S.MACRO

今回の撮影で一番のお気に入りの作品です。このウミウシは透明な蓑を被っていました。その透明なベールの中に鮮やかな色彩がいっぱいに詰まっています。動きがすごく速く、撮影にかなり苦労しました。AF/オートフォーカスの食いつきがかなり良かったのでピント合わせには苦労はないのですが、一度レンズを被写体から外すと再びレンズを通じて被写体を捉えることが難しかったです。

このウミウシにも目がありました。撮影時には気がつきませんでしたが。

OM-1とAOI UH-OM1の組み合わせがウミウシ撮影に向いていると感じたのは、拡大鏡UMG-01を覗きながら被写体にピントを合わせてシャッターを切り、そのまま撮影後の画像を自動再生で確認ができること。もし一眼レフ機での撮影であれば、OVF(光学ファインダー)を見ながら撮影して、確認は液晶モニター画面でしなければなりません。撮影と撮影後の確認で、目の位置と距離を変えて確認しなくてはならず、撮影ごとに被写体をレンズを通して探す作業が必要になるわけです。液晶モニターを見ながら撮影のすべてを完結できる喜びは大きいですね。

また、Q1RCが優秀だとつくづく思いました。一つのデバイスでストロボ撮影とLED撮影のどちらもカバーできる。ストロボと別に大型LEDライトをハウジングに装着しなくて済む。重く大きな撮影システムを持ちたくない人たちに最適な撮影ギアですね。それでいてバッテリー容量が大きいので、一日中撮影していてもバッテリー切れになりません。最近ではケーブダイビングでもこのQ1RCをお供させています。

今回使用した撮影システム

カメラ

OM SYSTEM OM-1

レンズ

M.ZUIKO DIGITAL90mmMacro F3.5 IS PRO

ハウジング

AOI UH-OM1

レンズポート

AOI FLP-09

補助光

AOI USC Q1RC×2 (LED)

グリップ&ブラケット

MPBK-02

アーム&クランプ

AOI AMC-1BB-6 & AOI CP-02-SLR

拡大鏡

AOI UMG-01

いかがでしたか?
マニュアル露出撮影といっても撮影モードこそM(マニュアル)モードにセットしますが、最終的な露出コントロールは高性能なカメラに任せます。絞りとシャッター速度は撮影の目的によって定めますが、ストロボの発光量の調整やLEDライトの効き具合はカメラ任せです。撮影では被写体とのやり取りに専念できるし、失敗が少ないのでビギナーからプロまでこの撮影手法をお勧めします。

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writer
PROFILE
1964年生まれ。水中写真や海辺の風景を撮り続けている。執筆や撮影を行ないながら、沖縄・那覇にて水中写真教室マリーンプロダクトを主宰。 また、カメラメーカーの研究開発にも携わり、水中撮影モードや水中ホワイトバランスの開発アドバイザーも務める。1998年にデビューしたOLYMPUS C900Zoomから最新機種まで全てのOLYMPUS水中モデルのチューニングテストを行なっている。カメラ機材に精通し、機材の特性を生かす能力が評価され、水中撮影アクセサリーメーカーのアドバイザーやテスト撮影の要望も多い。執筆活動では、水中撮影機材の解説や撮影の仕方、楽しみ方の記事をPADI Japan/デジカメ上達クリニック、OMDS/水中デジタルカメラ・インプレッション、マリンダイビング.ウェブ/水中デジカメ撮影教室、オーシャナ/カメラレビューを現在連載中。最近では、「清水淳のマンツーマン水中写真教室」が好評いただき熱意あふれるフォトグラファーたちと一緒に撮影をしている。
公式ホームページ https://shimizu.marine-p.com/ 公益社団法人日本写真家協会会員。
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